医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

内視鏡鉗子実習を受ける医学生における技能習得に対する将来の動機づけの重要性

Importance of future motivation for skill acquisition among medical students undergoing endoscopic forceps training
Go Kamimura, Koki Maeda, Masaya Aoki, Satomi Imamura, Shoichiro Morizono, Takuya Tokunaga, Tadashi Umehara, Aya Harada-Takeda, Toshiyuki Nagata & Kazuhiro Ueda 
BMC Medical Education volume 25, Article number: 507 (2025)

bmcmededuc.biomedcentral.com

研究背景

  • 近年の外科手術は開胸・開腹手術から低侵襲な内視鏡手術へとシフトしている
  • 内視鏡手術には従来の開胸・開腹手術と異なる特別なスキルが必要
    • 洗練された手先の器用さ
    • 手と目の協調性
    • 正確な器具操作
  • 動機付けは医学教育において重要な役割を果たし、関与度とスキル習得の両方に影響する
  • 目標設定理論によれば、明確な目標は外科トレーニングにおけるパフォーマンスと学習成果を向上させる

研究方法

  • 対象者:鹿児島大学医学部の4年生98名(男性63名、女性35名)
  • 実施期間:2022年1月4日から12月23日
  • レーニング内容:
    • 2週間の臨床研修期間中(前半5日、後半5日)に実施
    • ドライラボでの内視鏡鉗子トレーニン
    • 9個のゴムチューブ(厚さ5mm、長さ1cm)を2本の鉗子を使って一つの箱から別の箱へ移す時間を計測
  • データ収集:
    • 研修開始前にアンケート調査(希望する診療科、クラブ活動など)
    • 研修期間中は毎日可能な限り練習し、その日の最速タイムを記録
  • スキル習得の評価:
    • 前半と後半の平均タイムの差を比較
    • Mann-Whitney U検定とFisherの正確確率検定を使用してグループ間比較
    • 単回帰分析と共分散分析でスキル習得率を評価

詳細な結果

  • 志望する専門分野:
    • 外科医志望:37名(男性28名、女性9名)
    • 非外科医志望:61名
  • 男女比と外科志望の関係:
    • 男性医学生の方が外科医を志望する傾向があったが、統計的に有意差はなかった(p=0.08)
  • スポーツ活動参加と性別の関係:
    • 男女間でスポーツ活動参加の有意差はなかった(p=1.00)
  • タイムトライアルの結果(前半と後半の比較):
    • 男性医学生:73.6±67.2秒 → 45.2±45.4秒(p<0.001、Cohen's d=0.96)
    • 女性医学生:67.0±40.6秒 → 48.4±26.6秒(p<0.001、Cohen's d=1.18)
    • 外科医志望グループ:71.4±48.5秒 → 41.5±26.4秒(p<0.001、Cohen's d=1.23)
    • 非外科医志望グループ:70.5±67.4秒 → 48.9±43.6秒(p<0.001、Cohen's d=0.94)
  • スキル習得率の差:
    • 外科医志望グループが非志望グループより有意に速く上達(p=0.007)
    • 特に男性の外科医志望者が有意に速く上達(p=0.004)
    • 女性の場合、外科医志望の有無による有意差はなかった(p=0.68)が、これは女性の外科医志望者が少ないことが影響している可能性あり
  • 性別やスポーツ活動とスキル習得の関係:
    • 性別とスキル向上の間に相関はなかった(p=0.18)
    • スポーツ活動とスキル向上の間に相関はなかった(p=0.64)

研究の考察

  • 外科医を志望する学生としない学生の初期パフォーマンスは同等だったが、トレーニング後にスキル習得に差が生じた
  • 外科医志望者の方が明確な目標を持っていたことが速い上達につながった可能性がある
  • 日本における外科医不足の問題に対して、学生時代からの外科的教育が重要
  • 外科医を目指す女性医学生が少ない(35名中9名)理由として、育児や労働環境の問題が背景にある可能性
  • すべての医学生に外科的スキルを学ぶ機会を提供することで、将来的に外科に興味を持つ学生が増える可能性がある

研究の限界点

  • 単一施設での研究であり、女子学生のサンプル数が少ない
  • 2週間の研修期間が5名ずつのグループで行われ、全学生が修了するまでに約1年を要した
  • 研修期間の違いにより、他科での内視鏡鉗子トレーニング経験などのバイアスが存在する可能性
  • 練習セッションが標準化されておらず、個人の練習頻度の差がバイアスとなった可能性
  • タイムベースの改善はスキル習得の一面しか測定しておらず、精度や安全性、技術などの要素は評価していない

結論

  • すべての医学生がドライラボでの反復練習を通じて内視鏡鉗子スキルを習得
  • 外科医志望者は明確な目標を持っていたため、より速いペースでスキル向上が見られた
  • 学生教育における目標設定がスキル習得と関連している可能性が示された
  • 外科医志望者だけでなく、すべての医学生に外科的スキルを学ぶ機会を提供することの価値が確認された