Twelve tips for conducting a medical education journal club.
McLeod, P., Steinert, Y., Boudreau, D., Snell, L., & Wiseman, J. (2010).
Medical Teacher, 32(5), 368–370. https://doi.org/10.3109/01421590903513426
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.3109/01421590903513426

Tip 1: MEJC(医学教育ジャーナルクラブ)の価値を検討する
背景と意義
ジャーナルクラブは多くの医療分野、特に卒後医学教育において成功を収めてきた実績がある。しかし、医学教育そのものを対象としたジャーナルクラブは極めて少ない。カナダの医科大学における医学教育ジャーナルクラブのディレクターたちは、この取り組みに対して一様に熱意を示している。
具体的な価値
- 初心者教育者への価値:医学教育の基礎的な概念、研究方法論、評価手法などを体系的に学ぶ機会となる
- 経験豊富な教育者への価値:最新の研究動向を把握し、自身の教育実践を振り返り、改善のヒントを得る
- 組織全体への価値:医学教育に関する共通言語と理解を醸成し、教育改善の文化を構築する
- 社会的価値:同僚との交流を通じて、孤立しがちな教育活動に対する支援ネットワークを形成する
- キャリア発展への価値:医学教育の世界への導入として機能し、教育学術活動への参加を促進する
実践的検討事項
- 潜在的参加者のニーズと興味
- 既存の教育開発活動との関係性
- 組織的支援の可能性
- リソース(時間、場所、予算)の確保
Tip 2: MEJCの目標を明確にする
目標設定の重要性
地域の文化や参加者の専門性によって適切な目標は異なる。しかし、グループ全体で目標を議論し、合意形成することが成功の鍵となる。目標が明確でないと、参加者の期待値にばらつきが生じ、満足度が低下する。
主要な6つの目標
(1) 医学教育文献の最新動向の把握
- 主要な医学教育ジャーナル(Medical Teacher, Academic Medicine, Medical Education, Teaching and Learning in Medicine等)の重要論文を定期的にレビュー
- エビデンスに基づいた教育実践(Evidence-Based Medical Education)の推進
- 自施設の教育課題に関連する文献の体系的な収集
(2) 教育研究の促進
- 研究デザインの理解促進
- 研究方法論(質的研究、量的研究、混合研究法)の学習
- 自施設での研究プロジェクト立案への示唆
- 共同研究のアイデア創出の場
(3) 議論の活性化
- 多様な視点からの意見交換
- 建設的な批判的思考の訓練
- 教育に関する共通理解の深化
- 論争的なテーマに対する多角的考察
(4) 新しい教育ツールやウェブサイトの学習
(5) クリティカルアプレイザルスキルの習得
- 研究の妥当性(validity)の評価
- 研究の信頼性(reliability)の検証
- 統計手法の適切性の判断
- バイアスの識別
- 研究結果の一般化可能性の検討
- 倫理的配慮の評価
(6) 新人教育者への研究スキル教育
- 文献検索の技術
- 批判的読解の方法
- プレゼンテーション技術
- 学術的議論のマナー
- 論文執筆の基礎
目標の優先順位付け
すべての目標を同時に達成することは困難である。各回のジャーナルクラブで主目標を1〜2つに絞り、それに応じて論文選択や討論形式を調整することが現実的である。
目標の定期的見直し
年度初めや学期初めに目標を再確認し、参加者のニーズの変化に応じて調整することが重要である。
Tip 3: 定期的な開催頻度を決定する
推奨される開催頻度
調査結果では、月1回、各1時間が理想的とされている。この頻度は以下の理由で支持される:
- 参加者の負担が過度にならない
- 定期的な学習習慣を形成できる
- 十分な準備時間を確保できる
- 継続的な議論の流れを維持できる
最低限の開催頻度
実務上の制約がある場合でも、年4回は実施すべきである。これより少ないと:
- 継続性が失われる
- 参加者のモチベーション維持が困難
- コミュニティとしての一体感が希薄化
- 学習効果が限定的
スケジュールの予測可能性
固定スケジュールの重要性
「毎月第3水曜日12時〜13時」のように、固定された日時を設定することで:
- 参加者が予定を事前に確保できる
- 出席率が向上する
- 組織的な承認を得やすい
- 新規参加者が参加しやすい
年間スケジュールの事前公表
- 年度初めに全回の日程を確定し公表
- 祝日、学会、試験期間などを考慮
- リマインダーシステムの構築(2週間前、3日前など)
柔軟性とのバランス
- 基本は固定スケジュールだが、重要なイベントとの重複時は調整
- オンライン参加オプションの提供
- 録画・資料共有による事後学習の機会
開催時間帯の選択
考慮すべき要因
- 昼休み:最も一般的。弁当持参で実施。臨床業務への影響が少ない
- 早朝:集中力が高い。ただし参加者確保が課題
- 夕方・夜間:勤務後。参加者の疲労度が高い可能性
- 週末:まとまった時間が取れるが、プライベートとの兼ね合い
時間長の設定
- 1時間:標準的。討論に十分だが、深い議論には制約
- 1.5時間:理想的。導入、発表、討論、まとめに十分な時間
- 2時間以上:複数論文や特別セッションに適するが、集中力維持が課題
ハイブリッド開催の検討
- 対面とオンラインの併用
- 遠隔地参加者の包含
- パンデミック等の不測の事態への対応
- 録画による非同期学習の可能性
Tip 4: 幅広い参加者を募る
多様性がもたらす価値
- 多角的な視点からの分析が可能
- 盲点の発見と補完
- 創造的なアイデアの創出
- 相互学習の促進
推奨される参加者構成
医学教育研究者
- 役割:研究方法論の専門的視点、批判的分析のモデル提示
- 貢献:エビデンスの質の評価、研究デザインの妥当性検証
- 学習機会:臨床現場の実践的課題の理解
基礎科学教員
