医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

3Dスキルモデルの総括的パフォーマンスを評価する症例対照試験

A case-controlled trial evaluating the summative performance of the 3-D skills Model
C. Robertson, Z. Noonan & J. G. Boyle 
BMC Medical Education volume 24, Article number: 954 (2024)

bmcmededuc.biomedcentral.com

背景

アピアティーチングは一般的な教育ツールであるが、既存のモデルの多くは、総括的なOSCEの成績に効果があることを実証できていない。 3ステップ分解(3-D)スキルのニアピアモデルは、社会構成主義的な教育原理を活用し、形成的OSCEの成績の短期的な改善を示した。 本研究の目的は、3-Dスキルモデルの指導が総括的OSCEの成績に影響を及ぼすかどうかを評価することである。

*3-D skillsモデル(3-step deconstructed skills model)

新しい近接ピア教育(Near-Peer Teaching, NPT)の手法です。このモデルは、従来のPeyton's 4-step approachを修正し、より焦点を絞った効率的なアプローチを提供しています。

3-D skillsモデルの3つのステップは以下の通りです:

  1. Deconstruction(分解): 近接ピア講師が、学生が行った臨床スキルの実演を観察し、そのスキルを構成要素に分解します。
  2. Discussion(議論): 講師は学生と一緒に、スキルの各構成要素について議論します。この段階で、正しい技術や改善点について詳細に話し合います。
  3. Deliberate practice(意図的練習): 学生は、議論で得た情報を基に、スキルの特定の部分を集中的に練習します。

このモデルは、形成的OSCE(客観的臨床能力試験)の後に3分間の追加指導時間を設けて実施されます。

3-D skillsモデルの特徴:

  1. 時間効率が良い:従来のPeyton's 4-step approachよりも短時間で実施可能。
  2. 個別化された指導:学生の現在のスキルレベルに基づいて指導を調整。
  3. 自己調整学習の促進:学生が自身のパフォーマンスを振り返り、改善点を特定するのを支援。
  4. 近接ピア講師の活用:学生に近い年齢や経験レベルの講師を活用し、認知的一致性を高める。

方法

グラスゴー大学で開催された形成的OSCEイベントに参加した医学部3年生79名に対し、1ステーションあたり3分間の3-Dスキル指導または時間相当のガイドなし練習のいずれかを追加した。 学生の総括的OSCEの成績を同年齢のコホートと比較し、時間遅れの総括的OSCEの成績に差があるかどうかを検証した。

結果:

  1. 形成的OSCEの効果:
    • 3-D skillsモデルまたは自主練習を含む形成的OSCEへの参加は、学生の総括的OSCEのパフォーマンスを統計的に有意に向上させました。
  2. 3-D skillsモデルの優位性:
    • 3-D skillsモデルを使用した学生は、教育的に有意な改善を示しました。具体的には、中央値の成績がBグレードからAグレードに上昇しました。
  3. 自主練習との比較:
    • 自主練習グループも改善を示しましたが、教育的有意性には達しませんでした。
  4. カリキュラムへの統合の価値:
    • これらの結果は、3-D skillsモデルを正規のカリキュラムに組み込む価値があることを示唆しています。

考察:

  1. 近接ピア教育(NPT)の有効性:
    • この研究結果は、適切に構造化されたNPTが効果的であることを裏付けています。
    • 最小限のトレーニングで、近接ピア講師が有意な教育効果を生み出せることが示されました。
  2. 3-D skillsモデルの理論的背景:
    • このモデルの効果は、構成主義理論や足場かけ学習の概念に基づいていると考えられます。
    • 近接ピア講師との認知的一致性が、効果的な学習を促進している可能性があります。
  3. 自己調整学習の促進:
    • 3-D skillsモデルは、学生の自己調整学習スキルを向上させる可能性があります。
    • これは、医学生の長期的な学習能力向上に寄与する可能性があります。
  4. 実施上の課題と機会:
    • 課外活動としての実施には参加率の問題があるため、正規カリキュラムへの統合が推奨されます。
    • 非英国出身の学生の高い参加率は、このモデルが教育格差を埋める可能性を示唆しています。
  5. 今後の研究方向:
    • カリキュラムへの統合効果の検証
    • 臨床実習での3-D skillsモデルの応用可能性の探索
    • 長期的な学習成果への影響の調査
  6. 限界点:
    • ベースラインの学生パフォーマンスデータの不足
    • COVID-19パンデミックによる長期的フォローアップの困難さ

結論

3-Dスキルモデルを形成的OSCEに組み込むことは、総括的OSCEでのパフォーマンスの有意な向上と関連している。 このことは、総括的な成績への反映がまちまちであることを示した形成的OSCEセッションに関する相反する文献を拡大し、臨床検査スキルを向上させるための機関投資のメリットを示唆している。