医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

トップからの視点: 卒後医学教育におけるシミュレーションに基づく教育の実施に関するトップレベルの医療指導者の認識に関する質的調査

A view from the top: A qualitative exploration of top-level health care leaders’ perceptions on the implementation of simulation-based education in postgraduate medical education
Leizl Joy Nayahangan, Ebbe Thinggaard, Farsana Khan, Amandus Gustafsson, Anne Mette Mørcke, Adam Dubrowski, Laura E. Hirshfield, Lars Konge
First published: 13 October 2023 https://doi.org/10.1111/medu.15248

https://asmepublications.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/medu.15248?af=R

 

はじめに
シミュレーションに基づく教育(simulation-based education:SBE)の利点を裏付ける証拠は数多く存在するが、その普及と効果的な実施は依然として困難である。本研究の目的は、SBEに関するトップレベルの医療指導者の認識、およびデンマークの卒後外科カリキュラムの一環としてSBEを広く実施する上での障壁と促進要因を探ることである。

方法
我々は、質の高い患者ケアの提供を保証し、医療システム全体の目標を達成するための戦略を策定する役割に基づいて選ばれたトップレベルの医療指導者に対して、半構造化面接を実施した。インタビュー記録は英語に翻訳され、データのコード化と帰納的分析には主題的アプローチが用いられた。実施研究のための統合フレームワーク(Consolidated Framework for Implementation Research)を用いて、SBEの実施を成功させるための決定要因を特定し、理解した。

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結果
政治・行政レベルの異なる13人の参加者にインタビューを行った。その結果、参加者はSBEについて限られた知識しか持っておらず、これらの指導者と教育環境との間に断絶があることが浮き彫りになった。このことは、シミュレーションセンターと上位組織との間の効果的なコミュニケーションの欠如や不十分な情報伝達によってさらに深刻化した。参加者は、研修中の医師にとってSBEが有益であることを認識する一方で、すでに緊張状態にある医療制度や限られた資源を考慮すると、その実施に懸念を示した。SBEの実施を促進するためには、特に患者安全の観点からエビデンスが必要であることが強調された。参加者はSBEの実施を支持したが、誰が行動を起こすべきかは不明確であった。

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1. 個人の特徴

ほとんどの参加者は、医師に対する伝統的な徒弟訓練のアプローチを認識していた。
シミュレーションに基づく教育(SBE)のような新しいトレーニング方法を知っている者もいたが、医学的背景のない者はあまり知らなかった。
全体として、SBEがトレーニングに有益であることは認識されていた。

2. SBEの特徴

利点: 参加者は、SBEが医療従事者にとって有益であり、技能習得、自信形成、患者ケアの準備に役立つと考えた。
エビデンスの強さと質: 参加者はSBEの価値を理解する一方で、SBEが患者の安全を促進するという証拠を求めていました。参加者は、エビデンスに基づく報告書とビジネスケースの必要性を強調した。
複雑さ: 患者ケアや病院運営に支障をきたす可能性があるため、SBEを外科トレーニングに統合することの実現可能性について懸念が示された。

3. インナーセッティング

リソースの利用可能性: 参加者は、訓練を受けた教授陣、質の高いトレーニング機器、資金が必要であるなどの障壁を指摘した。しかし、病院の予算を考慮すれば、資金は問題ではないとの意見もあった。
ネットワークとコミュニケーション: 参加者とシミュレーションセンターの間にはコミュニケーションギャップがあり、SBEに対する認識と支援の欠如につながっていた。

4. 外部設定

患者の安全: 参加者は全員一致で、患者の安全が最も重要であることに同意した。参加者はSBEを、より良い患者ケアのために有能な医師を確保するための手段であると考えた。
SBE実施の義務: 誰がSBEの実施を開始すべきかについては、意見が一致しなかった。SBEの実施は国の保健当局が行うべきとの意見もあれば、医長や医師会が主導すべきとの意見もあった。
5. 実施プロセス:

参加者は "オピニオンリーダー "であり、組織内で影響力を持っていると考えていた。
しかし、SBEの構造化された実施プロセスについては明確な示唆はなく、誰がその実施を義務づけるべきかについてもコンセンサスは得られなかった。

 

考察

主な発見

トップレベルの医療指導者と教育環境との間には、特に外科トレーニングに関して顕著な断絶がある。
SBEを支持するエビデンスがあるにもかかわらず、外科トレーニングカリキュラムに十分に組み込まれていない。
主なポイント

コミュニケーションとネットワーク:

コミュニケーションと情報発信が不十分なため、医療指導者とトレーニング環境との間に隔たりが生じている。
組織内のこのような関係上の距離は、効果的なコミュニケーションと協力の妨げとなる。

SBE導入の複雑さ:

SBEの価値は認識されているが、その実施は複雑であると考えられている。
すでに多忙な病院環境において、SBEが臨床業務にどのような支障をきたすかも懸念される。
レーニングのための時間を確保する必要があるが、これは依然として課題である。

SBEを裏付ける証拠の必要性:

指導者たちは、SBEが患者の安全を直接促進するという証拠を求めています。
SBE後のスキル向上を示す研究は多いが、患者転帰の改善との直接的な関連を示す研究はほとんどない。

患者の安全:

患者安全は、SBEの中核をなす議論です。
SBEによる患者安全の確保と、その実施における課題との間には緊張関係があります。

実施の義務:

参加者はSBEを支持しているが、その実施を自分たちの直接の責任とは考えていない。
誰がSBEを推進すべきかについて、異なる組織レベル間で期待にギャップがある。

実施プロセス:

SBEの明確で構造化された実施プロセスが欠けている。
明確なリーダーシップと説明責任がなければ、SBEの成功的な統合は困難である。

CFIRの有用性:

CFIRの枠組みは、SBEの実施における障壁を理解する上で有用であった。
しかし、本研究では、CFIRのいくつかの限界、特にドメインの定義における限界も浮き彫りになった。

 

意義:

革新的な実践を実施する際には、主要なリーダーとのオープンなコミュニケーションが不可欠である。
シミュレーションセンターは、自分たちの取り組みがより広範な枠組みに統合されるよう、組織のリーダーと協力する必要がある。

 

限界

本研究はデンマークで実施されたため、一般化には限界がある。
インタビュアーのシミュレーション専門家としての評価が参加者の回答に影響を与えた可能性がある。

 

結論
本研究は、シミュレーションセンターを含む医療組織レベル間のより良いコミュニケーションと協力の必要性を強調している。SBEを研修医の教育カリキュラムに効果的に組み込むためには、明確な実施プロセスと明確な役割と責任が重要である。