医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

ヒューマニズム回診:内科研修医の仕事における意義を向上させる多面的な「ベッドサイドへの回帰」イニシアティブ

Humanism Rounds: A Multifaceted “Back to Bedside” Initiative to Improve Meaning at Work for Internal Medicine Residents. 

Kaplan, J.M., Agrawal, S., Kumar, D. et al.

Med.Sci.Educ. (2024). https://doi.org/10.1007/s40670-024-02017-9

link.springer.com

はじめに
バーンアウト燃え尽き症候群)は研修医の間でますます蔓延している問題である。この問題に対処するため、卒後医学教育認定評議会(ACGME)はBack to Bedsideイニシアチブを創設し、患者との直接的な交流を増やすことに焦点を当てた研修医主導のプロジェクトを支援している。2017年、ベイラー医科大学(BCM)内科レジデンシーはBack to Bedside助成金を受け、「ヒューマニズム回診」という多面的なプログラムを開発・実施した。このプログラムは、研修医と患者の個人的なつながりを促進し、患者の臨床以外の話についての内省を促すことを目的としたもので、研修医の燃え尽き症候群を減らし、仕事における意義の感覚を高めることを期待している。

材料と方法
2018年から2020年にかけて、内科研修医にヒューマニズム回診について指導し、参加を促した。このプログラムには、「ヒューマンヒストリー」の作成、臨床以外の関心事に焦点を当てたベッドサイド回診、同僚と患者のエピソードを共有すること(「セレブレーション」)の3つの要素が含まれていた。バーンアウト燃え尽き症候群)、職場における意義、臨床学習環境について、施設およびACGMEによるアンケート調査を行った。

figure 1

*「Humanism Rounds」

内科研修医たちが患者との人間的なつながりを深め、仕事における意義と満足感を高めるために設計されたプログラムです。このイニシアティブは、医療従事者が経験するバーンアウトを減少させることを目的としています。

プログラムの主要なコンポーネントは以下の通りです:

  1. Human Histories(ヒューマンヒストリー):

    • 研修医が患者の医療的な状況に直接関連しない個人的な背景や興味、生活の詳細を探ることを目的としています。例えば、患者の趣味や家族構成、職業、生活環境などの情報を収集します。
  2. Bedside Rounds(ベッドサイドラウンズ):

    • 研修医がチームまたは個別に患者の病床を訪れ、10〜20分間の人間的な会話を行うことで、患者との関係を強化します。この時間は、患者のケアを担当する医師や主治医がカバーすることで確保されます。
  3. Celebrations(セレブレーションズ):

    • 病院全体で定期的に開催される集まりで、研修医が「Humanism Rounds」の経験について同僚と共有する場です。これにより、研修医は互いの経験から学び、共感や支援を得る機会を持ちます。

このプログラムは、研修医が患者一人ひとりの個性や背景を理解することにより、患者に対するケアの質を向上させると同時に、医師自身の職業的満足感や意義を感じることを促します。また、研修医のバーンアウトを減少させ、より充実した研修環境を提供することが期待されています。

 

調査結果
施設アンケート311件(回収率74%)、AGCMEアンケート328件(回収率78%)が回収され、分析された。ヒューマニズム・ラウンドに積極的に参加した研修医は、仕事における意義と充実感をより多く報告した(p < 0.001)。このプロジェクトの期間中、学習環境と個人的な無愛想さに対する評価は、研修医のサブグループ間で改善した。

  • 参加と意義の向上: 研修医たちが「Humanism Rounds」に積極的に参加した結果、仕事の意義と満足感が増加したことが示されました。特に、参加した研修医の約49.5%が、プログラムが職業的な意義と充実感を向上させたと感じたのに対し、参加しなかった研修医では約9.3%に留まりました。
  • 教育環境の改善: 研修初年度(PGY-1)の研修医において、学習環境のスコアが改善されたことが示されました。これは、研修医とその直属の上司との関係が良好であることを示しています。
  • 個人の感受性の改善: PGY-3(研修3年目)の研修医は、患者に対して無感動になる割合が減少しました。

考察

  • 全体的な影響: このプログラムは、医師と患者の間の人間関係を強化し、研修医が患者の多面的な生活を認識することを可能にすることで、臨床学習環境における意義を高めました。
  • プログラムの文化的効果: 「Humanism Rounds」がレジデンシープログラムの文化に組み込まれたことで、参加しなかった研修医にも一定の好影響があった可能性があります。これはプログラムのサポートが広く普及し、非参加者にも影響を与えたことを示しています。
  • バーンアウトへの限定的な影響: バーンアウト率には顕著な変化が見られませんでしたが、これは「Humanism Rounds」が主に患者との人間関係を改善することに焦点を当てているため、勤務負担や管理業務など他のバーンアウト要因には対処していないからかもしれません。

結論
Humanism Roundsに参加したベイラー医科大学内科研修医は、仕事における意義と充実感をより多く報告した。このプログラムは、他の診療科や施設において、研修中の人間的つながりを強化し、研修医の経験を向上させるための低コストのモデルである。