医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

スクラブを着た女の子たち:臨床学習環境のエスノグラフィ的探求

Girls in scrubs: An ethnographic exploration of the clinical learning environment
Shalini Gupta, Stella Howden, Mandy Moffat, Lindsey Pope, Cate Kennedy
First published: 06 April 2024 https://doi.org/10.1111/medu.15379

https://asmepublications.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/medu.15379?af=R

背景
世界の多くの国々で、医学部や医療従事者において女性の割合が高くなっているにもかかわらず、ジェンダー・バイアスは医療専門職における永続的な問題である。医学教育におけるジェンダーに基づく差別は、学生の専門的発達やキャリア形成に永続的な影響を与えるため、そのさらなる解明がたびたび求められてきた。本稿では、臨床現場におけるジェンダー不公平の連鎖を断ち切ることを目的として、臨床学習環境(CLE)における女子医学生と医師の経験をエスノグラフィックに調査した結果を紹介する。

調査方法
スコットランドの都市病院にある2つの教育病棟を調査フィールドとし、10ヶ月間にわたって120時間の非参加型観察を行った。無作為抽出と簡便抽出を組み合わせ、医学生ファウンデーションドクター、大学院研修生、コンサルタント指導医、看護師や薬剤師などの医療専門家を含む主要な情報提供者と36回の個別面接を行った。データは、ブルデューの社会的権力再生産理論を用いてテーマ別に分析した。研究チームは、ジェンダー化された出会いに関するデータの探求に、多様な専門的背景と視点を持ち込んだ。

結果
観察データとインタビューデータを組み合わせることで、参加者がCLEで獲得した社会的・文化的資本におけるジェンダーに関連した差異を示唆する5つのテーマが生まれた。

女性の学生と医師の専門的地位の低下 - フィールドにおける社会資本の低さ: 女性医学生と初期研修医が他の職業と比較して低い職業的認識を受け、しばしば「看護師」と間違えられることが報告されました。これは患者によるものだけでなく、看護スタッフによるものも含まれます。

臨床学習環境における教育的機会 - 文化資本の変化: 男女の医学生には学習機会が提供されますが、専門訓練を進むにつれて、男性学生が女性学生よりも優遇される傾向があると報告されました。

臨床学習環境での差別体験の影響 - ハビタスの変容: 性別に基づく差別的行動やステレオタイプな思考過程は、女性の学生と医師の学習への参加と意欲に悪影響を与えます。

臨床学習環境における性別に基づくロールモデルの価値 - ハビトゥスの変容: 同性のロールモデルが女性の医学生と医師にとって非常に価値があると報告され、これが自信と自己効力感の向上に寄与していることが示されました。

ジェンダーに基づくプロセスの内面化 - ハビトゥスの変容: 研究参加者は、CLE内でのジェンダーに基づくプロセスと差別的な相互作用に対して高いレベルの受容を示しました。

ハビトゥス【habitus】
生活の諸条件を共有する人々の間に形成され、その集団の中で持続的かつ臨機応変に知覚・思考・行為を生み出す原理としてはたらく、心的諸傾向の体系。 フランスの社会学ブルデューが提起した概念。

結論
本研究は、医学部で多数を占めるにもかかわらず、女子学生が社会的・文化的資本を得るのに苦労していることを明らかにした。臨床の場を構成するジェンダー化されたヒエラルキーは女子学生や医師に不利であり、その差異的経験は彼女たちのハビトゥスを変容させる。われわれは、理論に基づいた調査に基づき、ロールモデルが学生や医師のハビトゥスにポジティブな影響を与えることを提唱する。さらに、医学教育者は、女子学生や初期キャリア医師が医療チームによりよく溶け込み、有意義な職種間関係を構築することによって、社会的・文化的資本を確保する機会を提供する臨床実習の延長を考慮してもよいであろう。