医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。最近はyoutubeも

免疫学ゲーム:医学免疫学教育を強化するボードゲーム

The Immunology Game: A Board Game to Enhance Medical Immunology Education

Caleb Mckee1, Kieran Allowitz1, Spencer Boster1, Trevor Plowman1, Hunter Stutz1, Amar Paul1, Holly Reyes1,*, Alice Akunyili, MD2, Kevin Steed, PhD3

https://doi.org/10.15766/mep_2374-8265.11552

https://www.mededportal.org/doi/10.15766/mep_2374-8265.11552

背景

医学教育における課題

  • 免疫学の複雑性: 自然免疫・獲得免疫、ワクチン、ウイルス、自己免疫など多岐にわたる内容
  • 学習の負担: 医学生は限られた時間で膨大な情報を習得する必要がある
  • 従来の教育法の限界:
    • 講義とPowerPointスライド
    • 教科書の読み込み
    • これらは多大な時間と努力を要し、学生の関心を維持しにくい

ゲーミフィケーションの台頭

定義と歴史:

  • 2003年にNich Pellingによって造語された
  • 2010年代から教育分野で本格的に活用
  • ゲームデザインの要素・原則・メカニズムを非ゲーム文脈に組み込む手法

医学教育での実績:

  • 薬理学教育での成果
  • 臨床神経生理学での活用
  • 微生物学教育での効果
  • ゲームベース学習を受けた医学生は従来の指導を受けた学生を上回る成績

デジタル vs アナログゲーム

デジタルゲームの特徴:

  • 利点: アクセスが容易、コスト効率的
  • 欠点:
    • 技術的問題の可能性
    • 社会的交流の欠如
    • 眼精疲労などの健康問題

アナログボードゲームの利点:

  • 糖尿病教育用ゲーム:薬理学、診断、管理における自信向上
  • 神経学教育用ゲーム:研修医が神経学の側面を記憶するのに有効
  • 生化学教育:従来の講義ベース教育より効果的

免疫学教育での既存研究

限定的な先行研究:

  1. オンライン免疫学ゲーム:ヘルパーT細胞になる過程を物語形式で体験
  2. 教育ソフトウェア:抗原-抗体関係を教える
  3. カードゲーム:高校生向け免疫学教育で有意な成績向上

研究のギャップ:

  • ボードゲーム形式での免疫学教育はこれまで存在しなかった
  • この研究がその空白を埋める試み

研究方法

対象者: Noorda College of Osteopathic Medicineの医学生41名

評価方法:

  • ゲーム前後の知識テスト(12問の多肢選択式)
  • 5段階リッカート尺度による満足度調査

主な結果

知識の向上:

学生の反応(5点満点):

  • ゲームを楽しめた: 平均4.59点
  • 学習効果を実感: 平均4.6点
  • グラフィックの明瞭性: 平均4.31点
  • ルールの理解しやすさ: 平均3.40点(最も低い評価)

肯定的なコメント:

  • 「素晴らしいゲーム!」
  • 「もっと長く遊びたかった」
  • 「教育的可能性を実感できる」

改善点:

  • 「ルールを理解するのが難しい」
  • 「説明が長すぎる。図解があれば理解しやすい」
  • 「最初は少し混乱した」

ゲームの特徴

ゲームメカニズムの例:

  1. マクロファージアクション:
    • カニズム: カードのアクションキュー内の位置に基づいて抗原クリスタルを収集
    • 教育的意義: 貪食作用を模擬
  2. ナチュラルキラー細胞アクション:
    • カニズム: 抗原(クリスタル)を消費して病原体(カード)にダメージを与える
    • 教育的意義: 細胞傷害活性を模擬
  3. 樹状細胞アクション:
    • カニズム: Tヘルパー細胞(カード)を獲得
    • 教育的意義: 抗原提示を反映

開発過程:

  • 5回のプロトタイプ試作
  • 医学生と教員からのフィードバックによる改良

実施要件

  • 所要時間: 約100分
    • ゲーム前テスト:10分
    • ルール説明:10分
    • ゲームプレイ:50分
    • ゲーム後テスト:10分
    • アンケート:10分
  • 人員: 4〜8名の参加者につき1名のファシリテーター

考察

教育的有効性

即時的な価値:

  • 従来の講義ベース教育を補完・強化
  • インタラクティブで協働的な学習活動を提供
  • 概念理解と学生エンゲージメントの両方を促進

適応性:

  • モジュラーデザイン:
    • 特定の学習目標に合わせてカスタマイズ可能
    • カリキュラムフレームワークに適応
    • 小グループプレイまたは大教室でのチームベースプレイ

実装の容易さ:

  • 印刷物のみで実施可能
  • 最小限の追加リソース
  • 他の機関でも容易に実装可能

強化される概念:

  • 自然免疫と獲得免疫の区別
  • T細胞サブセットの機能
  • サイトカインシグナリング
  • 免疫細胞間の相互作用

先行研究との比較

一致する知見:

  • ゲームベースの教育ツールが知識習得を強化
  • 学習者のエンゲージメントが向上
  • 生化学、神経学、糖尿病教育での類似結果

新規性:

  • 免疫学へのアプローチとしては初めてのボードゲーム形式
  • 従来のボードゲームが効果的であることを実証
  • デジタルツールとは異なる利点を提供

文献への貢献:

  • 免疫学教育のギャップを埋める
  • 伝統的なボードゲームの有効性を示す
  • 容易に適応可能な方法論を提供

結論と今後の展望

有効性:

  • 免疫学の概念を効果的に強化
  • 学生の理解度と関心を向上
  • 従来の講義を補完する価値ある教材

今後の改善点:

  • ルールをより明確で簡潔に(ビデオチュートリアルの追加など)
  • 長期的な知識保持の評価
  • より大規模で多様な学生集団での検証
  • デジタル版の開発

限界:

  • 調査ツールの妥当性検証が不十分
  • 長期的な知識保持の未評価
  • 物理的なゲームスペースの確保が必要

実装のための推奨事項

教育機関向けガイダンス

準備段階:

  1. 材料準備:
    • 100ポンドのカードストックにゲームコンポーネントを印刷
    • 抗原クリスタルとマーカー用のトークンを使用
    • 各チーム用の完全なゲームセットを準備
  2. ファシリテーターレーニン:
    • ルールブックを使用した1時間のトレーニン
    • 実践ゲームの実施
    • ルールの複雑性に対処
  3. 環境設定:
    • 2〜4名のプレイヤー用のテーブル配置
    • ゲームボード用のスペース確保
    • クイズ/調査材料の準備
  4. クイズの適応:
    • ローカルな免疫学カリキュラムと整合
    • 質問マッピングの使用
  5. ルールの簡素化:
    • クイックスタートガイドで補完
    • ビデオチュートリアルの活用
    • 学習曲線の軽減

カリキュラム統合

タイミング:

  • 免疫学コースの中盤が理想的
  • 基礎概念の導入後
  • 高度なトピックに入る前

統合方法:

  • 講義の補完として
  • ラボセッションの一部として
  • 復習セッションとして
  • 試験準備活動として

評価への組み込み:

  • 形成的評価ツールとして
  • 自己評価の機会として
  • ピアラーニングの促進