医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。最近はyoutubeも

麻酔科研修医における麻酔薬のゲーム型学習の有効性:パイロット研究

Effectiveness of game-based learning of anesthetic drugs in anesthesiology residents: a pilot study
Santi Anchalee, Chanya Deekiatphaiboon, Sumidtra Prathep, Wilasinee Jitpakdee
BMC Medical Education 2026;26:1700
https://doi.org/10.1186/s12909-026-10011-5

 

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背景
タイのPrince of Songkla大学麻酔科は、コンピテンシー基盤型の研修カリキュラムを採用している。臨床薬理や全身麻酔の基本原理は、今も1年目前半の講義で教えている。筆者らによれば、講義で得た知識を臨床に結びつけられない専攻医がいる。シリアスゲームは学習者のエンゲージメントと動機づけを高めるとされ、Happy FamilyやGridlockEDのようなカード・ボードゲームも医学教育で使われてきた。Edwardsらのスコーピングレビューは、アナログのシリアスゲームについて追加研究が必要だとしている。これを受けて筆者らはカードゲーム「Basic Pharmacology for Anesthesia」を作り、1〜3年目の専攻医で知識の向上と満足度を評価した。

方法

対象は麻酔科専攻医19名。全員から同意を取得し、倫理委員会の承認を得ている

カードは55枚で、11薬剤×5枚の構成。対象薬剤はpropofol、thiopental、ketamine、midazolam、etomidate、cisatracurium、rocuronium、succinylcholine、sevoflurane、desflurane、nitrous oxide

1薬剤の5枚は、薬剤名、用量、作用発現と持続時間、禁忌と副作用、代謝または薬理をそれぞれ扱う

薬剤は「自施設で使えること」と「タイ国内で一般的に使われること」を基準に選んだ。オピオイドと局所麻酔薬は、プレイ時間を短くするため今回は外し、第2段階で扱う予定

内容は筆頭著者が作成し、麻酔科専門医である共著者が承認した

ルール:3〜8人でプレイし、各自に5枚を配る。手札から1枚を捨てて時計回りに次の人へ渡し、山札から1枚引く。次の人は、渡された札を取るか山札から引くかを選び、1枚捨てる。1薬剤の5枚を揃えた人が勝者となり、そのセットを他の参加者に共有する。残りが2人になるまで続け、最後に勝者を1人決める

実施は2024年2月7日の1回のみ。介入の詳細はTIDieRに沿って報告されている

評価には同一の短答記述式テストを使い、ゲーム前と直後に実施した。満点は20点で、内訳は導入薬8点、揮発性麻酔薬4点、筋弛緩薬8点。作成者は麻酔科専門医3名。回答はゲームに含まれる11薬剤に限定させた

満足度は6項目の5段階リッカート尺度で測り、自由記述はテーマ別に分類した

サンプルサイズは、口唇口蓋裂治療を扱ったシリアスゲーム研究(医学生対象、17点満点で12.23→14.43、SD 1.66)を参照し、単一母平均の検定として算出した。結果はn=4.46で、必要数を5とした

解析はWilcoxon符号付順位検定、R 4.3.3を使用

結果

参加者の内訳は1年目8名(42.1%)、2年目4名(21.1%)、3年目7名(36.8%)。男性は8名(42.1%)

平均(SD)の前後比較は以下のとおりで、いずれもp<0.001

    • 導入薬:5.00(1.18)→7.47(0.66)
    • 揮発性麻酔薬:2.59(0.69)→3.92(0.25)
    • 筋弛緩薬:6.67(0.79)→7.51(0.54)
    • 合計:14.26(1.55)→18.91(1.05)

  • 満足度の平均(SD)
    • 得られた知識:4.84(0.37)
    • 臨床への応用可能性:4.95(0.23)
    • 形式の適切さ:4.84(0.37)
    • 難易度の適切さ:4.68(0.48)
    • カード枚数の適切さ:4.42(0.69)
    • 全体満足度:4.84(0.37)
    • 合計:28.58(1.98)/30点
  • 自由記述で出た改善案と指摘
    • 1回あたりの人数を制限する
    • カードの内容を全員に見せる
    • 絵柄とデータを対応させる
    • 文字が小さい、カードが薄い、サイズが大きすぎて扱いにくい

考察・結論

知識の向上幅は他のシリアスゲーム研究と一致するとし、例として薬理カードゲームのMuthiyanらの報告を挙げている。1年目の関連講義は8月で、研究は2月だった。講義から間もないのにプレテストが低かったことから、ゲームは復習と知識の補強に役立ちうるとしている。3年目の上昇については、基礎概念を忘れていた可能性を挙げた。

プレ・ポストの得点が学年間で同程度だったことについては、従来の講義では知識が十分に定着しないことを示唆すると解釈している。理由として2つの可能性を挙げる。1つは受講講義数の差で、1年目31コマ、2年目11コマ、3年目13コマ。もう1つは、1年目が基礎中心で2・3年目は応用中心という講義内容の違いである。

  • 本研究はゲーミフィケーションではなく、ゲーム自体で学ぶシリアスゲームである
  • 簡便で低コストなので、資源の限られた環境で特に有用かもしれない
  • デジタルゲームより開発期間が短いため、カード形式を選んだ

結論

「カードゲームによるゲーム学習は麻酔薬の知識を効果的に改善しうる」というもので、高い満足度とも関連していた。今後はエンゲージメントの測定や従来法との比較が必要としている。

 

限界
本文には次の記載がある。

  • 対象が単施設の麻酔科専攻医に限られ、一般化可能性に制約がある
  • 時間的制約があり、評価はゲーム直後のみで短期記憶しか測っておらず、長期保持は未評価
  • 短答式テストでは、ゲームで得た知識を十分に捉えきれない可能性がある
  • 対象薬剤を自施設で一般的な薬剤に絞り、他の導入薬、筋弛緩薬、揮発性麻酔薬は含めていない

考察では、テストの一部に別解がありうるという妥当性の問題と、講義群との比較対照がないことも挙げている。

学術的不正行為に起因する高等教育従事者のエモーショナル・レーバーの負担

The toll of tertiary educators’ emotional labor due to academic misconduct
Jane K. Forbes
International Journal for Educational Integrity 2026;22:28(オンライン公開日 2026年10月22日)
https://doi.org/10.1007/s40979-026-00239-5

 

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背景
学業不正(academic misconduct)は学生にも教員にも感情的な負荷の大きい問題だ。教員は組織の期待に沿って自分の感情表出を調整する。Hochschildのいう感情労働である。筆者は、この感情労働が教員の心身の健康を損ない、バーンアウトを加速させるとしている。教員バーンアウトと学生の不正の関連は先行研究で示されているが、高等教育の教員自身の言葉を大規模に分析した研究は不足していると筆者は述べる。研究の動機は、筆者自身が不正対応で感情労働を経験したことにある。自分の偏見や先入観は意識的に括弧に入れたとしている。

