Human Factors: Affect Everyone, Involve Everyone
Amy Alcock, Charlotte Addy, Munawar Al-Mudhaffar, Marianne Jenkins, Melanie Cotter, Martin Edwards
First published: 29 July 2025 https://doi.org/10.1111/tct.70165
https://asmepublications.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/tct.70165?af=R

背景・目的
ヒューマンファクターとノンテクニカルスキル(NTS)の区別
ノンテクニカルスキル (NTS)
- 認知的、社会的、個人的スキル
- 具体的要素:状況認識、意思決定、コミュニケーション、チームワーク、リーダーシップ
- 訓練可能で測定可能
ヒューマンファクター
- より広範な学際的分野
- システム設計に焦点(人間の能力と限界に適合)
- 具体例:作業負荷・疲労、人間-機械相互作用、組織文化、物理的人間工学
- 実例:輸液ポンプの不適切な設計(ボタンが小さすぎる、読みにくい、直感的でないインターフェース)→看護師の誤った用量設定や設定誤認→患者への害
歴史的背景と政策的文脈
Mid Staffordshire NHS Foundation Trust調査 (2010年)
- この調査を受けて「Human Factors Concordat」が発表
- NHS全体でのリスク回避・軽減、高品質患者ケアの確保の必要性を強調
- 全スタッフによるヒューマンファクターの日常臨床実践への理解と組み込みの重要性
研究の動機
- NHS患者安全シラバスでは全医療従事者にとってヒューマンファクターを核となる教育テーマとして強調
- しかし、ウェールズでは多職種向けのヒューマンファクターコースが報告されていなかった
- この教育ギャップを埋めることを目的とした
方法・アプローチ
コース設計
- 期間: 1日間
- 対象: 全医療従事者(特定の専門分野に限定しない汎用コース)
- 参加費: 無料
- 多職種・多専門分野: 医師、看護師、管理職、助産師、薬剤師など
コース構成
1. Human Factors: The Basics(基礎講義)
- 大グループ形式
- ヒューマンファクター原則の理解
- 重要性の説明
2. コミュニケーションワークショップ
- 医療におけるコミュニケーションの重要性
- 異なるコミュニケーションスタイル
- 言語・非言語アプローチによる改善方法
- 具体的活動: 声のみ、身体言語のみでのメッセージ伝達演習
3. 対立・衝突ワークショップ
- 対立の種類、効果、特定方法
- 対立解決戦略
- 具体的活動: シミュレーション対立シナリオを用いた演習
4. 状況認識ワークショップ
- 状況認識の理論
- 実践的応用の理解と実演
- 具体的活動: 状況認識を示すビデオ視聴、シミュレーション状況を用いた演習
5. 意思決定ワークショップ
- 意思決定のプロセスと影響要因
- 効果的意思決定の重要性
- 具体的活動: 限定された可変情報での意思決定ゲーム+振り返り
6. ヒューマンファクターの実践的応用
- 大グループ形式
- 事前録画シミュレーション2本視聴(喘息の子どもと母親、救急チームの対応)
- 小グループでのテーマ別分析・ディスカッション→全体フィードバック
補助教材
- 事前配布資料
- オンライン学習プラットフォーム(復習・発展学習用)
結果
参加者データ(3回のコース実施)
- 総参加者数: 83名
- 職種別内訳:
- 医師: 38名(45.7%)
- 看護師: 34名(40.9%)
- 管理職: 3名(3.6%)
- 助産師: 3名(3.6%)
- フィジシャンアシスタント: 2名(2.4%)
- その他(歯科医師、薬剤師、理学療法士): 各1名
教育効果(統計的成果)
- 事前知識レベル
- 62.0%(49/79名)がヒューマンファクターの教育を「最小限または全くない」と回答
- 明確な教育ニーズを確認
- 自信度の向上
- コース前: 17.7%(14/79名)が自信を持っていると回答
- コース後: 82.9%(68/82名)が自信を持っていると回答
- 65.2%の向上
- 認識・意識の向上
- コース前: 54.4%(43/79名)がヒューマンファクターの影響を認識
- コース後: 93.9%(77/82名)がヒューマンファクターの影響を認識
- 39.5%の向上
- 学習目標の達成
- 98.8%(82/83名)が「コースの学習目標が明確で達成された」と回答
コース評価(10点満点)
- 有用性、内容、関連性、指導、組織運営すべての項目で8点以上の高評価
質的フィードバック
- 最も評価された点: コース内容全体、特定セッション、「すべて良かった」
- 実践への影響: 特にコミュニケーションに関する学習が有益
- 改善提案: セッション時間の調整、休憩時間の増加などの軽微な要望
意義・インプリケーション
教育効果の証明
- 認識度と自信度の大幅な向上を実証
- 多職種教育の有効性を確認
- 患者安全改善につながる臨床状況の特定能力向上が期待される
多職種教育の価値
- 医療システムが複雑化する中、多職種チーム医療が安全で質の高いケアに結びつく
- システム全体へのヒューマンファクターアプローチに対する理解促進
- 複数の専門分野・経験レベルからの参加による協調的学習の実現
持続可能性への配慮
- 医学教育部門でのコース内容・資源管理
- 継続的な講師陣の育成・拡充
- 小規模講師陣への依存リスクの軽減
研究の限界と今後の展開
研究の限界
- 単一施設での中小規模評価
- 未検証の質問票使用
- 自己報告による評価
- コース後の長期フォローアップなし
- 全参加者のペアデータが利用不可
今後の計画
- コース実施回数の増加
- 健康委員会全体への展開拡大
- 患者安全報告システムの分析による長期的影響評価
- 近隣健康委員会との協力
- ウェールズ健康教育改善機構との連携
波及効果
- 自施設、近隣健康委員会、ウェールズ健康教育改善機構からの関心拡大
- 同種の多職種ヒューマンファクター教育としては初の取り組み
この研究は、医療従事者のヒューマンファクター理解向上により患者安全の改善を目指す実践的かつ効果的な教育アプローチを示した重要な成果といえます。