医学教育つれづれ

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知識習得と学生の認識に関する3つの教授法:ライブ、反転、インタラクティブ反転授業のランダム化試験



Al-Karadsheh, O., Abutayyem, H., Saidi, A. et al. 

BMC Med Educ 25, 573 (2025). https://doi.org/10.1186/s12909-025-07156-0

bmcmededuc.biomedcentral.com

 

研究背景と目的

この研究は、歯学教育における教授法の変化と技術の進歩を背景に行われました。伝統的に講義中心だった歯学教育は、学生中心の教育へと移行する過程にあります。特に「反転授業」と呼ばれる教授法が注目されています。

反転授業とは、学生が新しい内容を教室外(通常はビデオ講義や読書を通じて)で学び、その後教室では対話型の問題解決演習に参加するという従来の教育方法を反転させたものです。この方法は学生の参加意欲を高め、批判的思考を育成し、長期的な知識の保持を促進するとされています。

本研究の具体的な目的は、以下の3つの教授法の効果を比較評価することでした:

  1. 伝統的な対面講義(ライブ講義)
  2. ビデオによる反転授業
  3. インタラクティブ要素を含むビデオによる反転授業

研究方法の詳細

対象と介入

  • 参加者:156人の第4学年歯学部学生(男性54人、女性102人)
  • 平均年齢:21.16±1.28歳
  • 平均GPA:3.30±0.46

各グループの介入内容:

  1. ライブ講義グループ(52人)
    • 歯学部の講堂で35分間の対面講義を受講
    • 講師との直接的なやりとりが可能
    • 講義前に事前テスト、講義後に事後テストとアンケートを実施
  2. 反転ビデオ講義グループ(52人)
    • 自宅で35分のビデオ講義を視聴(自分のペースで進められる)
    • インタラクティブ要素なし
    • ビデオ視聴前に事前テスト、その後の対面Q&Aセッションの後に事後テストとアンケートを実施
  3. インタラクティブ反転講義グループ(52人)
    • Mindstampを使用して作成された35分のインタラクティブビデオを視聴
    • 7-10分ごとにクイズ、対話型の質問、課題が埋め込まれている
    • ビデオ視聴前に事前テスト、その後の対面Q&Aセッションの後に事後テストとアンケートを実施

すべてのグループは同じ講師による標準化されたQ&Aセッションに参加し、その直後に監督下で事後テストを受けました。

評価方法

  1. 学業成績の評価
    • 10問の多肢選択式クイズによる事前・事後テスト
    • 講義の学習目標に基づいて設計され、講師はテストの内容を事前に知らされていない
  2. 学生の認識評価
    • 5段階リッカート尺度(強く同意する、同意する、どちらでもない、同意しない、強く同意しない)を用いたアンケート
    • 各教授法に適応した質問内容で構成
  3. 全体的な満足度評価
    • 「優秀」「非常に良い」「同じ」「悪い」「非常に悪い」の5段階で学習体験を評価

詳細な結果分析

学習効果の詳細

3つの教授法すべてが効果的でしたが、グループ間での比較では:

  • ライブ講義グループ
    • 事前テスト平均:53.65±18.36
    • 事後テスト平均:81.34±17.93
    • 平均向上度:27.69(95%信頼区間:21.20〜34.18、t(51)=8.56、p<0.001)
  • 反転ビデオ講義グループ
    • 事前テスト平均:52.11±19.23
    • 事後テスト平均:79.42±19.03
    • 平均向上度:27.30(95%信頼区間:20.15〜34.45、t(51)=7.66、p<0.001)
  • インタラクティブ反転講義グループ
    • 事前テスト平均:49.03±17.74
    • 事後テスト平均:76.15±19.81
    • 平均向上度:27.11(95%信頼区間:19.77〜34.45、t(51)=7.41、p<0.001)

3グループ間の効果サイズ(エータ二乗)は0.009と算出され、教授法による変動性が最小限であることを示しています。

性別による差の詳細

  • 反転授業グループ
    • 男性:26.92±30.10
    • 女性:27.43±24.46
    • 統計的有意差なし(p=0.956)
  • インタラクティブ反転授業グループ
    • 男性:27.22±24.68
    • 女性:27.94±22.93
    • 統計的有意差なし(p=0.919)
  • ライブ講義グループ
    • 男性:23.79±21.44
    • 女性:32.60±25.08
    • 統計的有意差あり(p=0.048)