リサーチクエスチョンは2つ。

  • 高等教育の教員は学業不正に際してどのように感情労働を行っているか
  • その感情労働は教員にどのような負担をもたらしているか

理論枠組みにはHochschildの3テーマ(感情の制度的規制、感情の反応、組織の凝集性の維持)を用いた。

方法

  • 2024年秋、IRB承認(Southern New Hampshire University IRB-FY2024-26)を得て、米国東部の大規模大学の教員2,908人に学業上の誠実さに関する調査をメール送付した。筆者の他大学の人脈やSNSを通じたスノーボールサンプリングも併用した。
  • 回答者は416人。うち260人が自由記述に回答し、意味のある回答は計413件だった。「n/a」「none」は除外している。
  • 自由記述は2問。学業上の誠実さや不正に関する個人的経験と、その他言いたいことである。
  • 回答者の87.3%が非常勤・契約教員、11.1%が常勤教員だった。71.9%が4年制大学で教え、73.8%は学部生のみを担当していた。2人がカナダ、残りは米国の教員である。
  • 先行して行った内容分析(未発表)で「学業不正は感情の問題である」というテーマが帰納的に浮上し、それが本研究のきっかけになった。
  • 筆者は、非常勤教員は複数機関を掛け持ちすることが多いため、結果は高等教育機関全般に当てはまるとしている。

結果
回答には「feel」「frustrated」「angry」など感情を表す語が多く使われていた。教室での不正を放置すれば、学生の将来の倫理的行動に関わるという重荷を語る教員もいた。

① 感情の制度的規制
組織文化が、教員の感情面の環境を良くも悪くも左右していた。

  • 支援を受けた例:副学部長に相談して対処できた。方針が学生にも教員にも明確に伝わっている。学生指導部署と学科長が寄り添ってくれた。
  • 方針の分かりやすさは評価が割れた。「方針が実際何なのか分からない」という声と、「報告手順が明快」という声が併存した。
  • 否定的な声:「報告はするが、制度上の動機づけはすべて報告しない方向に働いている」(R226)。
  • 生成AIの疑い事例では、報告に時間がかかり過去の例から無罪になるだろうと考えて動けない声(R49)があった。疑いを確認する承認済みの手段がなく、手を縛られている感覚を語る声(R232)もあった。
  • 意図的な不正なのか学習支援が必要なのか、教員が判別できない状況があった。情報がないため学生の行動を適時に変える支援ができないという声(R14)も挙がった。筆者は、疲弊した教員が疑いを追及しないと、支援が必要な学生から支援の機会を奪いうるとしている。

② 感情の反応

  • 処罰より支援を求める声があった。学生が学業上の誠実さを学べる安全な場が必要だという意見(R94)である。
  • 学生側の反応の報告も多かった。問いただされて怒る、責任を教員に転嫁しグループで指導教員に苦情を申し立てる(R145)、電話で怒鳴り脅す(R8)といった例である。
  • 苛立ちながらも「不正を見逃せば自分の誠実さが損なわれる」として報告を続ける声(R37)があった。
  • 匿名の学生授業評価が下がることを恐れる声(R76)もあった。不正への対応が職の安定に関わるという懸念である。
  • 誠実に学ぶ学生がいるから仕事に意味があるという声(R19)があった。留学生や生活上の困難を抱える学生への共感も示された(R160、R57)。

③ 組織の凝集性の維持

  • 肯定的な例:不正を疑えば調査担当者に直接つなげる仕組みがある。「不正対応は自分たちの仕事ではない。自分たちは学びたい学生を教えるためにいる」(R233)。大学が毎回適切に対処し、結果も知らせてくれる(R221)。
  • 否定的な例:方針と実行の欠如が教員を燃え尽きさせ、良い教員を去らせている(R35)。状況が変わらなければ長くは続けない(R44)。学生指導部署から「学びの機関なのだから教えるのはあなたの責任」と申し立てを退けられ、gaslightされたと感じた例(R107)もあった。
  • 上層部に判断を覆された経験が、その後の報告行動に影響していた。「報告をやめた」(R54)。「明白な剽窃の証拠を示したが学生側に有利な裁定だった。以来報告をためらう」(R33)。「どうせ覆されるなら最初から合格点をつけて面倒と感情的な面談を避ける」(R72)。
  • 組織への不信を語る声もあった。管理部門が10年以上執行を回避してきた(R207)。履修継続と収入を優先している(R139)。認証評価は方針があるかしか確認せず、報告しない教員が「良い教員」と見なされる(R139)。

提言

  • 学業上の誠実さに関する研修:方針と手順を明確にし、教員の備えを高める
  • 処罰中心でなく肯定的な枠組みで対話する
  • 学生支援:審査過程でのピアサポート、各段階での権利と選択肢の十分な説明
  • 組織としての説明責任
  • 報告書式の標準化
  • 同僚や学生指導部署とのコミュニケーションと支援
  • 処分決定での協働:学生の弁護・不服申立ての機会を含む多段階審査

個々の教員の感情調整より、感情労働の構造に組織が対処すべきだとしている。

 

結論

学業不正による感情労働が教員に感情的負担と職業上のバーンアウトをもたらしたと結論づけている。そのうえで、教員の感情労働を組織が認識することが最初の一歩だとする。感情的支援のネットワーク、学生の不正に対する組織の説明責任、手続きの透明性と公正さの強化が、教員の重い感情労働を軽くするとしている。

 

新規性

教員バーンアウトと学生の不正の関連は既に示されているものの、高等教育の教員自身の言葉を大規模に分析した研究が不足しているとし、その空白を埋める位置づけを明示している。

 

限界

対象が主に学部生を教える非常勤・契約教員に偏っている。雇用形態を広げれば結果は変わりうる。

回答者の多くがオンライン・遠隔の教員だった。組織からの疎外感が強かった可能性がある。遠隔教員と対面教員の帰属感の比較研究が必要としている。

医学生低学年の早期医療体験中に見られた不適切な行動は、将来の学業成績を予測する

Observed inappropriate behaviors during early medical exposure predict future academic performance
Takashi Kuroe, Hirokazu Fujita, Toshihide Awatani
Medical Teacher 2026
DOI: 10.1080/0142159X.2026.2749541

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背景

学業成績に関わる因子としては、入学前の成績や入試得点が知られている。近年はメンタルヘルス、動機づけ、性格特性、情動知能、社会的支援などの心理社会的因子も指摘されている。ただし心理的因子の研究の多くは自己申告式の調査に頼っている。回答が追加の学習支援につながると学生が知っていれば、社会的望ましさバイアスが入り込む。このため筆者らは、教員の観察記録のような、より客観的な指標で因子を探す必要があるとしている。