- 役割:基礎医学教育の視点、科学的厳密性の重視
- 貢献:統合カリキュラムの視点、基礎-臨床統合の議論
- 学習機会:臨床教育の実践と課題の理解
臨床教員
- 役割:臨床教育の実践的視点、学習者の実態の共有
- 貢献:教育介入の実現可能性の評価、臨床現場への適用可能性
- 学習機会:教育理論と研究方法論の体系的理解
教育学者(教育心理学、教育社会学等)
- 役割:教育理論の専門的視点、学際的考察
- 貢献:教育学の理論的枠組みの提供、質的研究の専門的評価
- 学習機会:医療専門職教育の特殊性の理解
フェロー・大学院生
- 役割:新鮮な視点、最新の研究動向の情報提供
- 貢献:批判的思考の実践、活発な議論への参加
- 学習機会:研究デザインと批判的吟味のスキル習得、メンタリング
学生(医学生、看護学生等)
- 役割:学習者の視点、教育の受け手としての経験の共有
- 貢献:教育介入の学習者への影響の考察、若い世代の価値観
- 学習機会:教育研究の理解、批判的思考力の育成、キャリア開発
研修医・専攻医
- 役割:最近の教育経験の共有、若手教育者としての視点
- 貢献:カリキュラムの実効性評価、学習者と教育者の両面からの考察
- 学習機会:教育者としての能力開発、アカデミックキャリアへの導入
事務職員・教育支援スタッフ
- 役割:教育運営の実務的視点、実行可能性の評価
- 貢献:組織的実装の課題の指摘、システム的視点
- 学習機会:教育の専門的内容の理解
多様性確保のための戦略
積極的勧誘
- 個別の招待状送付
- 初回参加者への丁寧なオリエンテーション
- 「お試し参加」の奨励
- 参加者による口コミ推薦
心理的安全性の確保
- 初心者でも発言しやすい雰囲気作り
- 「愚問」は存在しないという姿勢
- 異なる意見の尊重
- 批判は論文に対して、人に対してではない
バリアの除去
- オンライン参加オプション
- 参加証明書の発行(キャリア開発への貢献)
- 弁当提供などの配慮
- 事前資料の十分な配布
注意すべき点
権力勾配への配慮
- 教授と学生が同席する場合、学生が萎縮しないよう配慮
- ファシリテーターによる積極的な発言機会の提供
- 地位ではなく論理で議論する文化の醸成
専門用語のバリア
- 参加者の背景知識の差を認識
- 必要に応じて用語の説明
- 資料に用語集を添付
Tip 5: リーダーシップを交代制にする
リーダーシップの構造
通常の進行役:経験豊富な批判的思考能力を持つ教育者が務めるべき理由:
- モデリング効果:批判的分析の手本を示す
- 議論の質の担保:重要なポイントを見逃さない
- プロセス管理:時間配分、全員参加の促進
- 建設的雰囲気の維持:批判的でありながら支持的な環境作り
論文提示者のローテーション:すべての定期参加者にリーダーの機会を与える意義:
- 能動的学習:教える立場になることで深く学ぶ
- スキル開発:プレゼンテーション、ファシリテーション能力の向上
- 主体性の醸成:受動的参加者から能動的貢献者へ
- 公平性:負担とメリットの共有
若手メンバーへの支援体制
メンタリングの重要性;論文選択と準備において上級教育者が支援すべき理由:
- 適切な論文選択は経験を要する
- 批判的分析の視点の習得には指導が必要
- 初回の不安軽減
- 質の高いセッションの保証
具体的な支援内容
論文選択段階
- 候補論文複数の中から選択を助言
- 論文の難易度と参加者のレベルのマッチング
- 話題性と教育的価値のバランス助言
- 批判的吟味に適した論文の見極め
準備段階
- 発表資料の構成についての助言
- 批判的分析のポイントの指摘
- 予想される質問への準備
- タイムマネジメントの助言
リハーサル
- メンターの前でのプレゼンテーション練習
- 建設的フィードバック
- 改善点の具体的指摘
- 自信の構築
当日の支援
- 導入部分での簡単な紹介
- 議論が停滞した際の救援
- 重要なポイントの補足
- 肯定的な評価とフィードバック
ファシリテーションスキルの段階的発展
レベル1:初回参加者
- オブザーバーとして参加
- 質問への回答から始める
- 簡単な論文の一部の紹介を担当
レベル2:経験者
- 1論文全体の批判的レビュー
- 簡単なファシリテーション
- メンターの密接な支援下で実施
レベル3:熟練者
- 複雑な論文の分析
- 独立したファシリテーション
- 若手メンターとしての役割
レベル4:エキスパート
- 議論のコーディネーション
- 若手育成の中心的役割
- プログラム全体の企画参画
リーダーシップローテーションの実務
年間スケジュール作成
- 年度初めに全回の担当者を決定
- 各自の希望と能力を考慮
- 初心者には経験者の後の回を配置
- 準備期間を十分に確保(最低1ヶ月前に担当論文決定)
責任の明確化
担当者の役割:
- 論文の選定と配布(1〜2週間前)
- 発表資料の準備
- 討論のファシリテーション
- 議事録の作成(または担当者指名)
Tip 6: 論文選択の基準を明確にする
論文選択の重要性
ジャーナルクラブの成否は論文選択で8割決まると言っても過言ではない。適切な論文は活発な議論を生み、学習効果を最大化する。一方、不適切な論文は時間の浪費となり、参加者のモチベーションを低下させる。
主要な選択基準
(1) 話題性(Topical Nature)
- 最新性:過去1〜2年以内の出版が望ましい
- 現在の教育課題との関連:カリキュラム改革、評価方法の革新、新しい教育技術など
- 社会的関心:医師働き方改革、プロフェッショナリズム、多様性など
- タイムリーな議論:直近の学会で話題になったテーマ
- 政策的インパクト:教育制度や認証基準に影響を与える研究
(2) 研究の新規性と魅力(Novelty and Appeal)
- 革新的な教育手法:これまでにない教育介入
- 意外な研究結果:常識に挑戦する知見
- 方法論の革新:新しい研究デザインや分析手法
- 理論的貢献:既存の教育理論の拡張や新理論の提案
- 学際的アプローチ:複数の学問領域を統合
(3) グループの興味と専門性との関連
- 自施設の教育課題:カリキュラム改革中ならカリキュラム設計の論文
- 参加者の専門分野:シミュレーション教育の専門家が多ければその領域の論文
- 進行中のプロジェクト:自施設で計画中の教育研究と関連する論文
