The interactive virtual muscle and heart: using Minecraft Education Edition to teach skeletal muscle and cardiovascular physiology
B. D. Perry,K. A. Jenkin, andG. G. Perrone
07 Jul 2025https://doi.org/10.1152/advan.00244.2024
https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/advan.00244.2024?af=R

研究
教育ゲームの発展状況
- 歴史的経緯: ビデオゲームの教育利用は約50年の歴史があるが、本格的な活用は近年になってから
- 現状: 主に初等・中等教育での活用が中心で、高等教育での「シリアスゲーム」利用は比較的新しい分野
- 効果: 学生のエンゲージメント向上と学習成果の改善が実証されている
Minecraftの教育的特徴
- 基本概念: 3D仮想世界での「バーチャルレゴ」的な創作活動
- 利用者数: 月間1億7000万人以上のアクティブユーザー
- 教育版の特徴: 2016年にMicrosoft社が開発、教育専用の機能とブロックを追加
対象: 2年生の「Human Systems Physiology 1」履修者(220-250名)
期間: 2023-2024年
内容: 骨格筋と心臓の生理学を教える2つの3Dバーチャル教材を開発
主な教育活動
教育活動1: バーチャル骨格筋モデル
学習目標
筋興奮、興奮収縮連関、筋収縮の機序を3D環境で体験的に理解
詳細な学習プロセス
ステップ1: アセチルコリン放出
ステップ2: 活動電位伝播
- 場所: 筋膜と横行小管系
- 操作: 筋膜のレバーで活動電位を開始
- 視覚化:
- ナトリウムブロック(青色)でNa+流入を表現
- オレンジ色ブロックで筋膜、紫色で横行小管を表現
- 学習内容: 電位依存性ナトリウムチャネルの開口と膜興奮
ステップ3: カルシウム放出
- 場所: 筋小胞体
- 操作: ジヒドロピリジン・リアノジン受容体複合体の活性化
- 視覚化:
- 水流でCa2+の拡散を表現
- カルシウムブロックで受容体を装飾
- 学習内容: 興奮収縮連関の分子機序
ステップ4: 筋収縮(滑走フィラメント理論)
- 場所: 筋節の俯瞰プラットフォーム
- 操作: レバーでパワーストロークを開始
- 視覚化:
- 緑色ブロック:細いフィラメント
- ピンク色:太いフィラメント
- 赤色:ミオシンヘッド
- 学習内容: アクチン・ミオシン相互作用による筋節短縮
技術的実装詳細
| ステップ | 技術的手法 | 使用ブロック | レッドストーン回路の役割 |
|---|---|---|---|
| ACh放出 | ピストン制御による水流制御 | 水ブロック | ピストン制御回路 |
| 活動電位 | ディスペンサーからのNa排出 | ナトリウム(Na)ブロック | 複数ディスペンサー制御 |
| Ca2+放出 | ピストン非活性化による重力落下 | 水ブロック+Caブロック | 時間差制御回路 |
| 筋収縮 | ピストンによる細フィラメント移動 | スライムブロック | ピストン押し出し回路 |
教育活動2: バーチャル心臓モデル
学習目標
心周期の機序とECG波形の対応関係を統合的に理解
モデルの基本構造
- 心臓構造: 前面切開による内部構造の可視化
- 血液表現:
- 右心系:青色(水)= 静脈血
- 左心系:赤/オレンジ色(溶岩)= 動脈血
- ECG表示: 隣接する巨大ECGトレースボード
活動1: 心周期の順序と機序
レバー1: 血液流入開始
レバー2: 房室弁開放
- 操作: 房室弁開放による心室充満
- 学習内容: 圧勾配による弁開放機序
- 心周期: 拡張期の継続
レバー3: 洞房結節興奮
- 操作: 洞房結節の自発的興奮開始
- 視覚化:
- 右心房後壁でのSA結節光点
- 心房全体への興奮伝播
- ECG対応: P波の照明表示
レバー4: 房室伝導系興奮
レバー5: 房室弁閉鎖
- 操作: 心室圧上昇による房室弁閉鎖
- 学習内容: 圧勾配逆転による逆流防止機序
- 説明: 大動脈弁・肺動脈弁開放(視覚化なし)
レバー6: 心室再分極
- 操作: 心室興奮の終了
- 視覚化: 伝導系照明の消灯
- ECG対応: T波の照明表示、QRS消灯
活動2: チーム対抗クイズ
クイズ形式