早期医療体験(early medical exposure:EME)は医療現場に直接触れるプログラムである。患者安全や患者への敬意のために規則を守ることが求められるので、教員や事務職員が学生の不適切な行動を客観的に観察できる。記録の枠組みが一度できれば、維持の手間は小さい。筆者らはこの点から、限られた教員資源でも実行でき、拡大もしやすい早期発見の方法になりうるとしている。

研究課題は「1年生のEMEで記録された不適切な行動のうち、どれがその後の学業成績を予測するか」。

方法

対象

高知大学医学部で2014〜2016年度にEMEを受けた1年生330名全員

休学・退学者を含め、全員の留年データと科目成績が得られたため、除外基準は設けていない

研究時点で全員が卒業していたため、倫理審査委員会はインフォームド・コンセントを免除し、オプトアウト方式をとった(IRB番号 2022-093、2022年11月29日承認)

 

EMEの内容

  • 必修で、4〜7月に1〜2週に1回程度、計11回
  • 構成はBLS研修、プライマリ・ケア、大学病院、福祉の4つ
  • オリエンテーションで、不適切な行動は教員・職員が記録し、EMEの最終成績に影響すると学生に伝えている

記録された不適切な行動

  • 無断欠席・遅刻:事前連絡のある病気や受診などは正当な欠席とした。事後連絡は原則として無断扱い。高熱で事前連絡が難しかった場合などはプログラム責任者が判断した。
  • 持参物の忘れ物:白衣、出席カード、名札など
  • 出席カード・名札の破損や紛失
  • 誓約書、レポート、アンケートの期限内未提出
    • 誓約書は患者のプライバシー尊重と個人情報の守秘を誓う内容
    • レポートは4本で、体験の振り返りを求めるもの。最終成績に反映される
    • アンケートは1本で、後輩のためのプログラム評価。最終成績に反映されないと明示されている
    • 長期の病気療養などの正当な理由がある遅れは除外した。PCの故障を事前に申し出た学生には貸出用PCを用意した
  • 不適切な服装:Tシャツ、ジャージなど
  • 大学病院への大きな荷物の持ち込み
  • 振り返りの途中退席、不要なスマートフォン使用

最終判断はプログラム責任者(Awatani)が行っており、筆者らは評価者間のばらつきは大きな問題ではないとしている。直接観察できない行動や自己申告データは使っていない。

 

成績指標

基礎医学期の各科目で最終成績が60点未満の科目数。合格ラインは60点

留年。高知大学では必修科目を1つでも落とすと留年となる

 

解析

入学日から初回留年までの期間をKaplan–Meier法で推定した

まず各行動について単変量解析(log-rank検定)を行った

p<0.10の変数をCox比例ハザードモデルに投入した

独立予測因子の有無で、成績60点以下の科目数をMann–Whitney U検定で比較した

解析ソフトはEZR。有意水準は p<0.05

 

結果

男性244名(73.9%)、女性86名(26.1%)。EME時の平均年齢は19.4歳(SD 2.0)。オプトアウトはなかった。

  • 単変量解析で初回留年と有意に関連したのは4項目。
    • 無断欠席(p=0.027)
    • 無断遅刻(p=0.017)
    • レポート期限超過(p<0.001)
    • アンケート期限超過(p<0.001)
  • 忘れ物(p=0.097)と大きな荷物の持ち込み(p=0.058)は関連の傾向にとどまった。
  • 多変量解析(Cox)で独立して有意だったのは2項目だけである。
    • レポート期限超過:HR 2.23(95%CI 1.21–4.13)、p=0.010
    • アンケート期限超過:HR 2.65(95%CI 1.36–5.16)、p=0.004
  • 多変量解析で有意でなかった項目は次のとおり。
    • 無断欠席 p=0.1198
    • 無断遅刻 p=0.1113
    • 忘れ物 p=0.2197
    • 荷物 p=0.5603
  • レポート期限超過群
    • 留年しやすかった(log-rank p<0.001)
    • 留年が最も多かったのは2年次(n=5)
    • 60点以下の科目数が有意に多かった(p<0.001)
  • アンケート期限超過群
    • 留年しやすかった(p<0.001)
    • 留年が最も多かったのは2年次と3年次(各n=5)
    • 60点以下の科目数が有意に多かった(p<0.001)

考察・結論

レポート期限超過の解釈

時間管理の弱さの表れと解釈している。

先行研究(West & Sadoski)は、自己申告式のLASSIで測った時間管理と1年前期の成績の関連を示していた。今回は観察記録に基づく時間管理の弱さでも成績との関連が見られた。さらに初回留年までの期間を追ったことで、時間管理の弱さが医学部全体にわたって長期的に影響することを示した、と筆者らは述べている。

時間管理は自己調整学習(SRL)の遂行段階に含まれる。このため提出期限の遵守はSRLの観察可能な指標になりうる、としている。

 

アンケート期限超過の解釈

成績に関係しないと知りながら期限内に出した学生は、EMEへの自律的動機づけを持っている可能性がある。

この解釈は自己決定理論(SDT)の観点によるものである。

 

実践への示唆

SRLの指導はEMEの内容に組み込む形で行う。

SDTに基づき、自律性・有能感・関係性を支えるフィードバックを行う。そのためのFDも必要になる。

介入後も行動が続く場合は、SRLやSDTだけでは説明できない要因を想定し、個別支援を検討する。

 

結論

期限内の提出ができなかった学生を早期に見つけ、理論に基づく支援につなげることが将来の学業上の成功を後押しする可能性がある、としている。

 

新規性

EMEで観察された不適切な行動とその後の学業成績の関連を調べた研究はない、としている。医学生の観察記録と後のプロフェッショナリズムの問題を結びつけた先行研究(Burns ら)はある。時間管理については、先行研究が自己申告(LASSI)だったのに対し、本研究は観察記録を使い、留年までの期間で長期的影響を見た点を違いとして挙げている。

限界

単一の日本の医学部で行ったため、一般化可能性は不明

学生本人の視点を探っておらず、SRLやSDTによる解釈は検証されていない。質的研究が必要

入学時の学力、障害や神経発達特性、社会経済的状況などの交絡因子を調整していない。経済的事情でアルバイトが必要な学生もいるため、関連の解釈には注意を要する

SRLは文脈に依存するので、講義、解剖実習、自習、臨床実習など他の学習活動に一般化しにくい

プログラムへの不満からアンケートを出した学生がいる可能性を検討していない

後ろ向き研究で、該当学生への支援は行っていない。前向き介入研究が必要

AIの普及で、現在の学生のレポート作成・提出行動は今回のコホートと異なる可能性がある

AIを活用した臨床研修および実践のためのコンピテンシー・マイルストーン・フレームワーク

A competency milestones framework for AI-augmented clinical training and practice
Nehal Khamis, Belinda Chen, Sean Tackett
Medical Teacher. 
DOI: 10.1080/0142159X.2026.2743047

