Twelve tips for developing and implementing AI curriculum for undergraduate medical education.
Kim, D. H., Kang, Y. J., & Lee, Y. M. (2025).
Medical Education Online, 30(1). https://doi.org/10.1080/10872981.2025.2585637
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10872981.2025.2585637?af=R

背景と目的
AIは臨床推論の支援、業務効率化、公衆衛生における予測、精密医療の実現など、医療のあらゆる場面で変革をもたらしつつある。一方で、AIモデルの透明性欠如、データプライバシーの問題、アルゴリズムバイアスなど、技術的・倫理的・社会的課題も存在する。さらに、過密なカリキュラム、専門教員の不足、教育インフラ構築の高コストなど、実装上の障壁も大きい。
こうした状況を踏まえ、本論文は医学部教育におけるAIカリキュラムの効果的な開発・実装のための12のヒントを提示している。これらは文献レビュー、著者間の議論、実際のカリキュラム設計経験に基づいており、4つのテーマに整理されている。
12のヒントの概要
テーマ1: 目的と範囲の設定
Tip 1: 既存のコンピテンシー基盤型医学教育(CBME)の枠組み内でAI特有のコンピテンシーを定義する
多くの国で国レベルのコンピテンシーフレームワークが存在するため、新たなAIカリキュラムはこれらの既存構造に組み込む必要がある。韓国とカナダで実施されたデルファイ研究では、各国共通のコアコンピテンシーの存在とともに、文化的文脈を考慮することの重要性が示された。
Tip 2: AIを広範なデジタルヘルスの文脈に位置づける
AIは単独で機能するものではなく、電子カルテ、遠隔医療、ウェアラブルデバイスなどのデジタルヘルス技術と連携して動作する。医学生は、AIが単独の技術ではなく、より広いデジタルヘルスエコシステムの一部であることを理解する必要がある。
Tip 3: 医学AIの倫理的意識に焦点を当てる
AIの導入は、従来の医師-患者の二者関係をAIシステムを含む三者関係に変化させ、新たな倫理的複雑性をもたらす。全てのコンピテンシーフレームワークで倫理的・法的側面が中核テーマとして含まれている。インフォームドコンセント、バイアス、患者安全性、透明性、プライバシー、資源配分などの重要領域を扱う必要がある。
テーマ2: 深化・統合・柔軟性のためのカリキュラム構造
Tip 4: 学習段階を通じてAI学習を段階的に構築するスパイラルカリキュラムを採用する
中核概念を早期に導入し、複雑さと深さを増しながら繰り返し取り上げる。前臨床段階では基礎的なAI、データリテラシー、倫理、法律を扱い、臨床段階では実践的な臨床応用を行うことが推奨される。
Tip 5: 基礎科学、臨床医学、医療人文学の各コース内にAIカリキュラムを統合する
独立した科目として扱うのではなく、既存の基礎科学、臨床医学、医療人文学に統合する。例えば、薬理学では薬物発見、遺伝学では疾患予測、放射線科では画像解析など、各分野でAIの応用を学ぶ。
Tip 6: 必修と選択のAI学習経路のバランスを設計する
全ての医師が知るべき内容と、研究開発に携わる少数の医師のための内容を区別する。臨床現場で実際に使用されるAI技術の理解は必修とし、プログラミングスキルなどは選択科目とする。
テーマ3: 持続可能なAIカリキュラムのための基盤的リソースの確保
Tip 7: AI教育を持続させるための教員能力を構築する
現在の教員の多くは、AIが医学教育や臨床実践に組み込まれる以前に訓練を受けている。構造化された教員開発プログラムを実施し、AIツールへの実践的な触れる機会を提供することが重要である。
Tip 8: AI教育のための共有可能でアクセス可能なデジタルインフラを確立する
複数の機関が独立して類似のコンテンツを開発する「車輪の再発明」は、時間・人的資源・財政投資の無駄につながる。コンピテンシーの合意がすでに存在する今、機関間協力によるカリキュラム設計と教育資源開発が効率的である。
Tip 9: 多分野協働を促進する
