Introducing a data-driven learning progress dashboard for programmatic assessment.
Ng, O., Lee, Z. W., Phua, D. H., Li, L., Lim, H. J. M., Chu, J., & Cleland, J. (2025).
Medical Teacher, 1–3. https://doi.org/10.1080/0142159X.2025.2489086
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/0142159X.2025.2489086?af=R#abstract

プログラム的評価(PA)の基本概念
プログラム的評価(PA)は医学教育における革新的なアプローチで、単発的な試験やテストではなく、多様なデータソースから情報を継続的に収集・統合することで、学生一人ひとりの強みと弱みを包括的に把握し、学習の最適化を目指します。PAの中核原則は以下の通りです:
- 学習のための評価(Assessment for Learning):評価は単に学生の成績を判断するものではなく、学習を促進するツールとして機能する
- 学習としての評価(Assessment as Learning):評価プロセス自体が学びの機会となる
- 低リスクの継続的フィードバック:各評価は建設的なフィードバックを提供する機会であり、学生が自分の進捗とコンピテンシーを理解するガイドとなる
- データの蓄積と統合:個々の評価データが時間とともに蓄積され、学生の発達の軌跡を示す包括的な情報源となる
PAの実施には重大な課題:
- データサイロの存在:異なるシステムや形式(Excelスプレッドシート、異なる年度のプログラム用の異なるシステムなど)に分散したデータ
- データ量と複雑性の増大:時間とともに増加する評価データの量と多様性
- データの統合と視覚化の困難さ:断片化された情報から意味のある洞察を導き出す複雑さ
学習進捗ダッシュボード(LPD)の設計
1. 技術的インフラストラクチャ
- データ仮想化プラットフォーム(Denodo):複雑なデータ抽出や再構築を必要とせず、多様な形式・プラットフォームにまたがる評価データをリアルタイムで統合できるシステム
- フロントエンド視覚化(MS Power BI):MBBSチームに既に馴染みのあるプラットフォームを採用し、学習曲線を減らして迅速な導入を可能に
- 学生の学習環境への統合:ダッシュボードをシームレスに学生の日常的な学習ツールと統合
2. ユーザーインターフェースの設計
- 直感的なインターフェース:使いやすさを重視した設計
- 個人化されたダッシュボード:各学生が自分の評価データに簡単にアクセスできる
- コンピテンシー領域別の分類表示:シンガポールの医学教育のための国家的成果フレームワークに基づいて情報を構造化
- 異なるユーザー向けの特化したランディングページ:学生と教員それぞれのニーズに合わせたインターフェース
3. データプライバシーとセキュリティ
- 「知る必要がある」ベースのアクセス制御:指定されたスタッフ/教員のみが学生のLPDにアクセス可能
- 心理的安全性の重視:学生が常に監視されているという感覚を避け、学習ツールとしての性質を強調
4. データフロー
- 複数のデータソース(クラウドベースおよびオンプレミスシステム)からデータを収集
- データ仮想化、カタログ化、ガバナンス制御を通じて情報を整理
- データの視覚化と意味のある洞察への変換
- ユーザー(学生と教員)へのパーソナライズされたダッシュボードを通じた提示
導入プロセス
1. 利害関係者との協議
- 管理スタッフ、教員、卒業生、学生を含む多様な利害関係者との広範な協議
- デザイン思考アプローチを用いた学生と教員双方のニーズの優先順位付け
- 既製のソリューションではなく、機関のニーズに合わせたカスタムソリューションの開発必要性の認識
2. データ統合の課題への対処
- 複数のプラットフォームに分散した評価データの断片化の特定
- 既存のデータ管理方法を変更せずに、複数のデータソースを接続・調和させる方法の検討
- データ仮想化プラットフォーム(Denodo)の採用によるリアルタイムでのデータ統合
3. 導入のためのインフラストラクチャ準備
- チームに馴染みのあるプラットフォームの選択による学習曲線の短縮
- 大学全体の企業ライセンスを活用した全スタッフと学生へのライセンスアクセスの配布
- 学生の学習環境へのプラットフォーム統合による利便性の確保
導入から得られた教訓
1. 学習者に関する洞察
- データとプライバシーのバランス:データ収集と学生の自律性の間の慎重なバランスが必要
- 継続的なメッセージング:「学習のための評価」の概念を強調する繰り返しのコミュニケーションの重要性
- 構造化された支援システム:
- 文化的変化の醸成:時間をかけて学生の評価と建設的フィードバックに対する認識を変える必要性
2. 部門横断的・学際的な協力
- 多様な専門知識の統合:工学、コンピュータサイエンス、医学、心理学などの異なる分野の専門家チーム
- 共通理解の構築:システム機能、データ管理、ユーザー体験について、時間をかけたチームでの議論と合意形成
- 学際的アプローチの価値:異なる視点の統合による包括的な解決策の開発
3. 変更管理の重要性
- 透明性の確保:全てのステークホルダーに対する透明で開かれたプロセス
- 共有責任の促進:学生、教員、管理者が共にシステムの成功に責任を持つ文化の構築
- 段階的な変更の実施:急激な変更より、徐々に導入する方法の効果
- 定期的な会議とチェックイン:時には不必要と思われるかもしれないが、ステークホルダーが意見を聞かれ、尊重されていると感じるために極めて重要
- シニア管理職を含むすべてのステークホルダーの参加:混乱を最小化し、受け入れを促進するための包括的なアプローチ
データの活用
- 個人指導教員システムとの統合:
- 学校の既存の個人指導教員(パーソナルチューター)システムを基盤として活用
- LPDとそのデータ駆動型の洞察を個人指導教員との議論の基礎として使用
- 批判的思考の奨励と学生の自律性の育成
- プロセスにおける「学習としての評価」の促進
- 形成的フィードバックのサイクル:
- 継続的な形成的フィードバックをLPD体験に組み込み
- データに基づくリフレクションの促進
- 自己評価と外部評価の統合
将来の展望
- 段階的な展開:
- 将来のコホートへのLPDの段階的な導入
- ユーザーからのフィードバックに基づくデザインの洗練
- デザイン思考の継続的適用:
- 先進技術の統合:
- 人工知能の統合
- 予測分析の導入
- データ駆動型学習環境の創出による:
- パーソナライズされた適応型フィードバック
- 学生と教員双方のための効果的な進捗追跡
- 拡張可能性:
- 医学教育を超えた他の教育分野への適用可能性
- 教育機関全体でのデータ統合アプローチの拡大
結論:PAとLPDの将来的意義
この論文は、プログラム的評価(PA)の原則を効果的に実施するためには、テクノロジーに支えられたソリューションが不可欠であることを示しています。学習進捗ダッシュボード(LPD)は、単なるデータ表示ツールではなく、学習文化を変革し、学生が自分の学習に主体的に関わるための触媒となる可能性を持っています。
データサイロの解体、部門間の協力の促進、段階的な変更管理戦略の採用は、イノベーションとユーザー受容のバランスを取る上で重要な要素です。このアプローチは、医学教育に限らず、データ主導のフィードバックと学習者中心の評価を重視するあらゆる教育環境に適用できる貴重な教訓を提供しています。