- 継続的テーマ:前回の議論を発展させる論文
副次的な選択基準
(4) 論争性(Controversial Nature)
- 賛否が分かれそうな主張
- 既存の実践に疑問を投げかける内容
- 倫理的ジレンマを含む研究
- パラダイムシフトを提案する論文
(5) 著者の信頼性と評判
- 著名な研究者:その分野のソートリーダー
- 実績のある研究グループ:質の高い研究を継続的に発表
- 新進気鋭の若手研究者:新しい視点を提供
実践的な選択プロセス
ステップ1:候補論文の収集
ステップ2:一次スクリーニング
- タイトルと抄録で関連性を確認
- 上記の選択基準に照らした評価
- 候補リストの作成(各回5〜10論文程度)
ステップ3:精読と最終選択
- 本文の精読
- 批判的吟味に値するポイントの確認
- 討論の盛り上がりの予測
- メンターとの相談(若手の場合)
ステップ4:事前確認
- 参加者の興味との整合性
- 難易度の適切性
- 時間内に議論可能な分量
避けるべき論文の特徴
不適切な論文
- あまりに専門的:参加者の大多数が理解困難
- 方法論に致命的欠陥:議論が批判のみで終わる
- 記述的すぎる:批判的分析の余地が少ない
- 古すぎる:歴史的価値はあるが現在の実践に示唆が少ない
- 自明すぎる:新しい学びが期待できない
ケースレポートやオピニオン論文の扱い
- 研究論文ほど批判的吟味に適さない
- ただし、示唆に富む内容なら議論の題材として有用
- 目的を明確にして選択(批判的吟味 vs アイデア交換)
バランスの取れた論文選択
年間を通じての多様性
- 研究デザイン:量的、質的、混合研究法をバランスよく
- 教育段階:学部、卒後、生涯教育
- テーマ:カリキュラム、教授法、評価、教員養成など
- 難易度:挑戦的な論文と理解しやすい論文の組み合わせ
Tip 7: 討論の進行ガイドラインを作成する
討論進行の基本原則
単一リーダー制の利点:一人のディスカッションリーダーがプロセスを導く理由:
- 一貫性:議論の流れが統制される
- 公平性:全参加者への発言機会の保証
- 効率性:時間管理と議題管理
- 責任の明確化:進行に関する意思決定の主体が明確
全員参加の原則:リーダーは全参加者の関与を確保すべき理由:
- 多様な視点が議論の質を高める
- 静かな参加者こそ重要な洞察を持つ可能性
- 参加の公平性が満足度を向上させる
- 能動的参加が学習効果を最大化する
討論の標準的な流れ
第1段階:導入(5〜10分)
リーダーの役割
- 論文の選定理由の説明
- 著者と掲載誌の簡単な紹介
- 議論の焦点の提示
- 時間配分の説明
効果的な導入の例 「本日は医学教育のプログラム評価に関する論文を取り上げます。我々の施設でもカリキュラム評価が課題となっており、この論文のKirkpatrickモデルの応用は示唆に富むと考えました」
第2段階:研究の背景と目的の確認(5〜10分)
- リサーチクエスチョン:何を明らかにしようとしたか
- 先行研究のレビュー:どのような知識ギャップがあったか
- 研究の意義:なぜこの研究が重要か
討論を促す質問例
- 「このリサーチクエスチョンは適切に設定されていますか?」
- 「他にどのような研究デザインが考えられたでしょうか?」
第3段階:方法論の批判的検討(15〜20分):重点的に議論すべき点
- 研究デザイン:目的に対して適切か
- 参加者選定:サンプリング方法、サンプルサイズ
- データ収集:測定方法の妥当性と信頼性
- データ分析:統計手法の適切性
- 倫理的配慮:インフォームドコンセント、プライバシー保護
第4段階:結果の解釈(10〜15分)
- 主要な発見:何が明らかになったか
- 統計的有意性と臨床的/教育的意義:p値だけでなく効果量
- 図表の解釈:データの可視化の適切性
- 予期せぬ知見:想定外の結果とその解釈
第5段階:考察と結論の評価(10〜15分)
- 結果の解釈:過度の一般化はないか
- 限界の認識:著者は研究の限界を適切に認識しているか
- 先行研究との整合性:矛盾する結果への言及
- 実践への示唆:具体的で実行可能な提案か
第6段階:自施設への適用可能性の検討(5〜10分)
- この研究から何を学べるか
- 自施設の教育実践にどう活かせるか
- 実装する際の障壁は何か
- さらなる研究の必要性
討論促進のテクニック
オープンエンド質問の活用
❌ 避けるべき質問:「この研究デザインは適切ですか? はい/いいえ」
✅ 推奨される質問:「この研究デザインの長所と短所は何でしょうか?」
沈黙の効果的活用
- 質問後、少なくとも5〜7秒待つ
- 沈黙は思考の時間
- 焦って自分で答えない
「悪魔の代弁者」の役割
- あえて反対の立場から議論を提示
- 多角的な視点を促進
- 「もし〜だとしたら、どうでしょう?」
発言の少ない参加者への配慮
- 「○○さんの専門的見地からはいかがですか?」
- 「基礎医学の立場からのご意見は?」
- 直接指名するが、パスする権利も保証
議論の可視化
- ホワイトボードやフリップチャートの活用
- 主要ポイントの書き出し
- 賛成/反対の意見の整理
討論のルールとマナー
建設的批判の文化
推奨される批判の仕方
- 「この方法論には〜という限界があると思います」
- 「別の解釈として〜も考えられませんか」
- 「〜の点がもう少し明確だとよかったですね」
避けるべき批判
- 「この研究は全く意味がない」
- 「著者は〜を理解していない」(人格攻撃)
- 「こんな研究は時間の無駄」
礼儀正しさの維持
- 相手の意見を遮らない
- 異なる意見を尊重する
- 感情的にならない
- ユーモアは大切だが、皮肉は避ける
議論の活性化と制御のバランス
- 活発な議論の奨励:積極的な発言、割り込みさえも
- 秩序の維持:一度に一人、テーマから逸脱しない
- 時間管理:各セクションの時間を守る
リーダーの介入技術
議論が停滞した時
- より具体的な質問に変える
- 自身の経験や例を共有する
- サブグループでの短時間討論
- 休憩を入れて雰囲気転換
議論が脱線した時
- 「興味深い点ですが、後で戻りましょう」
- 「その議論は次回のテーマとして取り上げませんか」
- 優しく本題に引き戻す
一人が独占している時
