Can you hear me? Physicians’ attitudes and knowledge on the principles of communicating with hearing-impaired older adult.
Sadan, E., Bakal, A., Freud, T. et al.
BMC Prim. Care 26, 162 (2025). https://doi.org/10.1186/s12875-025-02861-7
研究の背景と重要性
聴覚障害の疫学的背景
- 聴覚障害は認知、社会的、感情的能力に重大な悪影響を与える一般的なコミュニケーション障壁
- 65歳以上の高齢者の約3人に1人が聴覚障害を抱えている
- 高齢者の聴覚障害の最も一般的な原因は老人性難聴(加齢性感音性難聴)
- イスラエルではWHOの調査により、2018年時点で人口の約4.6%が聴覚障害を抱えていると推定
医師-患者コミュニケーションの重要性
- 1990年代の国際コンセンサスパネルでは「医師と患者の間の効果的なコミュニケーションは中心的な臨床機能」と宣言
- WHOが提唱する人間中心のケアアプローチを実現するための不可欠なツール
- 適切なコミュニケーションには以下が含まれる:
- 患者を温かく迎える
- 患者の好むコミュニケーション方法を確認する
- 背景ノイズを最小限にする
- 視覚的手がかりを強化するための適切な照明
- 表情豊かに話す
- アイコンタクトを維持する
- 必要に応じてスピーチのピッチを調整する
- トピックの変更を明確に示す
- 理解度を確認する
研究方法の詳細
研究設計と対象者
- 横断的研究:イスラエル南部のクラリット・ヘルスケアサービス機構の家庭医を対象
- 参加者:研修医と認定専門医を含む101名の家庭医(回答率67%)
- 平均年齢:44.5±10.9歳、男性55名(54.5%)、女性46名(45.5%)
- イスラエル生まれ:58名(58.0%)、イスラエルで医学教育を受けた:38名(38.0%)
- 家庭医認定専門医:48名(47.5%)、プライマリケアでの平均経験年数:12.2±10.1年
研究ツール
- ビデオ映像:
- 研究チームが作成した、医師と聴覚障害を持つ高齢患者(および介護者)とのやりとりを示すビデオ
- ビデオには以下の12の意図的なコミュニケーションエラーが含まれていた:
- 患者に背後から挨拶
- 患者の好むコミュニケーション方法を確認しない
- 医師の顔がコンピュータ画面の後ろに隠れている
- 窓を背にして座り、顔に光が当たらない
- 患者が補聴器を持ってきたか確認しない
- 患者が補聴器について言及した後も、それが適切に機能しているか確認しない
- デスクに音声増幅器があるのに使用しない
- 患者の理解度を確認しない
- 患者が理解していないと明示した後、声を大きくする(高周波音を増加させる)
- 前記の方法が失敗した後、患者の耳に直接叫ぶ(顔や唇が見えなくなる)
- 上記の方法が失敗した後、患者の息子に向かって会話を行う
- 会話の最後に、聴覚障害の問題に対処しない(聴力検査や補聴器の調整を提案しない)
- 質問票:
詳細な研究結果
知識と訓練の実態
- 医学部で聴覚障害患者への対応訓練を受けた:15.8%
- 家庭医研修中に訓練を受けた:17.8%
- 聴覚障害を持つ高齢患者を治療するための十分な知識があると感じている:
- 高レベル:37.6%
- 良いレベル:3.0%
- 中程度のレベル:38.6%
- 低レベル:20.8%
基本的知識の評価
コミュニケーションの快適さ
- 聴覚障害を持つ高齢患者との訪問時のコミュニケーションスキルの快適さ:
- 非常に快適:13.9%
- かなり快適:35.6%
- どちらでもない:12.9%
- あまり快適ではない:28.7%
- まったく快適ではない:8.9%
- 専門医vs研修医(不快感の報告):49.1% vs 25.0%(p=0.002)
- 女性医師vs男性医師(不快感の報告):48.9% vs 27.3%(p=0.004)
聴覚障害を持つ高齢者に対する態度
- 聴覚障害を持つ高齢者は問題を適切に解決するために2倍の診察時間が必要:71.3%が同意
- 聴覚障害を持つ高齢者はコミュニケーションを助けるために付き添いを連れてくるべき:57.4%が同意
- 高齢者は加齢とともに聴力に関する期待を下げるべき:32.7%が同意、45.5%が不同意
- デジタルツールは医療専門家と聴覚障害を持つ高齢患者の間のコミュニケーションを改善すべき:70.3%が同意
- 聴覚障害を持つ高齢者が正常な生活を送るのはほぼ不可能:25.7%が同意、67.3%が不同意
コミュニケーションエラーの識別能力
- エラーを識別した平均数:2.25±1.35(全12エラー中)
- エラー識別の内訳:
- 0エラー:9.9%
- 1エラー:22.8%
- 2エラー:24.8%
- 3エラー:23.8%
- 4エラー:11.9%
- 5エラー:5.9%
- 6エラー以上:0%
- 最も頻繁に識別されたエラー:
- 患者の息子との会話(67.7%)
- 医師の顔がコンピュータ画面に隠れている(59.6%)
- 最も識別されにくかったエラー:
- 医師が窓を背にして座っている(0%)
- 補聴器の機能確認をしない(2.0%)
- 聴覚障害の問題に対処しない(4.0%)
多変量解析の結果
- 3つ以上のコミュニケーションエラーを識別する能力の予測因子:
- 聴覚障害を持つ高齢患者とのコミュニケーションスキルの快適さの低さ(OR=0.337、95%CI:0.126-0.900、p=0.030)が唯一の有意な変数
- 性別、年齢、医学教育の場所、専門医としての状態、知識スコアは有意ではなかった
研究の限界点
- ビデオ観察と実際の臨床状況のギャップ
- 集団視聴環境による潜在的な影響
- イスラエル南部の限られた医師集団からの知見
- ビデオ視聴後の質問票記入による記憶バイアス
- 補聴器を示すために使用したイヤピースが誤解を招く可能性
- ビデオが聴覚障害の専門家によって検証されていない
- 研究ツールが検証されていない
提言と今後の方向性
- 医学教育の改善:
- 医学部および専門研修カリキュラムに聴覚障害患者とのコミュニケーション訓練を組み込む
- ロールプレイング演習を含む実践的なコミュニケーションスキル開発
- 知識ギャップの解消:
- 聴覚障害の基本的な知識に関する継続的教育
- 医師の自己認識と実際の能力のギャップに対処するためのワークショップ
- 実践的なコミュニケーション戦略の普及:
- 患者フィードバックメカニズムの実装:
- 聴覚障害を持つ患者から医療提供者のコミュニケーション体験に関するフィードバックを収集
- 改善領域を特定し、より患者中心のアプローチを促進