医学教育つれづれ

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医学教育における教員の適応的専門性開発に関する研究

Faculty members’ perceptions of how faculty development initiatives could contribute to developing their adaptive expertise.

Sayin, S., Roebertsen, H., Whittingham, J., Hennissen, J., Steinert, Y., & Dolmans, D. (2025). 

Medical Teacher, 1–10. https://doi.org/10.1080/0142159X.2025.2574383

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/0142159X.2025.2574383?af=R#abstract

研究の背景と目的

現代の医学教育が直面する課題

  • 人工知能(AI)の導入
  • 多職種連携教育
  • 学生の役割の変化
  • プログラム評価システムの変革
  • 急速な技術的、医療的、社会的変化

これらの課題に対応するため、教員はルーチン的専門性(routine expertise)だけでなく、適応的専門性(adaptive expertise)を発展させる必要があります。

適応的専門性の定義

Hatano and Inagaki (1986)とSchwartz et al. (2005)の理論に基づき、

適応的専門性:手順やルーチンの背後にある「なぜ」を深く理解することにより、革新的であり、新しい課題に効果的に対処できる能力

ルーチン的専門性との違い

  • ルーチン的専門性:慣れた状況で標準的な手順を正確かつ効率的に実行する能力
    • 例:特定の質問に対する学生の回答範囲を予測する、一連のステップに従って評価を設計する
  • 適応的専門性:概念的知識を用いて不慣れな状況で効果的に問題を解決する能力
    • 例:予期しない学生の回答を理解するために時間をかける、評価アプローチを批判的に再考し変更する

研究方法

  • 対象: マーストリヒト大学の25名の教員
  • 方法: 半構造化インタビューによる質的研究
  • 分析: 帰納的・演繹的コーディング

主要な知見

教員研修が適応的専門性を育成するための3つの重要な原則が明らかになりました:

1. 教育理論と実践の橋渡し

  • 教育理論と実際の教育経験を結びつけることが重要
  • 理論を学ぶことで「なぜそうするのか」という deeper understanding が得られる
  • この理解が新しい課題に対応する際の適応を可能にする
  • 具体的な例や実践的なツールの提供が効果的

2. 多様な文脈での協働学習の促進

  • 異なる組織、専門分野、世代の教員との交流
  • 学生との協働も有効
  • 相互観察、フィードバック、ピアコンサルテーション
  • オンデマンドのアドバイスコーチン
  • 信頼関係とオープンで安全な文化が前提条件

3. 安全な環境での実験的取り組みの奨励

  • 新しいアイデアを探索し、何が機能するかを学ぶ機会
  • マイクロティーチング、ロールプレイなど安全な試行環境の提供
  • 実験は計画的に行い、関係者と協議すべき
  • 失敗からも学習可能

適応的専門性開発の理論的枠組み

4つのア・プリオリ原則の検証結果

研究で設定した4つの原則は、参加者の回答と密接に一致しました:

ア・プリオリ原則 研究で特定されたテーマ 関連性
1. 概念的知識の開発 「なぜ」への理解(すべてのテーマに共通)
2. 理論的知識の実践への適用 テーマ1:理論と実践の橋渡し
3. 他者との協働学習 テーマ2:多様な文脈での協働学習
4. 発見と実験 テーマ3:安全な環境での実験

中核概念:「なぜ」の理解(概念的知識)

すべてのテーマに共通して、「なぜ」の深い理解が適応的専門性の中核であることが明らかになりました。

「なぜ」を理解することの効果

  1. 適応と洗練の基礎
    • 手順の変更が適切かどうか判断
    • 必要に応じて新しい手順を発明
  2. 信頼性の向上
    • 学生や同僚への説明能力
  3. 自信の構築
    • 教育活動への確信
  4. 説得力の強化
    • 他者を納得させる能力

実施のための条件

これらの原則を効果的に実施するために必要な条件:

  • 十分な時間とリソース
  • 安全で開かれた文化
  • 実践的なニーズに基づいた取り組み

実践への包括的な提言

1. 「なぜ」への焦点

実施方法

  • すべての教員研修セッションで「なぜ」を明示的に議論
  • 理論的根拠を実践と結びつける
  • 省察的実践を促進

2. 理論と実践の統合

具体的戦略

  • 実践経験を持つ教員を対象とする
  • 応用しやすい理論を選択
  • 豊富な実践例を提供
  • シミュレーションとロールプレイを組み込む
  • 縦断的プログラムデザイン
  • オンデマンドサポートシステムの構築

3. 多様な協働の促進

実施アプローチ

  • 機関間連携:異なる大学や組織の教員を集める
  • 異文化的アプローチ:国際的な視点を取り入れる
  • 学生との協創:Co-creation (Iqbal et al. 2023)
  • 学生との共同教育:Co-teaching (Zach and Avugos 2024)
  • ピアネットワーク:継続的な学習コミュニティの形成

4. 安全な実験環境の創出

具体的施策

  • マイクロティーチングセッション
  • 保護された試行プロジェクト
  • プロジェクトベースの教員研修(Mennin et al. 2013)
  • 失敗から学ぶ文化の醸成
  • 十分な時間とリソースの確保

5. 実施のための条件整備

必要な条件

  • 時間:十分な時間とリソース
  • 文化:オープンで安全な環境
  • サポート:適切なリーダーシップとサポート体制
  • ニーズベース:実践的ニーズに基づく取り組み

先行研究との関連と新規性

既存研究との整合性

  1. 教員研修の効果的特徴(Steinert et al. 2016)
    • 関連性のあるコンテンツ
    • 体験学習の促進
    • コミュニティ構築
    • → 本研究はこれらに「なぜの理解」という視点を追加
  2. 社会関係の重要性
    • Baldinger and Munson (2020)
    • Jayawardena et al. (2024)
    • Martin and Dixon (2024)
    • McDiarmid and Clevenger-Bright (2008)
    • → 本研究は具体的な実施方法を提示
  3. 実験の価値
    • Bell and Kozlowski (2008)
    • Bohle Carbonell et al. (2014)
    • Mylopoulos et al. (2018)
    • Pelgrim et al. (2022)
    • → 本研究は安全な試行環境の重要性を強調

本研究の新規性

  1. 医学教育特有の文脈での適応的専門性開発の探索
  2. 教員の視点からの詳細な洞察
  3. 実践的な実施戦略の提示
  4. 「なぜ」の理解を中核とする統合的フレームワーク

結論

教員の適応的専門性を発展させるには、教育理論と実践経験の統合、多様な人々との連携促進、よく考えられた実験からの学習を支援する教員研修が不可欠です。