- 「他の方のご意見も伺いたいのですが」
- 「時間の関係で、多くの方の意見を聞きたいので」
- 事前に発言時間の目安を設定
対立が激化した時
- 両者の意見を要約し共通点を見出す
- 「どちらの視点も重要ですね」
- 必要なら一時中断して個別に話す
代替的な討論形式
バリエーション1:構造化批判的吟味
- CONSORT、STROBE等のチェックリスト使用
- 系統的な評価
- 初心者に有用
バリエーション2:ロールプレイ討論
- 参加者が異なる役割を担当(著者、査読者、編集者、実践者)
- 多様な視点の体験
- 議論の活性化
バリエーション3:ジグソー法
- 論文の異なるセクションを小グループで検討
- 全体で統合
- 大人数に有効
バリエーション4:デザイン思考アプローチ
- 「この研究をどう改善できるか」
- 創造的思考の促進
- ポジティブな雰囲気
Tip 8: 適切な参加者数を検討する
最適人数の根拠
5〜15名が理想的な理由
最低5名が必要な理由
- 多様な視点:最低限の視点の多様性を確保
- 議論の活性化:意見交換が成立する最小単位
- 欠席への対応:数名欠席しても開催可能
- グループダイナミクス:集団思考を避けられる最小人数
- 持続可能性:全員が毎回発表担当となる負担が過重にならない
15名を上限とする理由
- 発言機会:1時間で全員が実質的に参加できる限界
- 親密性:互いの意見を聞き、反応できる規模
- 管理可能性:ファシリテーターが全員に配慮できる範囲
- 議論の深さ:人数が多すぎると表面的な議論に終わる
- 物理的制約:多くの会議室は10〜15名程度が快適
人数別の特性と対応
5〜7名:小規模グループ
特徴
- 全員が十分に発言できる
- 親密で支持的な雰囲気
- 欠席の影響が大きい
- 視点の多様性に限界
最適化戦略
- より深い議論を目指す
- 複雑な論文や論争的テーマに適する
- 欠席者への資料共有と事後フォロー
- 新規参加者の積極的勧誘
8〜12名:理想的規模
特徴
- バランスの取れた議論
- 適度な多様性と親密性
- 管理しやすい規模
- 活発だが制御可能
最適化戦略
- 標準的な進行で対応可能
- 様々な形式の試行が可能
- この規模の維持を目標とする
13〜15名:大規模グループ
特徴
- 多様な視点が得られる
- 全員の発言は難しい
- ファシリテーションの技術が重要
- サブグループ形成の可能性
最適化戦略
- より構造化された進行
- タイムキーパーの設置
- 発言時間の事前設定
- 小グループ討論の併用
15名を超える場合の対応
問題点
- 発言機会の不足
- 傍観者の増加
- 議論の表面化
- 時間管理の困難
- 少数の声の大きい参加者による支配
対応策
オプション1:オブザーバー制度
- コア参加者(15名まで):積極的に議論に参加
- オブザーバー:観察と学習に専念、質疑応答のみ参加
- ローテーション:オブザーバーも段階的にコア参加者へ
利点
- 多くの人に学習機会を提供
- コア参加者の議論の質を維持
- 新規参加者のお試し参加が可能
実施方法
- 事前登録制でコア参加者を確定
- オブザーバーは当日参加可
- オブザーバーからの質問は最後に受付
- オブザーバーも資料を事前受領
オプション2:複数セッションの開催
- 同じ論文で2回開催(異なる時間帯)
- 参加者は都合の良い方に参加
- 各セッション15名以内に制限
利点
- 全員に発言機会
- 柔軟な参加が可能
- 繰り返しによる学習効果
課題
- 準備と実施の負担増
- リーダーの時間的コスト
- 2回目の新鮮さの維持
オプション3:サブグループ制
- 専門分野や興味別に複数のジャーナルクラブ
- 各サブグループ10名程度
- 年数回は全体で合同開催
利点
- より焦点を絞った議論
- 専門性に応じた論文選択
- 管理しやすい規模
課題
- 調整の複雑さ
- 視点の多様性の減少
- リソースの分散
オプション4:ハイブリッド討論形式
- 前半:小グループ(4〜5名)で論文の特定セクションを検討
- 後半:全体で各グループの知見を共有・統合
利点
- 全員の能動的参加
- 深い検討と広い視野の両立
- 大人数でも効果的
実施例
- グループA:研究の背景と目的
- グループB:方法論
- グループC:結果
- グループD:考察と示唆
- 各グループ15分検討後、全体で30分討論
参加者数の変動への対応
安定化戦略
- コア参加者の育成:5〜10名の定期参加者を確保
- フレキシブル参加者:興味のあるテーマに参加
- 段階的拡大:急激な増加を避ける
- 待機リスト:人気が高い場合の管理
出席率向上策
- リマインダーの送信(1週間前、前日)
- 魅力的な論文選択
- 定期的なフィードバック収集
- 参加のインセンティブ(証明書、FDポイント等)
物理的環境の考慮
5〜10名の場合
- 推奨:会議テーブルを囲む配置
- 全員の顔が見える
- 親密な雰囲気
- ホワイトボード/フリップチャートへのアクセス
11〜15名の場合
- 推奨:U字型またはコの字型配置
- より大きな会議室が必要
- マイク不要だが声の通りを確認
- スクリーン投影が有用
オンライン/ハイブリッドの場合
- 人数制限の緩和:物理的制約が少ない
- 新たな課題:画面越しの議論の難しさ
- 対応策:ブレイクアウトルーム、チャット機能の活用
Tip 9: 扱う論文数を事前に決定する
論文数決定の重要性
各ジャーナルクラブで扱う論文数は、その回の教育目標と利用可能な時間によって決定すべきである。論文数は議論の深さ、参加者の準備負担、達成可能な学習目標に直接影響する。
1論文形式:深い批判的吟味
適した状況
- 主目標が批判的appraisal:研究方法論の精査が中心
- 複雑な研究デザイン:混合研究法、系統的レビュー、メタ分析など
- 論争的な論文:詳細な検討が必要
- 初心者中心:批判的思考スキルの教育
- 標準的な1時間セッション
メリット
- 徹底的な分析:論文のすべての側面を詳細に検討
- 深い学習:批判的吟味スキルの実質的向上
- 準備の集中:参加者の負担が明確で管理可能
- 方法論の習得:研究デザインと統計手法の深い理解
- 質の高い議論:時間的余裕があり、全員が発言可能
推奨される時間配分(60分の場合)