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/0142159X.2026.2743047

 

背景

臨床の業務フローへのAI導入は、安全で責任ある利用を担保するコンピテンシー枠組みを研修プログラムが整えるよりも速く進んでいる。学習者が自力の臨床判断と手技を身につける前にAI支援ツールに触れると、AIの出力を監督し、疑い、必要なときに覆すことを学べない可能性がある。すでに能力を身につけた後の de-skilling もあり得る。著者らは内視鏡の先行研究を引用し、AIを日常的に使っていた内視鏡医でAIを外すと腺腫の自力検出が低下した関連を挙げている。

医学教育向けのAIコンピテンシー領域はいくつも提案されているが、AIをいつ導入すべきかを判断する発達段階がついていない。Ke らが never-skilling 回避のための段階的なAI導入モデルを提案しているが、その段階はコンピテンシー領域と結びついていない。

方法

AIがすでに臨床に入っている形の違う3事例を選んだ。

  • 消化器内視鏡(AIによる検出支援)
  • 乳房スクリーニング画像(AIによる読影支援)
  • 外来内科の診療録記載(カルテ記載・臨床推論・エビデンス検索を支援するAIスクライブ)

各事例について、業務フロー、医師とAIの役割、リスクとベストプラクティス、研修と指導への影響を文献で検討した。土台にしたのは、筆頭著者らが以前作った医療者教育者向けAIコンピテンシー・マイルストーン(6領域、novice〜expert)である。そこに臨床寄りの領域(自立した臨床パフォーマンス、スキル保持、患者コミュニケーション、透明性、プロフェッショナリズム)を加え、重複を統合した。

初稿の作成には生成AI(ChatGPT の GPT-5.4/GPT-5.5、Claude Opus 5)を使った。Claude は事例分析と枠組みの起草、ChatGPT は構造の一貫性と行動動詞の整合に使っている。その後、人による批判的吟味と改訂を6サイクル行い、臨床的妥当性・発達段階の整合・適用可能性について著者間で合意に達するまで続けた。この過程はFACETS枠組みを用いて補足図で示している。枠組みの構造、領域設定、準備性ゲートの設計、文献の解釈など概念上・方法上の判断は、すべて著者が行い検証したとしている。ヒトを対象とした研究ではない。

結果:5領域×5レベルの枠組み

領域は次の5つ。

  1. AIの基礎と臨床データリテラシー
  2. 倫理的なAI利用
  3. 安全・ガバナンス・システム統合
  4. 自立した臨床パフォーマンスとスキル保持(臨床推論と診療科固有の手技の両方を含む)
  5. 患者コミュニケーション・透明性・プロフェッショナリズム

レベルの位置づけは以下のとおり。

  • Level 1(novice):AIを安全に導入する前の基礎。領域1〜3ではAI・データ・倫理・安全・ガバナンスの基礎、領域4〜5ではAIが後で補強することになる臨床推論・臨床手技・コミュニケーション・プロフェッショナリズムそのもの。
  • Level 2(advanced beginner)=準備性ゲート(readiness gate):自立したAI活用診療に入る前に、元の臨床タスクを自力で十分こなせることと、責任あるAI利用に必要な知識と判断を示す発達上のチェックポイント。患者安全、領域4・5のスキル保持、領域1〜3のAI監督機能を支える狙いがある。
  • Level 3(competent):AI活用診療が始まる段階。人による監督、AI出力の批判的吟味、自己監査、自立した臨床スキルの意図的な保持に重点を置く。
  • Level 4(proficient):AIで生産性を上げつつ、AIが使えない・不確か・自分の判断と食い違うときにも対応できる。他者を指導し、現場のAI導入を支え、開発者や施設の管理者に妥当なフィードバックを返せる。
  • Level 5(expert):臨床とAIの知識を統合し、基準づくり、学術活動、職業規範の確立、施設・診療科・政策レベルの方針に関与する。

領域4を例にとると、Level 1で automation bias・de-skilling・never-skilling を含む認知的オフロードのリスクを説明でき、Level 3でAIの出力を見る前に自分の評価を立て、Level 4でAIが使えないときや誤ったときにも安定して診療でき、AIなしで推論する機会を意図的に作るといったやり方を手本として示す。

マイルストーンの動詞は、形成的フィードバック・自己評価・カリキュラム設計に使えるよう、観察可能で評価可能な行動を表すものを選んだとしている。全領域で同じレベルにいることは想定していない。臨床経験や元タスクの能力、導入されるAIツールに応じて、途中のレベルから入ることもある。元の臨床タスクにすでに熟達した医師は Level 2 の一部を満たしていても、Level 3 に進む前にAI固有の準備性マイルストーンを満たす必要があると例示している。

適用例:外来内科のアンビエントAIスクライブ

内科医がすでにAIスクライブを使っていたことと、多くの研修プログラムに関係することから、この例を選んだ。文献と業務フローのレビュー、現場の文脈に合わせたレベルのカスタマイズ(準備性ゲート基準を含む)、著者による合議での精緻化の3段階で作った。主な記述は次のとおり。

  • 領域4 Level 1:カルテ記載は単なる記録作業ではなく、臨床推論を支える認知行為であると説明できる。
  • 領域4 Level 2:AIスクライブ導入前に、自立した臨床推論と記載能力を検証済みであること。教員がレビューした複数の診療で、定められた水準のカルテを自力で書けることを含む。
  • 領域1 Level 2:AIスクライブの限界(ハルシネーション、話者の取り違え、文脈の欠落)と、報告されている精度が自施設の文脈で意味をもつかを批判的に評価できる。
  • 領域4 Level 3:AI生成記録を見る前に自分の評価を立て、自分の推論とAI出力を比べて欠落・不正確・根拠のない結論を見つける。定期的にAIなしで記載し、スキルが保たれているか確かめる。
  • 領域2 Level 3:AI記載のバイアス源(英語を母語としない患者での格差、心理社会的内容の軽視など)を見つける。
  • 領域3 Level 3:精度、エラーの種類、修正にかかる負担をモニタリングする。
  • 領域5 Level 3:患者にAIスクライブの使用を説明し、アンビエント録音の同意を得て、AI生成記録が患者の声と文脈を保っているかを評価する。

