医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

言葉にならないとき: 質的インタビューにおける革新的な引き出し技法の統合的レビュー

When words fail us: An integrative review of innovative elicitation techniques for qualitative interviews
Renate Kahlke, Lauren A. Maggio, Mark C. Lee, Sayra Cristancho, Kori LaDonna, Zahra Abdallah, Aakashdeep Khehra, Kushal Kshatri, Tanya Horsley, Lara Varpio
First published: 16 October 2024 https://doi.org/10.1111/medu.15555

https://asmepublications.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/medu.15555?af=R

はじめに

インタビューは、医療専門職教育(HPE)における多くの質的研究の中心である。 しかし、研究者は豊かなデータを引き出したり、多様な参加者を巻き込んだりすることに苦労することが多い。 エリシテーション技法は、このような課題に対処するために調整された戦略であり、参加者の写真撮影や近隣の散策など、他の形態の相互作用を通じて口頭での会話を強化する。 これらの戦略は、複雑な問題に取り組み、参加者を有意義に巻き込むために必要な豊富なデータを引き出すために調整されている。 残念ながら、これらの技法に関するガイダンスは、様々な分野の文献に散らばっている。 本総合研究では、利用可能なエリシテーション技法の概要と、それらの選択方法に関するアドバイスを提供する。

方法

我々は、健康科学と社会科学にまたがる方法論的文献を活用し、統合的なレビューを行った。 学際的な検索を行った結果、3056件の引用が得られた。 その中から、方法論に重点を置き、成人との面接で用いられる引き出し技法について論じた293件の引用文献を抽出した。 そして、具体的なエリシテーション技法を抽出し、それぞれの技法を要約することで、主要な特徴や長所・短所を把握した。 そこから、研究者がインタビューに基づく研究における課題を特定し、その課題に対応するエリシテーション技法を選択するのに役立つフレームワークを構築した。

結果

  1. 豊かなデータを開発するためのテクニック

A) スクリプトを避けるため:

  • オブジェクト引き出し:参加者が選んだ物を通して会話を展開
  • 図式的引き出し:従来の表現を超えた現象の表現を促す
  • 例:批判的思考について議論する際に、教員が授業計画や医学史の資料を選び、それを基に議論を展開

B) 会話の外在化:

  • 参加者選択の画像やオブジェクトに焦点を当てる
  • 研究者と参加者が協働で意味を作り出す
  • センシティブな話題(悲しみやトラウマなど)を扱う際の圧力軽減
  • ビネット法:第三者の視点から議論可能

C) 感情の引き出し:

  • 創造的手法を用いて感情体験を表現
  • 写真や音楽を通じて感情体験を捉える
  • 日記法:私的な思考や感情を記録する安全な空間を提供

D) 暗黙知の引き出し:

  • ビデオ引き出し:実践における意思決定プロセスの振り返り
  • マスク作り:医学生のプロフェッショナルアイデンティティ形成の探求
  • 描画:外科医の実践における複雑性の表現

E) 文脈的詳細の引き出し:

  • 関係性マッピング:支援ネットワークの可視化
  • ウォーキングインタビュー:場所に基づく経験の探求
  • タイムライン:時系列的な経験の把握
  1. 参加者のエンパワーメントのためのテクニック

A) 研究者-参加者関係の公平性:

  • 参加者主導の写真・音楽選択
  • 参加者が重要と考える経験に焦点を当てる機会の提供
  • 共同での意味作りの促進

B) アクセシビリティの向上:

  • 脆弱な立場の参加者への配慮
  • 認知・注意に関する課題がある参加者への適応
  • 多様なコミュニケーション方法の提供

考察

  1. パラダイムシフトの必要性:
  • データ収集から知識の共同生産への転換
  • 一貫性よりも個別性の重視
  • 多様な表現方法の価値認識
  1. Universal Design for Research (UDR)の重要性:
  • 研究デザインの包括性
  • 参加者のニーズに応じた柔軟な方法選択
  • 複数の引き出しテクニックの組み合わせ
  1. 実践上の課題:
  • 研究者の新しいスキル習得の必要性
  • 多様なデータ形式の分析方法の開発
  • 編集者・査読者への教育的アプローチ
  1. 今後の展望:
  • HPE分野での方法論的リソースの充実
  • 他分野の専門家との協働
  • 研究インパクトの向上可能性
  1. 限界:
  • すべての文献を網羅していない可能性
  • 実証研究の除外
  • インパクト向上の観点からの分析不足