- 導入・論文の紹介:5分
- 背景と目的の確認:5〜7分
- 方法論の批判的検討:20〜25分(最重点)
- 結果の解釈:10分
- 考察・結論の評価:10分
- 実践への示唆と総括:5〜8分
批判的吟味の焦点
研究の妥当性(Validity)
- 内的妥当性:因果関係の推論は適切か
- 外的妥当性:一般化可能性はどの程度か
- 構成概念妥当性:測定は理論的構成概念を捉えているか
研究の信頼性(Reliability)
- 測定の一貫性
- 評価者間信頼性
- 再現可能性
バイアスの識別
- 選択バイアス
- 情報バイアス
- 交絡
統計的検討
- サンプルサイズと検出力
- 統計手法の適切性
- 効果量の解釈
- 信頼区間の意味
1論文形式の効果を最大化する工夫
- 事前課題:参加者に批判的吟味シートの記入を依頼
- ペア・ディスカッション:隣同士で5分間意見交換してから全体討論
- 構造化ガイド:CONSORT、STROBE等のチェックリスト使用
- 専門家コメント:統計専門家や質的研究専門家の招聘
2〜3論文形式:テーマ別比較検討
適した状況
- テーマ別レビュー:特定トピックの複数の研究を比較
- 異なる方法論の比較:量的研究と質的研究の対比
- 継時的変化の把握:初期の研究と最近の研究
- 論争の両側面:相反する結果や解釈を示す論文
- 広範な領域のサーベイ:新しい研究領域の概観
メリット
- 多角的理解:複数の視点から問題を検討
- 統合的思考:共通点と相違点の識別
- エビデンスの蓄積:一つの論文では不十分な知見の統合
- 批判的比較:研究デザインや結論の違いから学ぶ
- 包括的視野:研究領域全体の理解
留意点
- 批判的吟味は浅くなる:各論文の詳細な検討は困難
- 準備負担の増加:参加者は複数論文を読む必要
- 時間管理の難しさ:議論が拡散しやすい
- 焦点の喪失リスク:明確な目標設定が不可欠
推奨される時間配分(60分、2論文の場合)
- 導入・テーマ設定:5分
- 論文1の概要:10分
- 論文2の概要:10分
- 比較討論:30分
- 研究デザインの比較:10分
- 結果の一貫性・矛盾:10分
- 実践への示唆の統合:10分
- 総括:5分
効果的な論文の組み合わせ例
組み合わせ1:方法論の対比
- 論文A:アクティブラーニングの効果(RCT)
- 論文B:学生のアクティブラーニング経験(質的研究)
- 議論の焦点:量的データと質的データの相補性
組み合わせ2:発展的理解
- 論文A:基礎的概念を示す古典的研究
- 論文B:最新の発展的研究
- 議論の焦点:研究の進展、未解決の問題
組み合わせ3:論争
- 論文A:ある教育介入の肯定的結果
- 論文B:同介入の否定的または限定的結果
- 議論の焦点:結果の違いの理由、文脈の影響
組み合わせ4:国際比較
- 論文A:北米での研究
- 論文B:アジアでの研究
- 議論の焦点:文化的文脈、教育システムの違い
4論文以上:システマティックレビュー形式
適した状況
- 文献レビューセッション:特定テーマの包括的理解
- 拡大セッション(2時間以上)
- 研究プロジェクト開始前:背景文献の系統的レビュー
- 年次特別企画:通常とは異なる特別回
実施方法
方法1:ジグソー法
- 参加者を4〜5グループに分割
- 各グループが1論文を担当(20分)
- 全体で各論文の要点を共有(各5分×4論文=20分)
- 統合討論(20分)
- 総括(10分)
方法2:事前分担制
- 各参加者が事前に1論文を精読・要約
- 当日は各自が担当論文を5分でプレゼン
- 全体討論で統合
方法3:ミニシンポジウム形式
- 2〜3名のコア発表者が論文を事前準備
- 各15分のプレゼンテーション
- 指定討論者のコメント
- 全体討論
留意点
- 個々の論文の深い検討は不可能
- 明確なテーマ設定が不可欠
- 事前準備の負担が大きい
- 長時間確保が必要(最低90分、理想は2時間)
特殊形式:1つの研究の複数論文
状況
- 大規模研究の複数の出版物
- 本論文と補足資料
- 元の研究とそれに対するコメンタリー
例
- 論文1:主要な研究論文
- 論文2:同じ研究の長期フォローアップ
- 論文3:編集者コメンタリー
- 論文4:批判的レター
教育的価値
- 研究の全体像の理解
- 学術的議論のプロセスの理解
- 批判的思考の多層的発展
決定プロセス
ステップ1:教育目標の明確化
「この回で参加者に何を学んでほしいか?」
- 批判的吟味スキル → 1論文
- テーマの包括的理解 → 2〜3論文
- 研究領域のサーベイ → 4論文以上
ステップ2:時間の確認
- 60分 → 基本は1論文、最大2論文
- 90分 → 2〜3論文が可能
- 120分以上 → 4論文以上も検討可能
ステップ3:参加者の準備負担の考慮
- 臨床業務の多い参加者 → 1論文が現実的
- 研究フェロー中心 → 複数論文も可能
- 繁忙期を避ける → 負担の時期的調整
ステップ4:論文の性質
- 複雑な方法論 → 1論文に集中
- 短い論文 → 複数も可能
- 論争的テーマ → 複数の視点が有益
参加者への事前通知
決定した論文数と形式を事前に明確に伝える:
- 「今回は1論文を詳細に批判的吟味します」
- 「3論文を比較検討しますが、深い批判的吟味よりもテーマ理解を目指します」
- 「準備時間の目安:論文1は精読必須(60分)、論文2と3は概要把握でOK(各20分)」
柔軟性の維持
固定的なルールよりも、各回の目的に応じた柔軟な対応が重要である。年間を通じて、1論文形式と複数論文形式を組み合わせることで、多様な学習経験を提供できる。
Tip 10: 成果の発信
発信の意義
なぜ発信が重要か
ジャーナルクラブは単なる内輪の学習活動ではなく、より広い医学教育コミュニティへの貢献の機会である。
学術的価値
- 著者と査読者による二重チェックを経た論文でも、見落としや改善点が存在する
- 多様な背景を持つジャーナルクラブメンバーの集合知は、独自の価値を持つ
- 客観的で利害関係のない視点からの批判的評価
コミュニティへの貢献
- 他の教育者が同じ論文を読む際の参考となる
- 研究の解釈や適用に関する多様な視点の提供
- 医学教育の質向上への寄与
参加者自身への利益
- 学術的発信の経験
