医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

死亡宣告時の研修医のコンピテンシーと委託可能な専門活動リストの作成:修正デルファイ法研究

Development of a list of competencies and entrustable professional activities for resident physicians during death pronouncement: a modified Delphi study

Takaomi Kessoku, Yu Uneno, Yuka Urushibara-Miyachi, Kiyofumi Oya, Akihiko Kusakabe, Atsushi Nakajima, Noritoshi Kobayashi, Yasushi Ichikawa, Mitsunori Miyashita, Manabu Muto, Masanori Mori & Tatsuya Morita 
BMC Medical Education volume 22, Article number: 119 (2022)

 

bmcmededuc.biomedcentral.com

 

背景

死亡宣告を適切に行うことは、遺族のウェルビーイングに良い影響を与える可能性がある。しかし、若手医師が単独で死亡宣告を行うためには、コンピテンシーと委託可能な専門的活動(EPA)を学ぶ必要があるが、いずれも明確化されていない。そこで本研究では、研修医が研修終了時(卒後2年目)までに身につけるべき、死亡宣告の実践に必要なコンピテンシーEPAのリストを作成することを目的とした。

 

方法

31名の専門家による匿名修正デルファイ法が実施された。専門家は、日本全国の研修医のいる病院の一般病棟から、目的別および雪だるま方式で研究への参加をオンラインで募った。さらに3名の外部評価者を加えた非匿名のWeb会議を開催し、項目リストの最終決定を行った。コンセンサス基準は,各コンピテンシー項目およびEPA項目の5段階リッカート尺度の平均値が4点以上であり,参加者の80%以上が4点または5点の評価であると定義した。

 

結果

11 のコンピテンシーと 9 の EPA 項目について、パネルメンバー間で一貫して高い一致率を示し、コンセンサスを得ることができた。また、コンピテンシーEPA の対応表が作成された。

1. 患者の病気の軌跡を認識する 
2. 患者とその家族を支援するための多職種アプローチの重要性を認識する
3. 自分自身の心の健康を意識する 
4. 自分自身の心理的苦痛に適切に対処する 
5. 患者やその家族に対して敬意をもって接する 
6. 正しい医療行為で患者を診察する 
7. 遺族の苦痛に配慮する 
8. 家族の精神的苦痛を思いやるコミュニケーション 
9.  家族の感情や状況に対する受容が不確かであることを認識する 
10. その人に合った行動をとることの大切さを認識する
11. 実践の全過程を振り返る
 
1. 患者やその家族との出会いの前に、背景情報を収集する 
2. 臨床チームメンバー全員と情報を共有し、多職種連携による遺族ケアを提供する 
3. 身だしなみを整える 
4. 患者を診察し、バイタルサインの終了を確認する 
5. 死別について家族にわかりやすく伝える 
6. 家族への思いやりのあるコミュニケーション 
7. 適切な場合には、剖検について付添い医師と話し合う 
8. 死亡診断書を発行し、その内容を家族で共有する 
9. 適切なときに指導者や同僚と診療の全過程を振り返る 
 

本研究で追加されたもの
本研究では、「内省」と「対処能力」という2つの新規項目がコンセンサスにより特定されました。反省的であることは、医療従事者の重要な特性である。臨床実践全体としては反省が必要であるが、死亡宣告のような明確な指針のない特定の臨床実践では、実践者はより献身的に自らの実践を反省する姿勢が必要であろう。コンピテンシーEPAにリフレクションを加えることで、若手医師の教育・研修においてこのスキルが強調されることになる。また、医療従事者のメンタルヘルスも重要であり、特に死亡宣告は若手医師にとって負担となる可能性があるため、学習者はそこから生じる潜在的な苦痛を認識することが重要である。このことは、専門家としての孤独感を和らげ、燃え尽き症候群の予防につながる可能性がある。


結論

患者の死亡宣告実務における医師の行動に関するコンピテンシーEPAのリストを作成し、新規項目であるリフレクションとコーピングスキルの2つが重要な構成要素であることがコンセンサスにより確認された。このリストは、これらのコンピテンシーEPAに基づいた教育モデルの開発に役立つと期待される。さらに、これらの教育モデルの有効性を検証することが望まれる。