GPAと教授法の関係

各GPAカテゴリーにおける教授法の効果:

  • 「優秀」GPAの学生
    • すべての教授法で一貫して高いパフォーマンスを示し、わずかな変動のみ
  • 「非常に良い」GPAの学生
    • ライブ講義で最も恩恵を受けた
    • 反転ビデオからインタラクティブ反転に切り替えると成績が低下
  • 「良い」GPAの学生
    • 反転ビデオ講義での12点から、インタラクティブ反転方式での28点へと向上
    • しかし、ライブ講義で最高の向上を示した
  • 「満足」GPAの学生(低GPAグループ):
    • より大きな変動性を示した
    • インタラクティブ反転からライブ講義に切り替えると、スコアが大幅に低下

学生の認識と満足度の詳細

インタラクティブ反転授業

  • 満足度が最も高く、97.7%の学生が「優秀」(56.5%)または「非常に良い」(41.2%)と評価
  • 87.5%の学生が、ビデオを一時停止、再生、操作できることが非常に有益だと報告
  • 92.3%の学生が、この方法がよりパーソナライズされた学習体験を促進すると感じた

ライブ講義グループ

  • 59.6%が「非常に良い」、40.4%が「良い」と評価
  • 83.6%の学生が、講師からのリアルタイムのフィードバックが複雑なトピックの理解を向上させたと同意
  • 20%の学生が、集中力を維持するのに構造化された環境が有益だと強調
  • 15.6%の学生が、インタラクティブ反転グループの同級生と比較して、参加度が低いと感じた

反転ビデオ講義グループ

  • 43.9%が「優秀」、51.2%が「非常に良い」と評価
  • 78.4%の学生が、自分のペースで講義を復習できる柔軟性を高く評価
  • 67.5%が、この方法が伝統的なライブ講義と比較して、より良く教材を理解できたと指摘
  • 31.2%の回答者が、インタラクティブ要素がないことで、インタラクティブ反転授業モデルと比較して、この方法がより受動的に感じたと報告

教育的意義と実践への示唆

  1. ブレンデッドアプローチの重要性
    • 研究結果は、単一の教授法に固執するのではなく、反転とライブの両方の要素を組み合わせることの価値を示唆しています
    • 学生の多様なニーズと学習スタイルに対応するためには、様々な教授法を状況に応じて使い分けることが効果的
  2. 低GPAの学生への配慮
    • 低GPAの学生は伝統的な講義形式で苦戦する傾向があり、反転授業やインタラクティブ要素が彼らの学習を助ける可能性がある
    • 教育者は、学術的に困難を抱える学生に対して、よりパーソナライズされた支援を提供する教授法を検討すべき
  3. 性別による学習スタイルの違い
    • 女子学生がライブ講義でより良いパフォーマンスを示した結果は、教授法を選択する際に性別による学習の違いを考慮する必要性を示唆している
  4. 実装の実用性
    • 複数の授業形式を開発することは時間と労力を要するため、得られる効果とのバランスを考慮すべき
    • 特に重要な概念や複雑なトピックに対して選択的に反転授業を実装することで、リソースを最適化できる可能性がある

研究の限界と今後の方向性

  1. 単一講義の制限
    • この研究は単一の講義に焦点を当てており、長期的なカリキュラム全体での効果を評価していない
  2. 長期的知識保持の未評価
    • 研究は即時的な知識獲得に焦点を当てており、長期的な知識保持や実践的応用への影響は評価されていない
  3. サンプルサイズの制限
    • 特に「満足」GPAカテゴリーの学生が少なく、この層での結論に限界がある
  4. 今後の研究の方向性
    • 長期的な知識保持と実践的応用への影響を調査する必要性
    • 性別による学習スタイルの違いをさらに探求する価値
    • より広範なカリキュラムでの反転教授法の効果を評価する必要性
    • 低GPA学生の学習成果を向上させるための最適な教授法の特定