‘Enhancing Learning in Outpatient Care Training: Theory Can Inform the Practice of Graduate Medical Education’,
Thomas, D.C., Frambach, J.M., Teunissen, P.W., Smeenk, F.W.J.M. and Torre, D. (2025)
Perspectives on Medical Education, 14(1), p. 162–171. Available at: https://doi.org/10.5334/pme.1576.
https://pmejournal.org/articles/10.5334/pme.1576

研究の背景と重要性
外来診療を取り巻く状況
- 近年、医療は入院から外来へと大きくシフトしている
- この変化は、入院患者数削減、コスト削減、外来処置の増加、技術革新の活用などの要因によって推進されている
- 今後数十年間で、複数の慢性疾患を持つ高齢患者が増加し、外来診療はさらに複雑化すると予測されている
- 世界的に成人の約3分の1が複数の慢性疾患を抱えており、そのような患者は健康な人々に比べて2〜5倍の医師の診察を必要としている
研究の目的と方法論的アプローチ
- 入院医療における教育理論をそのまま外来診療に適用することは困難
- 良質な教育実践は堅固な理論的原則に基づく必要がある
- 本研究は構成主義的立場と社会文化的視点に基づいており、文脈における学習の重要性を強調
- 著者らは米国とオランダの外来診療および医学教育研究の経験を持つ専門家で構成
外来診療の教育環境の特徴
1. 複雑なシステムとしての外来診療
- マクロレベル(組織構造)とミクロレベル(患者-医師の相互作用)の両方で複雑性が存在
- 組織のニーズ(生産性)と学習者のニーズ(教育時間)の間に緊張関係がある
- 外来診療では時間が限られており、社会的複雑性や複合疾患の徹底的調査が困難
- 限られた時間とデータでの意思決定が求められ、曖昧さと不確実性への耐性が必要
2. 長期的関係性の重要性
- 研修医-患者関係:継続的で長期的なエンゲージメントを通じた治療的同盟の形成
- 研修医-指導医関係:時間とともに発展する信頼と監督レベルの調整
- 多職種チームとの関係:階層的なダイナミクスを含む複雑なコミュニケーション
- これらの関係性は非線形で相互に関連しており、リアルタイムでの対応が要求される
学習理論の分析と外来診療への適用
1. 文化‐歴史的活動理論(CHAT)
理論の核心要素
- 活動システムを分析の主要単位とする(第一原則)
- 活動システムの多声性を重視(第二原則)
- 歴史性:時間の経過による活動システムの形成と変化(第三原則)
- 矛盾が変化と発展の原動力となる(第四原則)
- 活動の拡張的変容の可能性(第五原則)
外来診療への適用
- 「ケア提供」活動システム:研修医が患者にケアを提供するシステム
- 主体:医師、研修医、看護師
- 対象:最適なケアの提供
- ツール:電子カルテ、医療機器
- ルール:診療所の社会規範、規制機関の監督
- コミュニティ:研修医、指導医、医療提供者、患者
- 分業:コミュニティメンバーの役割
- 「ケア提供の学習」活動システム:研修医が能力を獲得するシステム
- 主体:同上
- 対象:有能な研修医
- ツール:カリキュラム、コース
- ルール:研修プログラムの社会規範と方針、隠れたカリキュラム
- コミュニティ:研修医、教員、医学生
- 分業:学習環境における学習者と教員の役割
- 両システム間の矛盾(例:学習者としての時間的ニーズと医療提供者としての時間的制約)が学習と変化を促進
- この理論は教育介入の開発に役立ち、拡張的学習を通じた変革を促進
2. 状況的学習理論と実践の風景
理論の核心要素
- 学習は社会的文脈内で発生するという前提
- 実践コミュニティ(CoP)の3つの特徴:相互関与、共同事業、共有レパートリー
- 「正統的周辺参加」:徐々に中心的な参加へと移行するプロセス
- 「実践の風景」:相互に接続されたコミュニティの広がり