結論・示唆

個人の自己評価と職能開発、プログラム単位のカリキュラム計画と形成的フィードバック、診療科単位の合意形成という複数の水準で使うことを想定している。研修医から現役の医師まで適用でき、卒前教育でのAI活用診療の導入にも参考になり得るとしている。AI導入の意思決定は教育者ではなく医療システム側で行われることが多いため、研修プログラム、臨床部門の管理者、施設のAIガバナンス組織の連携が必要になる。他の臨床タスクにも、業務フローを分解し、AIに置き換えられたり弱められたりするスキルを特定し、AI活用前の準備性基準を定めるという同じ手順で応用できるとしている。

新規性

既存のAIコンピテンシー領域には導入時期を判断する発達段階がなく、Ke らの段階モデルはコンピテンシー領域と結びついておらず、今回提示した枠組みとの違いとして示している。コンピテンシー領域と発達段階を結びつけ、準備性ゲートを置いた点が差分になる。

限界

多様な診療科・現場の臨床医と教育者による多施設レビューと、正式な妥当性検証が必要。

AI活用診療は急速に変わるため、定期的な改訂が要る。

この枠組みは、施設が承認したAIツールの監督責任を医師が持ち続けることを前提にしている。人の直接監督がほとんどない自動化に向かう業務が出てくれば、誰がいつ監督不要と判断するのか、その移行を正当化する根拠は何か、ツールが使えないときに診療はどうなるのか、研修は人の能力をどう保つのか、あるいは再定義するのか、といった問いが生じるとしている。

なお、消化器内視鏡に特化したマイルストーンの開発と試行が、筆頭著者の指導学生のMEHP修了研究として進行中である。

知識の扉を開く:医学生および研修医の教育に向けた感染症をテーマとした脱出ゲームの設計

Unlocking Knowledge: Designing an Infectious Diseases–Themed Escape Room for Medical Student and Resident Education
Mackenzie R. Keintz, Catherine J. Cichon, Jasmine R. Marcelin, Benjamin K. Arbeiter
Open Forum Infectious Diseases 2026;13(9):ofag561
DOI: 10.1093/ofid/ofag561

pmc.ncbi.nlm.nih.gov

背景
筆者らは、感染症(ID)教育には学習者のエンゲージメント、自信、専門科へのリクルートという課題があるとしている。引用研究では、研修医・医学生は内科の他のサブスペシャリティと比べて感染症への関心や自信が低い傾向が報告されている。直近のNRMPマッチでは、IDフェローシップ枠の40%が埋まらず、1枠あたりの応募者は0.7人だった。早い時期に、対話的で手を動かす形の質の高い感染症教育を受けると関心が高まり、フェローシップへのリクルートにも良い影響があり得るとする報告もある。

ゲームベース学習(GBL)の一形態として、脱出ゲームが学習者のエンゲージメントと動機づけを高めるという研究がある。感染症領域では、IDWeek 2023の「Out-BREAK!」が学会の場での実施可能性と受容性を示しており、本プロジェクトの着想元になった。ただし脱出ゲームの設計、とくに学習目標を謎(パズル)に落とし込む過程の詳しい記述は文献上まだ少なく、導入を考える教育者の障壁になっていると筆者らは指摘する。

方法(5段階の設計プロセス)

  • Step 1 テーマ設定:アウトブレイク調査という設定。参加者はチームとして、科学者が微生物検査室に隠した治療薬を探す。選んだ理由は3つ。多職種協働が必要でチームでの臨床推論に重なる。緊急性が高く、脱出ゲームの時間制限と相性がよい。学習目標と直接結びつく。
  • Step 2 学習目標:まず全般的なニーズ評価として、プログラム責任者や教員との議論と文献レビューを行った。続く標的型ニーズ評価では次を実施した。
    • IDフェローシップ責任者とローテーション調整担当との構造化された議論
    • 既存の講義内容の確認
    • 内科専門医試験の感染症出題範囲の確認
    • 感染症科教員と臨床薬剤師からの、入院診療でよくみる誤りの聴取
    この結果、8つの学習目標を設定した。4つは内科専門医試験の頻出領域、4つは学習者が誤りやすいと教員が判断した領域である。
    1. 隔離予防策
    2. 人獣共通感染症
    3. よくある感染症の経験的抗菌薬選択
    4. 検査室安全
    5. グラム陽性/陰性菌の判別
    6. 分子診断検査の解釈
    7. 性感染症
    8. MRSAに有効な抗菌薬
    初期の学習者を対象としたため、基本的な臨床推論だけで解ける作りにし、感染症の予備知識は前提にしていない。参考資料は室内に置いた。
  • Step 3 構造:謎の配置には3つの型がある。
    • オープン型:並行して解ける。ただし全員がすべての謎に触れるとは限らない。
    • シーケンシャル型:順番に解く。全員が関わるが、大人数だと手持ち無沙汰の人が出る。
    • パス型:両者の組み合わせ。
    筆者らは両者の長所と短所を折衷したハイブリッド型を採用した。最初にMRSAの謎を解くと、STI・BCID解釈・経験的抗菌薬・グラム染色・検査室安全の謎に分岐する。そこから人獣共通感染症の謎を経て、最終の感染対策メタパズルに集約される。
  • Step 4 謎の設計:数字錠、鍵、RFIDを使った機械式ロック、文字錠を組み合わせた。例をいくつか挙げる。
    • MRSA有効薬のボトルを使用期限順に並べると、ラベルの大文字が「TINEA」になる。
    • 迅速同定パネルを患者ファイルと照合し、入院日順に数字を並べる。
    • STIの手がかりから疾患と治療を答え、Scrabble盤で6文字を導いて筒形の文字錠(Cryptex)を開ける。
    • 動物の像を病原体と正しく組み合わせると、RFIDで箱が開く。
    • 最後は症例に隔離標識を貼り、集めた試験管の色の順序で治療薬の箱を開ける。

実装

  • 準備期間:構想から初回実施まで約5か月。
  • 費用:約500ドル。学内の小規模教育助成と診療科の裁量予算でまかなった。小道具の多くは自作。教員の時間に対する支援はない。
  • 場所:当初は会議室への持ち込み式で、設営と撤収に各約30分かかり、部屋ごとに配置を再現しにくかった。数か月後に診療科の専用会議室が割り当てられ、設営は約5分になった。隠し収納付きの棚のような常設の仕掛けも可能になった。ただし専用室は必須ではないとしている。
  • パイロット:感染症科教員、フェロー、医学生の3群で試行した。謎の順序、手がかりの明確さ、所要時間を調整し、1時間枠が妥当と判断した。
  • 運用:感染症科ローテーションの月例教育枠に組み込んだ。チームの典型的な構成は内科研修医4名、医学部4年生1〜2名、3年生1〜2名、薬学生1〜2名で、実際のグループは4〜6名程度。別に、医学部4年生向けの選択制エンリッチメント体験としても年3〜6回実施している(定員8名)。
  • ファシリテーター:毎回同席する。ヒントは無制限で、行き詰まったチームには追加の促しを行う。大半のチームは時間内に脱出した。脱出できなかったのは、主に人数の非常に少ないチームだった。
  • デブリーフィング:直後に最低15分とる。観察に基づいてつまずいた謎を重点的に扱うが、全部の謎を振り返る。ローテーションでは実物の道具を、エンリッチメント体験ではスライドを使う。
  • 評価:Likert尺度アンケートに加え、事前・事後の知識テストを用意した。知識テストは「脱出ゲームのみで扱う内容」「講義のみ」「両方」の3領域で構成している。知識評価は進行中。