- チーム分け: テレポーターによる2チーム編成
- 問題数: 4問の多肢選択問題
- 進行方式: 正解で次の扉が開放、不正解で最初からやり直し
- 協働要素: チーム内討議による答え決定
問題例と学習効果
| 問題番号 | 問題内容 | 正解 | 視覚効果 | ECG変化 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 最初に起こる現象は? | SA結節興奮 | 心房・心室血流+SA照明 | - |
| 2 | SA結節興奮のECG表現は? | P波 | - | P波照明 |
| 3 | 次に起こる現象は? | AV結節・房室束興奮 | 伝導系順次照明 | QRS照明 |
| 4 | T波の意味は? | 心室再分極 | 伝導系消灯 | T波照明 |
技術的実装詳細
レッドストーン回路システム
- 基本原理: レッドストーンランプの制御による照明システム
- 時間差制御: リピーターによる伝導遅延の再現
- ECG表示: ピストン+レッドストーンブロックによるスタンプ方式
- 流体制御: 活性化ピストンによる血液流動制御
視覚表現の工夫
- 色分けシステム:
- 右心系(静脈系): 青色統一
- 左心系(動脈系): 赤/オレンジ色統一
- 構造ラベリング: 看板による解剖学的構造の明示
- NPC活用: 各段階での詳細説明と誘導
エスケープルーム式クイズシステム
設計思想
- ゲーミフィケーション: RPG要素を取り入れた学習動機向上
- 協働学習: チーム戦による peer-to-peer 学習促進
- 即時フィードバック: 正誤判定の即座の視覚的表現
実装仕様
- 建物構造: 2棟の独立した5部屋構成
- 問題形式: 各部屋1問の4択問題
- 判定システム:
- 正解: 次の部屋への扉開放
- 不正解: ゾンビ攻撃→リスポーン→最初から再開
- 完了報酬: 花火やイルカなどのサプライズ演出
教育的効果
- 記憶定着: 失敗によるペナルティが記憶強化に寄与
- チームワーク: 討議を通じた深い理解の促進
- エンゲージメント: ゲーム要素による学習意欲向上
教育理論的基盤
構成主義学習理論
- 知識構築: 学生が能動的に知識を「構築」する過程
- 従来との対比: 「伝達」モデルから「構築」モデルへの転換
- MEEの適合性: 3D環境での能動的操作による知識構築
体験学習理論(Kolb)
- 定義: 経験を知識に変換する学習プロセス
- 4段階サイクル:
- 具体的経験(MEE世界での操作)
- 内省的観察(プロセスの振り返り)
- 抽象的概念化(生理学理論との統合)
- 能動的実験(再操作による確認)
社会的構成主義
- 協働学習: 他者との相互作用による知識構築
- MEEでの実現:
- 多人数同時参加による共有体験
- チーム戦クイズでの協働問題解決
- ピア・ツー・ピア学習の促進
教育手法の特徴
インタラクティブ性: 学生がレバーやスイッチを操作して生理学的プロセスを起動
協働学習: チーム戦でのクイズ活動「エスケープルーム」スタイル
体験的学習: 3D環境での没入型体験による理解促進
利点と課題
利点
- 複雑な生理学的プロセスの視覚化
- 学生の積極的参加と協働学習の促進
- 空間的関係性の理解向上
- 比較的低コスト(年間$5.04 USD/ライセンス)
課題・限界
- 技術的問題(40-50%の学生が参加できない場合)
- ネットワーク接続の制約
- モデルの簡略化による現実との乖離
- 開発に32-48時間の作業時間が必要
実践的推奨事項
導入を検討する教育者への提言
事前準備
- 制度的支援: 機関レベルでのライセンス取得
- 技術環境: ネットワーク環境の事前テスト
- スキル習得: 15-20時間の基本操作習得期間確保
実装戦略
- 段階的導入: 小規模テストから本格実装へ
- 代替案準備: 技術的問題に対するバックアッププラン
- 学生サポート: 事前説明と技術支援体制の整備
継続的改善
- 学生フィードバック: 定期的な評価と改善
- 教員間協力: 複数教員による知識共有
- 長期計画: 段階的な機能拡張と内容充実
研究・評価の方向性
- 定量的評価: 学習効果の客観的測定手法開発
- 比較研究: 従来手法との系統的比較
- 長期追跡: 学習効果の持続性評価
今後の展望
この取り組みは大学レベルの生理学教育におけるMEE活用の先駆的事例として、他の教育機関での応用可能性を示している。ただし、技術的課題への対処と、従来の教育手法との適切な組み合わせが重要であると結論付けている。