- アイデンティティ形成と知識獲得、境界横断の重要性
外来診療への適用
- 研修医は実践コミュニティの一員としてスキルと知識を共有
- 患者、指導医、多職種チームとの長期的関係によるアイデンティティ形成の促進
- 専門分野間の境界を横断する経験により、階層的障壁を打破する機会の創出
- 実践コミュニティへの参加を通じた専門的アイデンティティの発達
- 研修医グループの継続的なローテーションによる学習環境の構築
3. 認知発達理論
理論の核心要素
- 社会的相互作用と文化が学習にとって不可欠
- 「最近接発達領域(ZPD)」:学習者が独立して行えることと習得が必要なことの間の領域
- 「足場掛け」:ZPD内での学習をサポートするガイダンスと支援
- 時間経過とともに研修医の能力が向上するにつれ、支援は減少
外来診療への適用
- 指導医と研修医の長期的関係により、研修医の現在の発達レベルに合わせた指導が可能
- 直接観察によって研修医の進捗を追跡し、適切なフィードバックを提供
- 時間とともに独立した診療能力を育成するための、段階的に減少するサポート
- 信頼関係の構築による効果的な教育的介入の促進
4. 自己調整学習理論
理論の核心要素
- 学習者が自身の学習に積極的に関与する
- 社会認知的視点からのアプローチ(個人、文脈、社会的要因の影響)
- 循環的な学習フェーズ:
- 予見フェーズ:目標設定、戦略計画、自己動機付け
- 遂行フェーズ:自己制御と自己監視を伴う学習
- 自己省察フェーズ:自己評価と自己反応
外来診療への適用
- 研修医が外来環境における様々な学習機会を認識し活用
- 患者ケアスキルの自己評価と振り返りによる改善領域の特定
- 電子カルテ、意思決定支援システム、他の医療専門家など、環境のリソースを活用する能力
- 研修医による学習の主体性と責任の育成
- 指導医による自己調整学習の促進と支援
卒後医学教育への実践的示唆
多職種教育の強化
- 診療と学習における異なる専門分野間の社会的相互作用の促進
- 「実践の風景」の概念を活用した専門分野間の協力体制の構築
- 多職種チームとの継続的な相互作用による「正統的周辺参加」の促進
- 階層的障壁を克服するための専門職間コミュニケーションの強化
長期的臨床経験の構築
- 同じ指導医と多職種チームとの長期的な関係を築く機会の提供
- 研修医の発達段階に合わせた教育介入の調整
- CHATに基づく活動システム間の矛盾の特定と解決
- 各研修医の「最近接発達領域」に合わせた個別指導とフィードバック
活動理論に基づくカリキュラム開発
- 拡張的学習の原則に基づく教育実践の変革
- 医療システム内の複雑性と矛盾を理解し、それらを学習機会として活用
- 教育コンテキスト、医療システム、コミュニティ間の有意義な接続の構築
- システムの矛盾から生じる緊張を特定し、それを変革の機会として利用
自己調整学習の促進
- 研修医が自身の学習ニーズを認識し、目標を設定するよう指導
- 外来環境における学習リソースとその活用方法の意識的な認識
- 継続的な自己評価と振り返りの習慣化の支援
- 指導医による研修医の自己調整学習スキル向上のためのコーチング
研究の限界と将来の方向性
研究の限界
- 著者らの視点は北米と西ヨーロッパの高資源国における経験に基づいている
- 異なる医療システムや文化的背景では、適用が異なる可能性がある
- 4つの理論に焦点を当てており、他の有用な理論的視点が排除されている可能性がある
将来の研究方向
- これらの理論の構成要素が研修医の最適な学習にどう影響するかの実証研究
- 理論のどの要素が学習に最大の影響を与えるかの検証
- 外来診療における効果的なチームの特性と研修医教育への影響の調査
- 長期的臨床経験が研修医の能力発達に与える影響の縦断的研究
結論
外来診療の特性を深く理解し、適切な学習理論を適用することで、医学教育者はこの環境に特化したカリキュラムと評価方法を開発できます。本研究で検討された理論的枠組みは、外来診療における教育実践を改善し、より有能な医師の育成に貢献します。これにより、最終的には患者ケアの質の向上と社会のニーズへの対応が実現されるでしょう。