結果
実施後アンケートに回答したのは25名。

項目 同意+強く同意
概念の理解が深まった 24名(96%)
学習体験に価値ある追加だった 23名(92%)
自信が高まった 22名(88%)
引き込まれ興味が続いた 25名(100%)
楽しい学び方だった 25名(100%)
同様の活動にまた参加したい 25名(100%)
教育ツールとして楽しめた 25名(100%)

「楽しい学び方」は強く同意が24名(96%)。全項目で「反対」「強く反対」はゼロで、中立は理解1名、価値2名、自信3名だった。

 

結論

筆者らは、この脱出ゲームが臨床推論、抗菌薬選択、感染症概念を補強する、学習者中心で没入感のある手法になったとしている。感染症キャリアへの関心を育てる「可能性」にも触れている。学習目標と謎の設計を意図的に対応させた手順は、他施設・他領域への再現可能なロードマップになるとしている。今後の課題として、知識獲得、スケーラビリティ、持続可能性、感染症キャリアへの関心への影響の評価を挙げている。

 

新規性

Out-BREAK!は学会の場での実施だったのに対し、本研究はカリキュラムへの統合と、学習目標と謎の対応づけに焦点を当てた。他との違いとして筆者らが挙げているのは次の3点。

  • 標的型ニーズ評価を含む構造化された設計プロセス
  • 各謎と学習目標の明示的な対応
  • 専門医試験の頻出内容と臨床現場で実際に起きる誤りの両方を取り込んだこと

限界

知識評価はまだ進行中

知識獲得、スケーラビリティ、持続可能性、キャリアへの影響は今後の評価課題

持ち込み式では設営負担と配置再現の難しさがあった

人数が非常に少ないチームは脱出できないことがあった

 

医療専門職の学部教育における教育ツールとしてのオーディオ・ポッドキャスト ― スコーピング・レビュー

Audio-podcasts as a teaching tool in undergraduate health professions education – a scoping review
Magali L. A. Heijkoop, Tuan Anh Phan, Andrea M. Woltman, Jorie Versmissen, Floor van Rosse
Medical Teacher 2026
DOI:10.1080/0142159X.2026.2733141

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/0142159X.2026.2733141?af=R#abstract

 

背景

音声ポッドキャストは、柔軟で比較的低コストな非同期学習の手段として医療者教育(HPE)で使われるようになった。卒前教育での導入報告は2006年からあり、COVID-19で普及が加速している。

ただし先行研究の多くは「ポッドキャストは効果があるか」の証明に力を注いできた。筆者らは、教育効果はカリキュラムへの組み込み方次第だとしている。Kellyら(2022)のスコーピングレビューも、カリキュラム内での意図的な実装に関する文献が不足していると指摘していた。

そこで筆者らはPICRATモデルを分析の枠組みに選んだ。このモデルは2つの軸で技術活用を分類する。

  • 学生の関わり方:Passive/Interactive/Creative
  • 教員の授業への影響:Replaces/Amplifies/Transforms

SAMRやTPACKを発展させたモデルで、技術そのものではなく学生の行動に焦点を当てる点を筆者らは評価している。

研究の目的は、医療系学部生向けに教員が提供する音声ポッドキャストについて、統合・設計・評価に関する文献をマッピングすることである。

方法

対象

  • 医学・薬学・歯学・看護など、HPEの学部生
  • 学部生と大学院生の混在研究は、群別に結果が報告されている場合のみ採用

除外条件

  • ビデオポッドキャスト
  • 学生がポッドキャストを作ること自体が学習活動のもの
  • ポッドキャスト単独の評価データがないもの
  • 卒前HPEを提供する機関と明確な関係がないもの
  • レビュー、学会抄録、論説、学位論文、書籍

言語:英語・仏語・蘭語の査読付き実証研究

検索

  • データベース:Medline、Embase、Web of Science Core Collection、CINAHL、ERIC
  • 期間制限なし。2023年3月に初回検索、2025年6月に更新
  • 検索式は医学図書館司書と共同で作成

選定とデータ抽出

  • スクリーニングは2名が独立して実施し、不一致は第3者に相談
  • データ抽出はMHが1名でExcelフォームに記入
  • PICRAT分類はKimmonsらのフローチャートに沿ってMHが行い、研究チームで合意に至るまで討議した
  • 複数の分類に当てはまりうる場合は、原著者が述べた主な教育目的で判断した

結果

選定プロセス

  • 本文では3394件を特定、重複除去後1948件、全文評価197件
  • フローチャートではスクリーニング1984件、全文評価186件
  • 最終的に54件を採用

研究の特徴

  • 出版年:2006〜2025年
  • 国:米国25件、英国9件、カナダ5件、豪州3件、フィンランド・フランス各2件など
  • 施設数:単施設46件、2施設9件
  • デザイン:
デザイン 件数
単群事前事後 16
横断研究 10
単群事後のみ 7
ランダム化2群比較 7
非ランダム化2群比較 6
フォーカスグループ 4
混合研究法 4

文脈

  • 13の学位プログラムにわたり、看護と医学が中心。ほかに薬学、歯学、助産、放射線、理学療法、作業療法、栄養など
  • 主題は基礎医学知識、臨床推論、多職種連携(ハドルなど)、研究デザインなどの学術スキル
  • 授業内での使用が43件、臨床実習中の教材としての使用が11件

設計

  • 開発過程の記載があったのは45件で、大半は教員・臨床医が制作した
  • 大学と無関係の既存ポッドキャストを使ったのは4件
  • 形式の記載は41件。講義録音が最多(11件)、インタビュー7件、ディスカッション4件
  • ほかに、展開型症例、患者や臨床医の語り、熟練医が難症例への考え方を声に出して語るもの
  • 1話の長さは4〜150分で、10〜19分が最多(14件)
  • 評価されたエピソード数は1〜200

