医学教育つれづれ

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日本における医学部学生を対象とした健康格差教育のプログラム開発と評価:事前・事後研究デザイン

Program development and evaluation of a health equity education for undergraduate medical students in Japan: a pre–post study design

Tamaki Urban &Koki Yokota

Article: 2535411 | Received 25 Apr 2024, Accepted 11 Jul 2025, Published online: 21 Jul 2025

Cite this article https://doi.org/10.1080/10872981.2025.2535411

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10872981.2025.2535411?af=R#d1e269

研究の社会的背景と問題意識

日本におけるSGMの現状

  • 日本では成人60,000人を対象とした調査で8.9%がSGMとして自認
  • SGM個体484名の調査では、49.6%が医療現場で不適切な経験、48.1%が受診を躊躇する経験を報告
  • アメリカでも類似の状況で、SGM若者は非SGMと比較して適切な医療を受ける可能性が71%低い
  • 医療現場での偏見や差別が受診抑制の要因となっている

医学教育の国際比較

欧米の状況:

  • アメリカ・カナダの医学部85校中98.8%がSGM健康教育を実施
  • 平均11時間の講義・訓練時間(それでも不十分とされる)
  • ハーバード医学校では3年間の包括的改革により学生の能力向上を実現

日本の現状:

  • 医学部の約半数のみがSGM健康教育を実施
  • 講義時間は平均約1時間と極めて限定的
  • 基礎知識のみで包括的な健康課題はカバーされていない
  • 文部科学省の医学教育モデル・コア・カリキュラムでは重要性を強調するも実装は不十分

研究目的

  1. 日本の医学部学生向けSGM健康教育プログラムの開発
  2. 共感性レベルとSGMアイデンティティを考慮したプログラム効果の評価
  3. 参加者の満足度評価

方法

  • 対象: 医学部1年生155名(最終分析対象112名、平均年齢18.5歳)
  • プログラム: 3時間(2週間にわたって1.5時間×2回)
  • 内容: ハーバード医学校のSGM健康コア・コンピテンシーに基づき、日本の文化的背景に適応
  • 評価指標:
    • LGBT認識尺度(SGM集団への不公平性の認識と学習意欲)
    • 同性愛者・ゲイ男性に対する態度尺度(ATLG-20)
    • 共感性測定尺度(MES)

主な結果

参加者特性

  • 82.1%がSGM以外、2.7%がSGM、15.2%が不明と回答
  • 77.7%が以前にSGM教育を受けた経験あり
  • 42.0%がSGMの知人がいる

教育効果

  • LGBT認識尺度: 平均2.0点向上(Cohen's d = 0.58、中程度の効果)
  • ATLG-20: 平均6.4点向上(Cohen's d = 0.33、小~中程度の効果)
  • 共感性レベルやSGMアイデンティティに関係なく、すべての学生群で一貫した改善が見られた

満足度

  • 99.1%が満足と回答
  • 100%がプログラムを有用と評価
  • 97.3%が将来の臨床実践で学んだ内容を活用する意向

考察

主要な発見の意義

1. 短時間教育の効果性

  • わずか3時間でも有意な意識・態度改善が達成
  • 欧米の先行研究と一致する結果
  • 本の時間制約のある教育環境でも実施可能性を示唆
  • ただし効果量は中程度で、慎重な解釈が必要

2. 共感性の役割

  • 高共感性学生は基線でより高い認識・態度を示す
  • しかし、プログラム効果に共感性レベルの調整効果なし
  • プログラム内容自体が共感性レベルに関係なく効果的
  • 共感性が未発達な学生にも有効であることを示唆

3. SGMアイデンティティの影響

  • SGM学生は健康格差をより認識(個人的経験の反映)
  • しかし、態度改善には差がない
  • 内在化された偏見の可能性(40%のLGB個体が異性愛者への潜在的好意)
  • プログラム効果はアイデンティティに関係なく汎用的

教育学的含意

1. カリキュラム設計

  • 講義とアクティブラーニングの組み合わせが効果的
  • 文化的適応(日本の事例使用)が重要
  • 包括的トピックカバレッジの価値
  • 段階的実施(2週間)の利点

2. 学習者の多様性への対応

  • 一律のプログラムでも多様な学習者に効果
  • アイデンティティ特異的調整は不要
  • 包括的・普遍的配信の価値を支持

日本の医学教育への示唆

1. 実装の実現可能性

  • 既存カリキュラムへの統合可能
  • 学生の高い受容性
  • 文化的障壁の克服可能性

2. システム変革の必要性

  • パイロット努力を超えた継続的統合
  • 医学教育改訂の困難さを考慮した段階的アプローチ
  • 教員開発の重要性

限界と今後の課題

  • 対照群がない前後比較研究
  • 自己報告による評価
  • SGM学生の少数(3名)
  • 長期的効果の未評価

実践的推奨事項

教育機関への提言

  1. 最低3時間のSGM健康教育の必修化
  2. 既存心理学・公衆衛生コースでの統合
  3. アクティブラーニング要素の組み込み
  4. 文化的に適応された教材の開発

政策への含意

  1. 医学教育カリキュラムガイドラインの改訂
  2. 教員研修プログラムの開発
  3. 継続的品質改善システムの構築
  4. 多職種連携教育への拡張

研究コミュニティへの貢献

  1. 非欧米圏でのSGM健康教育エビデンス
  2. 短時間介入の効果性実証
  3. 文化的適応の重要性
  4. 汎用的プログラムの有効性