- 批判的思考の深化(発信を前提とするとより真剣に)
- キャリア発展(業績としての記録)
- ネットワーキングの機会
発信の形式と媒体
オプション1:学術誌への投稿
1. 読者批評(Reader's Critique)
- 概要:論文に対する批判的コメント
- 長さ:500〜1000語程度
- 内容:方法論の問題点、解釈の限界、追加の考察
例:Medical Teacher誌 論文では実際に読者批評が掲載された実績がある(D'Eon 2004の例)。
投稿のプロセス
- ジャーナルクラブでの議論を整理
- 主要な批判的ポイントを特定
- 建設的なトーンで執筆
- 代表者(または複数著者)名義で投稿
メリット
- 正式な学術業績
- 査読プロセスを経る
- 広い読者層への到達
課題
- 採択率は必ずしも高くない
- 執筆と投稿に時間を要する
- 全員を著者に含めることが困難
2. 短報・教育実践報告 一部のジャーナルクラブでは、独自の分析や追加調査を加えて、短報として投稿することも可能。
オプション2:編集者への手紙(Letter to Editor)
特徴
- より短い形式(300〜500語)
- 迅速な発信が可能
- 掲載率が比較的高い
適した内容
- 方法論の重大な欠陥の指摘
- 結果の代替的解釈の提案
- 重要な先行研究の未引用
- 実践上の重要な示唆
留意点
- 建設的で礼儀正しいトーン
- 具体的な根拠に基づく批判
- 個人攻撃ではなく科学的議論
オプション3:専門組織のフォーラム
MEDCAPs(カナダ医学教育学会)
- 概要:医学教育論文の批判的評価の共有プラットフォーム
- URL:www.came-acem.ca
- 特徴:
- 公式な査読はないが、コミュニティでの共有
- 比較的容易に投稿可能
- カナダ医学教育コミュニティへの貢献
類似のプラットフォーム
- 各国の医学教育学会のウェブサイト
- MedEdPortal(AAMC):教育リソース共有
- 学会のSNSグループやディスカッションボード
メリット
- 投稿の敷居が低い
- 迅速な発信
- コミュニティとの対話
課題
- 正式な学術業績としての認識が限定的
- リーチが限られる
オプション4:機関内発信
部門ウェブサイト
- 医学教育部門や教育推進センターのサイトに掲載
- 学内教員への情報提供
- 教育改善活動の可視化
内容例
- ジャーナルクラブのサマリー
- 推薦論文リスト
- 批判的吟味のポイント
ニュースレター
- 学内の教育ニュースレターに短報を掲載
- 定期的なコラムとして連載
- 教員の関心を引く要約と示唆
メリット
- 学内の教育文化醸成に貢献
- 手軽に始められる
- ジャーナルクラブの認知度向上
課題
- 限定的なリーチ
- 学術業績としての認識は低い
オプション5:ブログ・SNS
医学教育ブログ
- 個人またはグループのブログ
- より自由な形式とトーン
- 速報性が高い
Twitter/X、LinkedIn等
- 論文の要点と批判的コメントを共有
- ハッシュタグ(#MedEd, #MedicalEducation)の活用
- 国際的な医学教育コミュニティとの対話
メリット
- 即時性と広範な到達
- 対話的なフィードバック
- ネットワーク構築
留意点
- 学術的厳密性とのバランス
- 簡潔さが求められる
- 誤解を招かない慎重な表現
オプション6:学会発表
ポスター発表
- 地域や全国の医学教育学会
- ジャーナルクラブの活動報告
- 批判的吟味の主要知見
口頭発表・ワークショップ
- ジャーナルクラブの運営方法の共有
- 批判的吟味のプロセスと成果
- 他施設との経験交換
メリット
- 対面での議論
- ネットワーキング
- フィードバックの獲得
オプション7:医学教育専門誌の創刊
論文では示唆されているアイデア: 「ジャーナルクラブのサマリー専門の教育誌があってもよいのでは?」
コンセプト
- 各施設のジャーナルクラブの成果を集約
- 批判的吟味のベストプラクティスの共有
- 医学教育論文の二次評価のプラットフォーム
実現可能性
- オンライン・オープンアクセスなら実現可能
- 編集体制の構築が課題
- 持続可能性の確保
発信内容の質の担保
効果的な発信のための準備
ステップ1:議論の記録
- ジャーナルクラブ中の主要ポイントをメモ
- 議事録の作成
- 特に重要な洞察の識別
ステップ2:内容の精査
- 発信予定の批判が妥当か再確認
- 根拠の明確化
- 建設的なトーンの維持
ステップ3:執筆
- 明確で簡潔な文章
- 具体的な例と根拠
- バランスの取れた視点(肯定的側面も認識)
ステップ4:内部レビュー
- ジャーナルクラブメンバーによる確認
- 事実誤認や過度の批判のチェック
- 倫理的配慮の確認
発信の倫理
尊重と建設性
- 著者の労力を認識し尊重
- 人格攻撃ではなく科学的批判
- 改善のための建設的提案
透明性
- ジャーナルクラブでの議論に基づくことを明記
- 利益相反の開示
- 限界の認識
正確性
- 事実関係の確認
- 引用の正確性
- 誤解を招く表現の回避
Tip 11: まとめの時間を確保する
まとめの重要性
すべての効果的な教育活動と同様、ジャーナルクラブも適切な「まとめ」(wrap-up/closure)が不可欠である。まとめは単なる形式的終了ではなく、学習を統合し、強化し、次につなげる重要な教育的機会である。
まとめの教育的機能
学習の統合と強化
- 散らばった議論の収束:60分の議論で様々な論点が出るが、まとめで主要なメッセージに集約
- 認知的クロージャー:学習心理学的に「完結感」が記憶の定着を促進
- 重要ポイントの強調:何が最も重要だったかを明確化
- 個人的意味づけの促進:参加者が自分なりの学びを言語化する機会
メタ認知の促進
- 何を学んだかの自覚
- 自身の理解の限界の認識
- さらなる学習ニーズの同定
コミュニティ形成
- 共通の理解の確認
- グループとしての学びの実感
- 次回への期待感の醸成
まとめの構成要素
1. 議論の要約(5分)
批判的ポイントの整理 ファシリテーターまたは指名された参加者が主要な論点を要約:
長所の確認
- 「この研究の主な貢献は〜」
- 「方法論的に評価できる点は〜」
- 「実践への示唆として〜」
短所・限界の整理