PICRAT分類

  • Passive-Replaces 24件:講義の置き換え・補完、単独の自習教材。導入理由は柔軟性やアクセス性の向上、難しい主題での動機づけ、カリキュラムに時間がない、授業改善など
  • Passive-Amplify 17件:反転授業で授業時間を確保する、患者・家族の生活経験に触れさせる、実習の課題(時間不足、病棟差、物理的制約)を補う
  • Passive-Transform 2件:重篤な病を生きる人の一人称の語り、緩和ケア医による「About Empathy」
  • Interactive-Amplify 1件:標準模擬患者との練習時間を確保するために導入
  • Interactive-Transform 2件:精神疾患からの回復の語り(語り手が来校しなくて済む)、せん妄経験者と共同設計したワークショップをCOVID-19下で遠隔化したもの
  • Creative-Amplify 7件:討論掲示板、症例課題、リフレクション課題と組み合わせたもの
  • Creative-Transform 1件:医療人文学と医師患者関係を扱うもので、多様な人がセンシティブな話題について意見を述べられる設計
  • Interactive-Replaces、Creative-Replacesは0件

学習活動は4類型に整理された。最も多いのは単独の聴取と課題の一部としての聴取で、ほかに同期授業の予習としての聴取、課題へのガイダンス・フィードバックとしての使用がある。

学習関連アウトカム

  • 他の教授法との比較(8件):同等が5件。優れていたのが2件(書籍学習よりテスト得点が高い、体重インクルーシブなポッドキャストで身体評価・反肥満態度が改善)。劣っていたのが1件(ライブ講義・ビデオポッドキャスト群のほうがオンラインテスト得点が高い)
  • 非聴取対照との比較(4件):1件でOSCE得点が有意に高く、3件は有意差なし
  • 単群事前事後(12件):全件で有意な得点上昇

行動関連アウトカム(4件)

  • オピオイド使用障害へのスティグマ低下
  • 精神科の語りで先入観が揺さぶられ、準備ができたと感じた
  • パーキンソン病患者へのケアが改善したとの報告
  • SDGsに関して自他をナッジできるようになったとの報告

学習者の反応(満足度など)は、音質・編集・長さに左右され教育的価値を反映しにくいとして、統合から除外している。

結論

ポッドキャストは従来の授業を補完・代替でき、HPEの課題に対処しうる

最大の可能性は、通常の授業では一貫して、あるいは大規模には提供しにくい経験(患者の語り、熟練者の臨床推論、学生が触れにくい臨床環境、センシティブな主題)を届ける点にある

新奇性や利便性ではなく、学習目標・評価と整合させて(constructive alignment)、PICRATなどを使って意図的に組み込むべき

学習アウトカムの証拠は「混在しているが概ね肯定的」とした上で、単群デザイン、自己報告への依存、方法論的異質性から慎重に解釈すべきとしている

今後はリアリストレビュー、多施設試験、縦断評価、混合研究法が必要

新規性

既存レビューはポッドキャストを一様な介入として扱い、設計・目的・教育段階による違いを区別していなかった。対象も看護と医学に限られ、薬学や歯学は検討されていなかった。

本研究は次の2点を強みとしている。

  • 有効性の証明ではなく、学習成果達成のための使い方を、PICRATを用いて検討した
  • 卒前HPE全体を対象とした

限界(本文記載)

対象言語を研究チームの言語(英・仏・蘭)に限定した。本文の別の箇所では「英語論文のみ」とも書かれている。高所得の西洋諸国が過剰に代表された可能性がある

プロトコルの査読を受けていない

研究の質評価を行っていない。

灰色文献を含めていない

PICRATの後ろ向き分類は解釈的で、別の分類も成り立ちうる。特にAmplifyとTransformの区別は主観的・文脈依存的

原著の報告が不十分(導入理由、開発過程、学習目標、統合の詳細)で、ニュアンスが失われた

自己報告アウトカムに依存しており、反応バイアスの可能性がある

研究が米国と西洋圏に集中しており、一般化に制約がある

病院は「第3の教室」:研修中インターンの状況的学習と隠れたカリキュラムに関する質的記述・解釈的研究

The hospital as a third classroom: a qualitative descriptive-interpretive study of situated learning and the hidden curriculum among medical interns
Jordan Llerena-Velastegui, Gisel Llerena-Velastegui, Ruth Jimbo-Sotomayor
BMC Medical Education. 
https://doi.org/10.1186/s12909-026-10641-9

 

背景

臨床現場は、別の場で得た知識を当てはめるだけの場所ではない。患者ケアへの参加、熟練者の観察、多職種との関わりを通じて、学習者が何を知り、何をし、何者になるかが形づくられる。この学習の多くは回診、当直、手技、申し送り、廊下での会話といったインフォーマルな場で起こる。そこでは隠れたカリキュラム(日常の振る舞いを通じて伝わる価値観・規範・権力関係)が働き、プロフェッショナル・アイデンティティ形成や心理的安全性に関わる。

筆者らはこれを解釈する枠組みとして social pedagogy を用いた。日常の社会生活や人間関係に埋め込まれた教育を指し、参加、伴走、包摂、社会正義に注目する概念である。入院中の子どもへの院内学級の意味ではないと明記している。

「第3の教室」は、大学での授業と正式なインターンシッププログラムに並ぶ、職場という独自の学習環境を指す。研究目的は二つある。インターンが正式な教室の外での教育実践をどう経験したかを探ること、そして social pedagogy が病院での状況的学習の解釈と強化にどう役立つかを検討することである。

方法

  • 場所:エクアドルの都市部の私立病院。ローテート型の医学インターンシップを受け入れており、内科系、外科系、小児科、産婦人科の各部門で診療と教育が並行している。
  • 対象:2024–2025年コホートのローテート中インターン。コホート全員の21名が回答し、全回答を分析した。参加は任意で、金銭的・学業上のインセンティブはない。年齢、性別、経験、ローテーション歴などの属性は収集していない。統計的な代表性は主張していない。
  • データ収集:2025年7月、匿名の Google Forms で自由記述10問。質問の内容は、social pedagogy の理解、社会的学習環境としての病院、ノンフォーマル・インフォーマルな教育の例、望ましい臨床指導者の資質、隠れたカリキュラム、倫理的・情緒的風土、障壁、地域・患者教育活動、改善提案である。筆者らは、理論を踏まえた質問紙で回答を引き出したと明記している。
  • 文書資料:監督、責任、階層、教育時間に関する院内規程や役割マニュアルを、回答との対比のための文脈資料として用いた。文書名、日付、抜粋、文書ごとのコーディングは示しておらず、独立した文書分析としては扱っていない。面接、フォーカスグループ、直接観察は実施していない。
  • 分析:研究者1名が全回答を通読したうえで、帰納的なオープンコーディングで意味単位を抽出した。次に、学習の場、社会的関係、倫理的風土、ロールモデル、多職種連携、組織的制約といったパターンにまとめた。二重記入マトリクス(縦に参加者、横に収束する断片)を使い、個々の文脈を残したまま比較した。social pedagogy は感受概念として解釈に用いており、演繹的コーディングの段階や事前のコードブックはない。完全な reflexive thematic analysis であるとは主張していない。
  • 厳密性:分析判断の記録、マトリクス、参加者の言葉の保持、事例間比較を行った。独立した第二コーダー、メンバーチェック、外部監査、飽和の主張は記録されていない。報告は SRQR に準拠している。引用はスペイン語から翻訳し、原文と照合している。

