Seeing primary care differently: comparing the educational value of different video formats for early, remote clinical experience
Emily Mackie ,Emily Pass ,Sarah Graham ,Hugh Alberti &James Fisher
Received 11 Sep 2025, Accepted 22 Oct 2025, Published online: 31 Oct 2025
Cite this article https://doi.org/10.1080/14739879.2025.2580421
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14739879.2025.2580421?af=R#abstract

研究の背景
医学生にとって、早期臨床体験(ECE)は非常に重要な学習機会である。特にプライマリケア(総合診療)での経験は、医療の複雑性を理解し、将来のキャリア選択にも影響を与えることが知られている。しかし、実際の診療現場での学習機会の拡大には様々な障壁があり、英国では近年その拡大が停滞している状況にある。
COVID-19パンデミックを契機に遠隔診療が急速に普及し、これが医学教育における新たな可能性を開いた。実際の診療を録画した動画を教材として活用する試みが各地で始まっているのである。
研究の目的と方法
ニューカッスル大学医学部の研究チームは、異なる形式の動画教材が医学生の学習にどのような影響を与えるかを調査した。対象となったのは医学部1年生と2年生で、以下の3種類の動画形式を比較している。
- VPC(Virtual Primary Care): 全国データベースから選ばれた事前録画動画
- 地域録画動画: 大学周辺地域のGPによる録画動画
- GP Live: 当日に録画された「ほぼリアルタイム」の動画
研究では質問票とフォーカスグループインタビューを組み合わせた混合研究法を採用し、学生の体験を多角的に分析した。
主要な発見
真正性(Authenticity)と学生のエンゲージメント
質問票の結果では、すべての形式が真正性があり、楽しく、関連性があると評価された。しかし、詳細なデータを見ると興味深い違いが浮かび上がってくる。
地域録画動画の優位性
学生たちは地域録画動画に対して、より強い真正性を感じていた。ある2年生は次のように述べている。
「信じられないほどリアルに感じた。説明するのは難しいけれど、自分がGPに行った時のような感じだった」
この感覚を生み出す要因として、以下が特定された。
- 地域性: 自分たちが将来診察することになる患者層を見られる
- 制作意図: 教育目的で制作されている点
- 撮影方法: 単一カメラによる連続撮影で、視聴者の目線の高さで撮影されている
一方、VPC動画については、全国放送を意識した撮影であることや、複数カメラによる編集が加えられていることが、やや人工的な印象を与えていた。
選好データ
数字も明確な傾向を示している。
- 1年生の84.6%が、VPCよりも地域録画動画を好むと回答
- 2年生の83.7%が、地域録画動画よりもGP Liveを好むと回答
複雑性の理解
GP Live形式の最大の特徴は、症例が事前に選別されていない点である。これにより、実際の診療の複雑さや予測不可能性が露わになる。
メリット
- より複雑で「完璧でない」診療場面を見ることができる
- GPの実際の役割をリアルに理解できる
- 記憶に残る強力な学習体験となる
ある2年生の言葉が印象的である。
「完璧ではなかった。だからこそ、GPが実際に何をしているのか、よりリアルな視点を得られた」
課題
しかし、この複雑性は両刃の剣でもある。量的データを見ると、GP Live動画は他の形式と比べて、学習内容を将来の実践に結びつけることが難しいという結果が出ている。
早期段階の医学生にとって、高度な不確実性を伴う症例は、時に不快感や興味の喪失につながる可能性がある。研究チームは、このような複雑な症例を扱う際には、学生に事前に不確実性の存在を伝え、構造化されたデブリーフィング(振り返り)の時間を設けることの重要性を指摘している。
オンラインデブリーフィングの課題
GP Live形式のもう一つの特徴は、動画視聴後にGPとオンラインで対話する機会がある点である。しかし、一部の学生はこのオンライン対話を「ぎこちない」と感じていた。
研究チームは当初、デジタルネイティブ世代の学生はオンラインコミュニケーションに慣れていると想定していたが、プロフェッショナルな文脈でのオンライン対話は、プライベートでの使用とは異なる体験であることが明らかになった。
この発見は、医学教育における遠隔医療スキルの育成の必要性を示唆している。
実践への提言
研究チームは、他の教育機関が同様の取り組みを実施する際の4つの実践的なアドバイスを提示している。
- 複雑性への対処: 学生が感じる不確実性を認め、教員自身の経験を共有することで、不快感と向き合う力を育てる
- デブリーフィングの構造化: 学生に質問を準備する時間を与え、グループで代表者を選んで質問させる
- 臨床判断の明示化: GPに、専門家として用いている思考プロセスを明示的に説明してもらう
- 学習の位置づけ: 特定の症例内容だけでなく、コミュニケーションスキルや専門職としての実践など、より一般的なスキルに焦点を当てる
研究の限界と意義
研究チームは、質問票の回答率が学年を通じて低下したこと、実際のGP経験がほとんどない学生に真正性を評価させることの難しさなど、いくつかの限界を認めている。
しかし、この研究の重要な貢献は、異なる動画形式の教育的価値を体系的に比較し、地域録画動画が最も学生に評価されることを示した点にある。
結論
遠隔での患者診察は、早期臨床体験を拡大する有効な手段である。しかし、単に動画を見せればよいわけではない。地域で録画された動画は、学生にとってより真正性が高く、関連性があると感じられる。
特に「ほぼリアルタイム」の動画は、GPの仕事の複雑性を浮き彫りにするが、学生が観察した診療内容を理解できるよう、意図的で構造化されたデブリーフィングが不可欠である。
研究チームは最後に重要な点を強調している。このような遠隔学習体験は、対面でのプライマリケア体験を「補完」するものであり、「置き換える」ものではない。実際の診療現場での「ハンズオン」の経験は、医学生を将来の診療の場に向けて鼓舞し準備させる上で、依然として基本的に重要なのである。