- 「一方で、サンプルサイズの問題が〜」
- 「交絡因子のコントロールに関して〜」
- 「一般化可能性については〜」
テクニック:ホワイトボードの活用 議論中にホワイトボードに書き出した主要ポイントを見ながら要約すると効果的。
2. 代替的アプローチの検討(3〜5分)
「もしあなたが研究者だったら?」
この問いかけは、批判を超えて建設的思考を促す重要なステップ。
研究デザインの改善
- 「このリサーチクエスチョンに答えるために、どのような研究デザインが考えられますか?」
- 「サンプルサイズや期間についてはどうでしょう?」
- 「測定方法を改善するとしたら?」
原稿の改善
- 「方法の記述でどの情報が不足していましたか?」
- 「図表をどう改善できますか?」
- 「考察でどのような追加議論があれば良かったでしょう?」
教育的価値 この検討は、参加者、特に若手研究者にとって、自身の研究計画の質を向上させる貴重な学習機会となる。
3. 自施設への適用可能性(2〜3分)
「我々はこの研究から何を学べますか?」
実践への示唆
- 「この教育手法を我々のカリキュラムに取り入れられますか?」
- 「実装する際の障壁は何でしょう?」
- 「どのような修正が必要ですか?」
研究への示唆
- 「我々の施設で類似の研究を行えますか?」
- 「日本の文脈でこの研究を再現する意義は?」
- 「協力できる他施設はありますか?」
4. 次回への橋渡し(2〜3分)
次回の予定の明確化
日時と場所
担当者
論文テーマ(可能であれば)
つながりの強調(可能な場合)
参加の呼びかけ
5. 感謝とポジティブな終了(1分)
参加への感謝
特定の貢献の認識
ポジティブな閉じ方
・まとめの形式バリエーション
パターン1:ファシリテーターによる一方向的まとめ
利点:時間効率的、明確
欠点:参加型学習の機会を逃す
適用:時間が押している場合、大人数の場合
パターン2:参加者による順番まとめ
各参加者が一言ずつ「今日の学び」を共有
利点:全員の能動的参加、多様な視点
欠点:時間がかかる、冗長になる可能性
適用:小規模グループ(5〜10名)、時間に余裕がある場合
実施例 「では、一人ずつ今日の最も重要な学びを一文で共有しましょう」
パターン3:「3つのポイント」法
参加者全員で「今日の3つの重要ポイント」に合意
利点:焦点が明確、記憶に残りやすい
欠点:3つに絞る過程で議論が必要
適用:中規模グループ、明確なメッセージを残したい場合
実施例 「今日の議論から、皆さんが持ち帰るべき3つのポイントは何でしょう?」
パターン4:「一文要約」チャレンジ
グループで、今日の論文を一文で要約する
利点:統合的思考の訓練、楽しい
欠点:難しい、時間がかかる可能性
適用:チームビルディング、クリエイティブな雰囲気を好むグループ
まとめに含めるべき具体的内容
チェックリスト
✅ 主要な方法論的ポイント(最重要1〜2点)
✅ 主要な発見または結論
✅ 最も重要な限界(1〜2点)
✅ 実践または研究への示唆(1〜2点)
✅ 次回の予定(日時、担当者、テーマ)
❌ 避けるべきこと
- 議論の逐一の繰り返し(時間の無駄)
- 新しい論点の導入(議論が再開してしまう)
- 曖昧な終わり方(「じゃあこんなところで...」)
時間管理
タイムキーパーの役割
- 55分時点でファシリテーターに合図
- まとめに最低5分を確保
- 議論が白熱していても、まとめの時間は死守
まとめ時間の厳守
「まとめの時間がなかった」は、教育活動としての失敗を意味する。時間が足りない場合は、議論の途中でも打ち切り、まとめに移行する判断が必要。
まとめ後のフォローアップ
議事録の共有(24〜48時間以内)
- 主要な論点の要約
- 参加者リスト
- 次回の予定
- 関連資料へのリンク
議事録のテンプレート例
【医学教育ジャーナルクラブ議事録】
日時:2025年11月15日 12:00-13:00
参加者:15名
論文:[タイトル、著者、出版年]
【主要な議論ポイント】
1. 方法論:サンプルサイズは適切だが、選択バイアスの可能性
2. 結果:統計的に有意だが、効果量は小さく臨床的意義は限定的
3. 示唆:我々の施設でも類似の介入は試行可能
【次回予定】
日時:12月15日 12:00-13:00
ファシリテーター;00
テーマ:オンライン医学教育
参加証明書の発行
FDポイント等の制度がある場合、参加証明を発行
写真・SNS共有(許可を得て)
コミュニティ形成と活動の可視化
Tip 12: 継続的な評価
評価の必要性
医学教育におけるあらゆる活動と同様、ジャーナルクラブもプログラム評価が不可欠である。評価なくして改善なし。形成的評価(ongoing feedback)と総括的評価(summative evaluation)の両方を計画的に実施する必要がある。
評価の目的
参加者のニーズ充足の確認
- ジャーナルクラブが参加者の期待に応えているか
- 学習目標は達成されているか
- 参加者の満足度はどうか
プログラムの質の向上
- 何が効果的に機能しているか
- どこに改善の余地があるか
- リソースは適切に配分されているか
説明責任の果たし
- 組織(大学、部門)への報告
- 時間とリソースの投資の正当化
- FDプログラムとしての質保証
継続的改善のサイクル確立
形成的評価:年間を通じてのフィードバック
各回終了後の簡易フィードバック(2〜3分)
「プラス・デルタ」法 最も簡単で効果的な方法の一つ。
- プラス(良かった点):「今日良かったことは?」
- デルタ(改善点):「次回変えたほうが良いことは?」
実施方法
- 付箋紙またはオンラインフォーム
- 匿名でも記名でも可
- 2〜3分で記入
- 次回までにファシリテーターが確認・対応
「一言コメント」収集
参加者に退室時に一言だけフィードバックを求める。
「今日のジャーナルクラブを一言で表すと?」
- 「刺激的」「有益」「難しかった」「楽しかった」
3〜4回に1回の中間評価(5分)
簡易アンケート(3〜5項目)
1. ジャーナルクラブは学習目標達成に役立っていますか? (5段階評価)
2. 論文選択は適切ですか? (5段階評価)
3. 議論の進め方に満足していますか? (5段階評価)
4. 改善してほしい点は? (自由記述)
5. 継続して欲しい点は? (自由記述)