医学AIは医学、コンピュータサイエンス、データサイエンス、倫理学を融合するため、多分野アプローチが不可欠である。産業界との協力も積極的に探求すべきである。
テーマ4: 経験・評価・改善によるAI学習の向上
Tip 10: AIのケース、シミュレーション、実世界での応用を通じて学生を参加させる
学習段階に応じた具体的アプローチ
前臨床段階でのケース学習
初期段階では、LLM(大規模言語モデル)ベースの患者シミュレーションを活用し、病歴聴取や診断推論などの中核的臨床技能を練習できる。これらのシミュレーションは、AI生成フィードバックを提供することで、改善を導く構造化された学習機会となる。
臨床段階でのシミュレーション統合
臨床段階では、AIツールをOSCE(客観的臨床能力試験)ステーションに組み込むことができる。こうしたシミュレーション環境では、学生は以下のことが可能となる:
- AIツールと直接対話する
- AI生成アウトプットを批判的に評価する
- これらのアウトプットを臨床推論に統合する
- 模擬患者に所見を説明する実践を行う
手技訓練における応用
手技訓練では、AIを活用したパフォーマンス動画の分析により、形成的フィードバックを提供できる。VR/AR技術と組み合わせることで、技能習得を支援する高忠実度学習環境を構築できる。
実世界での応用
シミュレーションは実際の診療に入る前の安全で構造化された機会を提供するが、AI教育は実世界での応用にまで拡張できる。具体例として以下が挙げられる:
- 臨床現場で使用されている電子カルテに組み込まれたデータ分析ツールの探索
- 実際の臨床データセットを使用したAIプロジェクトへの参加
- データ専門家との実世界での共同作業への参加
- 学生主導の提案を開発し、実装して真正な問題を解決する取り組み
Tip 11: 定義されたAI関連コンピテンシーと評価戦略を整合させる
Millerのピラミッドを活用し、各レベルに応じた評価を行う。「知っている」レベルでは知識テスト、「方法を知っている」レベルでは筆記演習、「示すことができる」レベルではOSCE、「実行する」レベルでは直接観察やポートフォリオレビューを用いる。
Millerのピラミッドに基づく段階的評価
第1段階:「知っている」(Knows)レベル
学生の認知的準備状態を評価する。具体的な方法として:
- AI技術の基本的理解を問う知識テスト
- AIリテラシーを測定する調査
- AIツール使用における自己効力感を測定する尺度
第2段階:「方法を知っている」(Knows how)レベル
学生の応用能力を評価する。具体的な方法として:
- AI生成アウトプットを解釈する能力の評価
- 既存のAIアプリケーションを批判的に評価する課題
- アルゴリズムバイアスなどの倫理的考察と対応戦略を筆記演習で表現する能力の評価
第3段階:「示すことができる」(Shows how)レベル
制御された環境でのパフォーマンスを評価する。具体的な方法として:
- AIが組み込まれたOSCEステーションでの評価
- AIを使用した時間制限のある診断課題
- 臨床問題解決のための効果的なプロンプト設計能力の評価
第4段階:「実行する」(Does)レベル
実際の臨床現場での能力を評価する。具体的な方法として:
Tip 12: 継続的なカリキュラム改善のための適応的評価とフィードバックシステムを実装する
AIは急速に進化しているため、定期的なカリキュラム更新が必要である。発展的評価(developmental evaluation)は、成功と限界をタイムリーに特定し、反復的改善を可能にする。学習者からのフィードバックを継続的に収集し、カリキュラムの欠点を特定して是正措置を講じることが重要である。
評価サイクルの確立
- 定期的なフィードバック収集: 学生、教員、臨床指導医からの継続的なフィードバック
- データに基づく意思決定: 評価データを活用したカリキュラム改訂
- 透明性のある報告: 評価結果のステークホルダーへの共有
- 柔軟な調整機構: 迅速な技術変化に対応できる改訂プロセス
結論
本論文が提示する12のヒントは、コンピテンシー基盤型カリキュラム、スパイラル学習構造、多分野戦略、体験的学習に焦点を当て、AI統合型医療環境の課題に対応できる学習者の育成を目指している。基礎から臨床までの各コースにAIを統合し、倫理的考察を含めることで、医療技術の進化する状況に対応できる学習者を育成するカリキュラムを構築すべきである。