医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

ピクセルから実践へ:手術ビデオによる医学生教育の強化

From Pixels to Practice: Enhancing Medical Student Education With Operative Video
Lachlan Dick, Maggie Kerr Livingstone, Katie Hughes
First published: 19 February 2025 https://doi.org/10.1111/tct.70049

https://asmepublications.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/tct.70049?af=R

1. 序論と背景

  • 外科教育の伝統的アプローチ:外科技術の習得は長期間にわたる必要があり、医学生は通常、外科専門科での研修を通じて最初の経験を得る。従来の教育は教科書、講義、手術室での時間に依存していた。
  • 現代の課題:学生数の増加により、個々の臨床経験と満足度が影響を受けている。学生は他の専門分野と比較して外科実習の準備不足を感じている。
  • 新しいアプローチの必要性:問題基盤型学習やシミュレーションなど新たな教育方法が発展してきたが、さらなる革新が必要。
  • 手術ビデオの可能性:航空業界などの他産業での成功事例から着想を得て、手術ビデオが医学生教育を強化する機会を提供。

2. 手術ビデオの現在の教育的応用

  • 多様な学習成果の促進
    • 解剖学の識別・理解
    • 手術ステップの理解
    • 外科器具の識別
    • 患者の症状と画像所見との関連付け
    • チームダイナミクスと人間工学的要素の理解
  • 教育的アプローチの多様性
    • 自己学習用ビデオバンク:学生は臨床実習への準備が整い、知識スコアが向上したと報告。Seltenらの研究では、構造化されたオンラインベースの手術ビデオへの無制限アクセスを提供された学生は、標準的な外科カリキュラムに従った学生と比較して、研修後の評価スコアが大幅に向上。
    • ファシリテーションされたセッション:手術室よりも威圧感の少ない環境で学習ポイントを明確化できる。
    • ライブストリーミング:患者の全体的な治療過程への理解を深め、手術医とのインタラクションを通じて学習体験をさらに強化できる。学生からのフィードバックは好意的で、多くの学生がその定期的な使用を支持。
    • 複数視点のビデオストリーム:壁に取り付けられたカメラにより、学生は手術中の手術チーム全体を見ることができ、非技術的スキル、チームダイナミクス、ヒューマンファクターの学習を促進。一人称視点は外科医の動きと人間工学が手術野内でどのように反映されるかを示す。

3. 手術ビデオ教育導入における課題

  • ビデオ撮影の非日常性:手術を行うためにビデオが頻繁に使用されているにもかかわらず、手術ビデオの撮影は日常的ではない。
  • オープンソースビデオの品質問題
    • ビデオフィードの質が低く、高解像度で記録された手術は少ない
    • 外科医のスキルと安全性の表示に問題がある
    • 教育が主な目的ではないため、解説やビジュアルエイドなどの学習促進コンテンツが欠如
    • 外科実践の変動により、オープンソースの手術ビデオを目的の学習成果と一致させることが困難
  • データガバナンスの障壁
    • 患者はプライバシーの懸念を持ちつつも、教育・訓練のために自分の手術が記録されることの潜在的利益を認識
    • 手術ビデオの非識別化戦略の開発が優先事項
    • ライブストリーミングの場合はセキュアなネットワークが必要
    • 信頼性の高いインフラストラクチャが教育の質を維持するために不可欠
  • 手術室経験の潜在的代替への懸念
    • 学生はすでに手術室に出席する機会を逃していると報告
    • 代替的な手術曝露の提供はこの問題をさらに悪化させる可能性
    • 手術室は手術自体を超えた豊かな学習環境であり、ビデオベースの教育がこの経験を補完し、代替しないことが不可欠

4. 障壁の克服策

  • 明確な目標設定:手術ビデオベースの教育を成功させるためには、使用目的の明確な目標設定が不可欠。例としては手術ステップと解剖の実証、臨床症例に文脈を提供することなど。
  • 学生の参加医学生をこのプロセスに参加させることで、トレーニングニーズが満たされることを確保できる。
  • ビデオソースの改善
    • ローカルで作成された専用ビデオ:初期リソースは必要だが、意図した学習成果との一貫性を維持し、ビデオ全体で一貫性と臨床文脈を提供するのに役立つ。
    • 撮影・保存の品質確保:視界の確保、必要に応じて追加カメラの使用、チェックリストで目標達成を確認(最大時間など)、重要な概念を注釈するための編集ソフトウェアの使用。
    • オープンソース利用時の質確保:ピアレビューされたビデオか学術機関から入手したビデオを使用することで、教育品質が向上する可能性。
  • オープンソース化の検討:教育的価値があり、倫理的承認が得られ、教育的手術ビデオ報告のガイドラインに準拠していることを条件に、教育者はビデオをオープンソース化することも検討すべき。

5. 結論

  • 手術ビデオは医学生教育における新興ツール
  • 現在の応用は複数の学習成果を促進し、伝統的な教育方法を補完
  • 学生からの評価も良好
  • 日常的なビデオ撮影の低さとオープンソースの教育品質への対応が優先事項
  • これらの課題が克服されれば、手術ビデオは学生経験を変革し、手術室へのより良い準備を提供する可能性がある