リアルタイムの観察とフィールドノート
ファシリテーターまたは指定されたオブザーバーが各回の観察記録を作成:
- 参加者の発言パターン
- 議論の活発度
- 時間配分の適切性
- 気づいた問題点
総括的評価:年次プログラム評価
タイミング
- 学年度末(通常3月または7月)
- 全回終了後
- 次年度計画前
包括的アンケート調査
設計の原則
- 10〜15分で完了可能
- 量的項目と質的項目の組み合わせ
- Kirkpatrickモデルの枠組み活用
- 匿名性の保証
Kirkpatrickの4レベル評価モデルの適用
レベル1:反応(Reaction) 参加者の満足度と主観的評価
質問例:
- 「ジャーナルクラブ全体に満足していますか?」(5段階)
- 「ファシリテーションは効果的でしたか?」(5段階)
- 「論文選択は適切でしたか?」(5段階)
- 「開催頻度は適切でしたか?」(5段階)
- 「同僚に推薦したいですか?」(5段階)
レベル2:学習(Learning) 知識・スキル・態度の変化
質問例:
- 「医学教育研究の理解が深まりましたか?」(5段階)
- 「批判的吟味スキルが向上しましたか?」(5段階)
- 「以下のスキルの自己評価」(各5段階)
- 研究デザインの理解
- 統計手法の理解
- 質的研究の理解
- 論文執筆への自信
- プレゼンテーション能力
レベル3:行動(Behavior) 実践への適用
質問例:
- 「ジャーナルクラブでの学びを教育実践に活かしましたか?」
- 「自身の研究計画に活用しましたか?」
- 「他の場面で批判的思考を応用しましたか?」
- 具体例の記述依頼
レベル4:結果(Results) 組織や学習者への影響(測定困難だが理想的には含める)
- 教育の質の向上
- 研究活動の活性化
- 学術発表・論文投稿の増加
質的データの収集
半構造化インタビュー
- 数名の代表的参加者(初心者、経験者、様々な背景)
- 30〜45分
- 詳細な経験と意見の収集
質問例:
- 「ジャーナルクラブに参加して最も価値があったことは?」
- 「どのような改善が必要だと思いますか?」
- 「参加を阻む要因は何ですか?」
- 「5年後、このジャーナルクラブがどうなっていて欲しいですか?」
フォーカスグループ
- 6〜8名のグループ討論
- 60〜90分
- 相互作用から深い洞察を得る
参加状況の分析
定量的データ
- 総開催回数
- 各回の参加者数の推移
- 参加者の属性(職種、専門、経験年数)
- 出席率の分析
- 新規参加者数と定着率
分析例
【2024年度ジャーナルクラブ参加状況】
- 総開催回数:10回
- 平均参加者数:12.3名(範囲8-16名)
- ユニーク参加者:25名
- 4回以上参加:15名(定着率60%)
- 新規参加者:10名
- 職種内訳:教員70%、大学院生20%、医師10%
評価結果の活用
短期的対応(次回までに)
形成的フィードバックから明らかな問題への即座の対応
例:
- 「論文が難しすぎる」→ 次回はより入門的な論文を選択
- 「一部の人だけが発言」→ ファシリテーション技術の改善、指名の活用
- 「時間が足りない」→ 時間延長または論文数削減
中期的改善(学期単位)
複数回のフィードバックから見える傾向への対応
例:
- 参加者の統計理解が不十分 → 統計ミニレクチャーを追加
- 質的研究への関心が高い → 質的研究特集回を企画
- 新規参加者が定着しない → オリエンテーション資料の作成
長期的プログラム改革(年次)
総括的評価に基づく構造的変更
例:
- 開催頻度の変更(月1回→隔週)
- オンラインとハイブリッドの導入
- サブグループ制の導入
- メンタリングプログラムの整備
- 発信活動の強化
評価結果の共有
参加者へのフィードバック
評価結果の透明性は信頼とエンゲージメントを高める。
共有内容
- 主要な統計データ
- 頻出する意見
- 実施する改善策
- 感謝のメッセージ
共有方法
- ジャーナルクラブでの口頭報告
- メール配信
- ウェブサイト掲載
例
【2024年度ジャーナルクラブ評価結果と改善計画】
皆様、1年間のご参加ありがとうございました。
評価結果をご報告します。
◆満足度:平均4.3/5.0(前年度4.0から向上)
◆最も評価された点:
- 多様な視点からの議論
- 実践的な示唆
◆改善要望:
- より実践的なテーマ
- 初心者への配慮
◆来年度の改善計画:
1. 隔月で「実践特集」回を設定
2. 初回オリエンテーション資料作成
3. オンライン参加オプション導入
引き続きご意見をお寄せください。
組織への報告
- 医学教育部門長への年次報告
- FDプログラムとしての活動報告
- 大学・学部への広報
継続的質改善(CQI)の文化
PDCAサイクルの確立
Plan(計画)
- 前年度評価に基づく目標設定
- 具体的な改善計画
- 成功指標の設定
Do(実施)
- 計画に基づいた実施
- 変更点の記録
Check(評価)
- 形成的・総括的評価
- データの収集と分析
Act(改善)
- 評価に基づく修正
- 次サイクルへの反映
参加型改善プロセス
評価と改善に参加者を巻き込む:
- 「改善委員会」の設置
- 参加者からの提案の募集
- 試験的取り組みへのフィードバック
評価の実践的ヒント
1. 評価疲れを避ける
- アンケートは簡潔に(10分以内)
- 頻度は適切に(毎回は不要)
- 結果を必ず活用する(形だけの評価は逆効果)
2. 多様な評価方法の組み合わせ
- 量的データと質的データ
- 形成的評価と総括的評価
- 主観的満足度と客観的指標(出席率、発表数等)
3. ベンチマーキング
- 他施設のジャーナルクラブとの比較
- 業界標準との照合
- ベストプラクティスの学習
4. 長期的トレンドの追跡
- 年次データの蓄積
- 経年変化の可視化
- 介入効果の検証
総合的考察
この12のヒントは、医学教育ジャーナルクラブを成功させるための包括的なフレームワークを提供している。しかし、最も重要なのは、これらを自施設の文脈に適応させ、継続的に改善していく姿勢である。
完璧なジャーナルクラブは存在しない。試行錯誤を重ね、参加者とともに育てていくプロセスこそが、ジャーナルクラブの真の価値を生み出す。