医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

学部臨床教育環境測定法を用いた2つの異なる医療現場における臨床学習環境

Clinical learning environments across two different healthcare settings using the undergraduate clinical education environment measure
Hani TS Benamer, Laila Alsuwaidi, Nusrat Khan, Lisa Jackson, Jeyaseelan Lakshmanan, Samuel B. Ho, Catherine Kellett, Alawi Alsheikh-Ali & Adrian G Stanley 
BMC Medical Education volume 23, Article number: 495 (2023)

bmcmededuc.biomedcentral.com

 

背景

医学生の臨床実習先は、私立と公立にほぼ均等に分布している。本研究の目的は、Undergraduate Clinical Education Environment Measure(UCEEM)を用いて、これら2つの異なる医療環境における医学生の臨床学習環境(Clinical learning Environment:CLE)に対する認識を評価することである。

 

調査方法

76名の医学部学生(5年生と6年生)に参加を呼びかけた。データは、人口統計と症例負荷に関する追加質問を含むオンラインUCEEMを用いて収集された。UCEEMは、経験的学習と社会参加の2つの包括的領域と、学習機会、準備、職場交流、包摂の4つの下位領域から構成されている。

 

調査結果

38件の質問票が寄せられた。UCEEMの個別項目に対する225件の回答のうち、51件(22.6%)が平均4点以上(範囲4~4.5、強い分野)、31件(13.7%)が平均3点以下(範囲2.1~3、注意が必要)、143件(63.6%)が平均3.1~3.9点(改善可能な分野)であった。症例数暴露の回答の大半(63%)は、平均4点以上(範囲4~4.5点)であった。私立のシッティングに比べて、公立では、UCEEMの総スコア(p = 0.008)、学生の入学準備(p = 0.003)、社会参加の包括的次元(p = 0.000)のスコアが有意に低下している。同様に、職場の相互作用パターンと学生の包摂・平等待遇のスコアは、いずれも公的部門で有意に低かった(それぞれp = 0.000、p = 0.011)。3項目のうち2項目は、公的部門で有意に高得点であった(p = 0.000)。

 

考察

本研究では、アラブ首長国連邦UAE)の医学生の学習環境、特に公立と私立の違いを理解することに焦点を当てる。学部臨床教育環境測定法(Undergraduate Clinical Education Environment Measure:UCEEM)を用いたところ、学生の臨床学習環境(Clinical Learning Environment:CLE)に対する全体的な認識は概ね肯定的であった。しかし、公立と私立の学習環境には大きな違いが見られ、改善の余地があることが示された。

UCEEMの約14%の項目が3点以下であり、注意を要する分野を示している一方、約23%の項目が4点以上であり、強い分野を示している。残りの項目は改善の余地がある。UCEEMの総スコアは89.8点で、スウェーデンや英国の学校のスコアに匹敵するが、UAEの調査ではサンプル数が少なかった。

公共部門で評価が低かったのは、主に学生の心構え、職場での交流、学生の包括性、公平な扱いに関するものであった。学生は、公的セクターの指導教官は利用しやすいが、十分な準備ができておらず、職場環境は民間セクターと比べて歓迎されていないと感じていた。また、性別や文化的背景にかかわらず、平等に扱われていないと感じていた。しかし、より多くの、より多様な患者に接することに関連する分野では、公的セクターの方が高いスコアを示した。

これらの結果は、監督と学習機会の質は両部門とも満足のいくものであるが、患者の多様性と量は公的部門の方が多いことを示唆している。しかし、公共部門の学生は、学生の心構え、職場での相互作用、学生の包容力に関する条件があまり良くないと認識しており、これは公共部門の臨床サービスにおける要求が高いためである可能性がある。

また、5年生と6年生の間にも認識の違いが見られたが、これはそれぞれの臨床実習の構造や期待に違いがあったためと思われる。年生の実習はより構造化されていたが、6年生はインターンシップ形式のプログラムで専門チームに属していたため、学生とスタッフの相互作用についてより深い洞察が得られた。

しかし、この研究には、学生数が少ないことや、「スナップショット」的な状況把握であるため、横断的デザインによるバイアスの可能性などの限界がある。にもかかわらず、この研究はUAEと湾岸地域で初めてUCEEMを用い、民間と公的医療部門を比較した点で重要である。著者らは、両部門の学生の学習経験を改善するために、さらなる縦断的研究と効果的な介入を推奨している。