医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

総合診療医は複雑な事態にどう対処するのか?日本におけるチームエスノグラフィーの研究

How do general practitioners handle complexities? A team ethnographic study in Japan

Junji Haruta, Ryohei Goto, Ozone Sachiko, Shuhei Kimura, Junko Teruyama, Yusuke Hama & Tetsuhiro Maeno 
BMC Primary Care volume 23, Article number: 133 (2022) 

bmcprimcare.biomedcentral.com

 

背景
総合診療医(General Practitioner:GP)は、社会経済的・医学的問題を抱える患者を含む複雑な問題に直面することが多い。しかし、そのような複雑な問題にどのような方法でアプローチしているのかについては、まだ理解されていない。我々は、GPの日常活動を包括的に評価する複雑適応システム(CAS)の方法論を用いてこれらの方法を解明することが、GPの専門的能力の向上に寄与すると推測した。本研究では、専門家であるGPがどのように複雑な問題に対処し、地域社会の状況に適応しているのかを、GPと他の医療従事者のエスノグラフィーを通じて、CASの観点から明らかにすることを目指した。

研究方法
学際的チームエスノグラフィーの研究アプローチを採用した。日本国内の5つの病院と4つの診療所から、エキスパートGPを雇用していると思われる病院を目的別サンプリングで選択した。この9施設に勤務する様々な経歴を持つ62名を対象にインタビューを行った。そして、フィールドノートとインタビューデータを用いて、研究者間で解釈の妥当性を繰り返し議論した。筆頭著者(JH)は報告書のドラフトを作成し、参加施設のGPに確認させた。そして、得られた様々な知見を批判的に繰り返し検討することで、代表的なデータとともに最終的な知見が浮かび上がった。

結果
GPが複雑性に対処するために用いている4つのアプローチを明らかにした。第一に、GPは複雑な問題を抱える患者を全体として捉え、多方面からその問題に取り組む。第二に、他の医療従事者や関係者と水平的な信頼関係を構築し、問題の複雑さを軽減する。第三に、GPは、社会的ニーズに基づく自らの成長を約束し、日々の対人ファシリテーションを通じて他職種のロールモデルとなり、学習風土を変えていく。第四に、GPは多職種と地域ビジョンを共有し、組織変革の原動力となる。このようなGP、医療従事者、組織、コミュニティの様々な相互作用により、地域における医療・福祉ネットワークが体系化された。

結論
専門GPは、変動する社会的現実に適応するために、4つのアプローチを用いて、地域の医療・福祉ネットワークにおいて相互に関連した多次元的なシステムを構築していた。GPの職場環境は複雑な適応システム(CAS)とみなすことができ、GPの複雑性へのアプローチはCASに基づくものである。本研究で得られた知見は、GPの実務への応用が期待される。