結果

テーマ1:状況的学習共同体としての病院

学びは実際のケアへの参加と切り離せないものとして語られた。臨床イベントの直後に、その患者の状況を軸にした説明が記憶に残りやすかった。研修医からは「廊下で、予定外だったが、高齢患者にわかりやすく話すことを多く学んだ」(P02)という声があった。

廊下や当直は、マイクロティーチングの場として繰り返し挙がった。レジデントや指導医が短く手を止め、図を描く、波形を読む、判断を説明する、動揺した家族への話し方を練習させる、といった場面である。価値は長さより、タイミング、明確さ、能動的な参加にあった。器具に触れる、解剖を同定する、初期計画を提案することは、見ているだけの状態と対比された。段階的な参加はチームの正当な一員になりつつある感覚につながり、事務作業ばかりが続くと説明と実践のつながりが弱まった。

看護師、器械出し技師、理学療法士、ソーシャルワーカー、支援スタッフも、実践的・関係的な知識の源として語られた。敬意ある多職種間の振る舞いそのものが学習内容になっていた(P01)。服薬、授乳、警告徴候、慢性疾患の自己管理、退院計画などの患者・家族教育では、専門知識を翻訳し、社会的状況に目を向け、医師を教育者として捉える必要があった。地域キャンペーンや訪問の経験がある者もいれば、この私立病院ではその機会がなかったと答えた者もいた。

テーマ2:隠れたカリキュラムと倫理的風土

共感、尊厳ある扱い、相談しやすい指導は、質問や限界の自覚を後押しした。「部署が敬意をもって理解してくれると、わからないことを認め、監督下で練習させてほしいと言える」(P19)。心理的安全性は抽象的な性質ではなく、名前で挨拶する、意見を求める、不確かさに落ち着いて応じる、といった小さな関わりと結びついていた。

対照的に、公開での叱責、皮肉、排除、硬直した階層は、不確かさを隠すべきだというシグナルとして受け取られた。投与量を質問した研修者が批判されるのを見て、「不確かさは無能の証という暗黙のメッセージで、質問が怖くなった」(P20)という回答がある。回診で無視される、質問後に手技から外される、事務作業を割り当てられる、といった報告もあった。「見て学べ、邪魔するな」(P04)という言葉は、沈黙をプロフェッショナリズムとして示しつつ参加を制限する権威のモデルを凝縮している。

ポジティブなロールモデルは、技術的能力と落ち着き、思いやり、あらゆる職種への敬意を結びつけていた。ネガティブなモデルは、屈辱、見下した言葉、理解なき服従を当たり前のものにしていた。水平的な環境では学び貢献したくなり、敵対的な環境では当直をやり過ごすことに意識が向いた、と部署を対比する回答が複数あった。

テーマ3:制度的な橋渡しとギャップ

近づきやすいレジデントや指導医、多職種回診、人間的な実践(患者を名前で呼ぶ、各手順を説明する、家族を巻き込む、看護・支援スタッフの貢献を認める)が、公式の意図と日常の学習をつないでいた。

ただし、こうした橋渡しは一貫していなかった。教育は個々の指導者に強く依存し、部署ごとにばらついた。業務量と緊急性が説明、振り返り、フィードバックを押しのけた(「教える余地がないときもある」P02)。時間が処理件数、手技、財務指標を軸に組まれ、教育や心理社会的な活動が二次的・非収益的に扱われる部署も語られた。文書資料に示された期待(監督、教育時間、敬意あるフィードバック)と比べると、近づきやすい指導者の話は期待と合致し、保護されない教育時間や公開での修正の話はギャップを示唆した。筆者らは、これは文脈的比較であり、規程の遵守状況を示すものではないとしている。

フィードバックは即時的なことが多いが、質にはむらがあった。誤りを説明して次の一手を示す指導者もいれば、公開で修正する、あるいはローテーション終了時の判定だけを伝える指導者もいた。職種上の地位で誰の知識が聞かれるかが決まると、多職種学習は制限された。

全体として、病院の教育力は明らかだが条件付きであった。第3の教室は自動的に支援的でも一貫して人間的でもなく、参加と成長を促すこともあれば、恐怖、沈黙、狭い作業遂行を再生産することもある。

結論

このコホートでは、social pedagogy が職場学習の関係的・参加的・倫理的側面の解釈に役立った。短い教育機会を守ること、不確かさに敬意をもって応じること、隠れたメッセージを多職種で振り返ることは、臨床指導者への示唆となりうる。ただし筆者らは、実行可能性と効果は今後の評価を要するとしている。考察では、回診の終わり、手技の後、申し送り時に短い教育の時間を確保すること、臨床推論の一要素を言語化して研修医の解釈を求めること、フィードバックは観察可能な行動について個別に敬意をもって行うことを挙げる。EPA や倫理面に焦点を当てたデブリーフィング付きの in situ シミュレーションにも触れているが、いずれも本研究では検証していないと明記している。

新規性

職場学習と隠れたカリキュラムのエビデンスは豊富だが、social pedagogy でインターンの日常的な病院学習を解釈した研究は限られており、特にラテンアメリカでは少ない。この交差点を扱った点が本研究の位置づけである。

限界(本文記載)

  • 対象はエクアドルの私立病院1施設のインターン21名のみ
  • 書面の質問紙のため追加の掘り下げができず、回答の深さにばらつきがありうる
  • 直接観察がなく、廊下での教育、階層、フィードバックの記述を実際の実践と照合できない
  • 社会的望ましさバイアスの可能性
  • 質問紙が social pedagogy 的な関心を明示的に提示しており、参加者が選ぶ経験や語り方を方向づけた可能性
  • 属性・ローテーション情報がなく、経験の違いを分析できない
  • 分析者が1名で、social pedagogy による解釈が関係的・倫理的側面を他の読み方より前景化した可能性
  • 文書名・日付・抜粋・文書ごとの分析記録がなく、文書比較の評価や規程の実施状況の検証ができない
  • 提言は未評価
  • 転用可能性は読者が自施設と比較して判断する必要がある。部署をまたいで記述が一貫していることはこのコホート内でのテーマの妥当性を支えるが、それ以外での頻度を主張するものではない