Engage, Escape and Evolve: Simulation Escape Rooms as a Transformative Pedagogy in Health Professions Education
Chhaya Akshay Divecha, Miriam Archana Simon, Simone Appenzeller, Shahenaz Satti, Gulam Saidunnisa Begum
First published: 27 July 2025 https://doi.org/10.1111/tct.70162
https://asmepublications.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/tct.70162?af=R
研究の背景と理論的基盤
現代医学教育の課題
- 従来の理論中心教育から能動的学習手法への大きな転換期
- ケースベース学習(CBL)、問題基盤学習(PBL)、チームベース学習(TBL)などが台頭
- しかし、これらの方法も主に理論的演習に留まり、真の臨床没入感に欠ける
- 高圧的な臨床環境での時間制約下において、チームワーク、リーダーシップ、批判的思考、効果的コミュニケーションなどの重要な非技術的スキル育成の必要性
シミュレーション・エスケープルーム(SER)の理論的背景
- 定義: 参加者がチームで謎解きをしながら時間制限内に学習目標達成を目指す構造化された活動
- コルブの経験学習サイクルとの整合性
- 具体的体験→内省的観察→抽象的概念化→能動的実験のサイクルを促進
- 成人学習原理との一致
- 自己主導学習、理論の実践的応用、能動的参加、協働、安全な学習環境、フィードバックと省察の機会を提供
SERの活用実績
医療専門職教育での多様な活用:
- 医学、看護学、外科学、薬学における専門職間学習
- 患者評価、診断推論、救急対応、技能訓練、患者安全性の向上
- チームワーク、リーダーシップ、迅速な意思決定の促進
脱出ゲームの構造と仕組み
- パズルの形式: 連続解決型(一つずつ順次解決)/ オープンエンド型(複数同時進行)
- ゲーム要素: 時間制約、チーム協働、デジタル要素(QRコード、Google Forms、仮想環境)
- パズルの種類: 診断課題、病歴聴取・身体診察、機器使用課題(ロックボックス、回路、デジタルキーパッド等)
研究方法
研究設計
- 非同等統制群前後テスト設計
- 対象:医学部6年生(最終学年)の小児科ローテーション中の学生
- 統制群(n=55):従来の学生主導セミナー
- 介入群(n=59):SER モジュール
SERの内容
- テーマ:小児気管支喘息
- 6つの連続したチャレンジを45分以内に完了
- 4-6人のチームに分かれて実施
- ACGME(米国医学教育認定評議会)の臨床能力基準とブルームの教育目標分類に準拠
チャレンジの詳細
アイスブレーカー: 国際モールス符号メッセージの解読
- 目的: チーム結束と活動への導入
チャレンジ1: 喘鳴/非喘鳴の原因分類
- 12の呼吸器疾患から喘鳴を起こす6つの疾患を正しく選択
- 正解により搭乗券が出現、座席番号を取得
チャレンジ2: 疾患と症状のマッチング
- 座席の安全説明書にマッチングゲーム
- 暗号ホイールの対応コードから数字ロックの番号を取得
チャレンジ3: マネキンの身体診察と重症度評価
チャレンジ4: 検査結果と症例のマッチング
- スーツケース内の検査報告書を3つの喘鳴症例にマッチング
- 正解で救急箱の3桁番号コードを取得
チャレンジ5: 適切な薬物選択と治療経路
- 救急箱内の薬物から正しい治療薬を選択
- 治療地図上で毛糸を正しい治療経路に沿わせる
- 誤った経路では喘鳴音が増大、正しい経路で喘鳴音消失
チャレンジ6: スチュワーデスへのカウンセリング
- 進行役からの質問に答え、パイロットのフォローアップ管理について説明
- 最低合格点達成で象徴的な鍵を獲得、タイマー停止
主な結果
知識習得(レベル2評価)
- 両群とも事前・事後テストで有意な改善(p<0.001)
- 群間での知識獲得に有意差なし
学習者の反応(レベル1評価)
- SER に対する高い満足度
- 学習への動機付け:92.6%
- 活動の楽しさ:98.2%
- 効果的な教学方法:96.3%
- SER が統制群より有意に高い満足度と選好性(p<0.001)
臨床能力の向上 学生の自己評価による改善報告:
- チームワーク:98.1%
- 批判的思考:98.2%
- コミュニケーション技能:98.2%
- リーダーシップ:向上報告
学生からの定性的フィードバード
1. 学習環境と関与度
- "情報を簡単に学習できる興味深い学習方法だった"
- "素晴らしい体験で、すべてのトピックに実装することを推奨"
2. 教員支援
- "この取り組みと、それに投入された時間と努力が気に入った"
- "多くの素晴らしい詳細を含む素晴らしい努力だった"
研究の意義と限界
意義
- 知識習得は従来の方法と同等ながら、学習への関与度と満足度を大幅に向上
- 批判的思考、問題解決、チームワーク、コミュニケーション技能の向上を実現
- 他の医学教育者が文脈に応じたエスケープルームを開発するための柔軟な枠組みを提供
限界
- 長期的な知識保持や臨床実践への技能移転は未評価
- 教員の時間と労力が大幅に必要(設計に約40時間)
- 自己報告による能力評価の客観性の限界
- 特定の学生群・トピックでの実施のみ
今後の展望と推奨事項
カリキュラム統合への取り組み
- 革新的アプローチの継続的統合
- 長期的影響評価の実施
- リソース集約的制約への対処
デジタルソリューションの探求
- デジタル適応: 到達範囲と影響の拡大
- アクセシビリティ向上: より多くの学習者への提供
- 効率性の向上: 教員負担軽減
評価方法の改善
- 客観的評価方法: 実際の技能発達測定
- 長期追跡調査: 知識保持と臨床実践への転移
- 多機関共同研究: 一般化可能性の向上
専門職間教育への発展
- IPE(専門職間教育)SERの開発
- より現実的な臨床チーム環境の再現
- 複数専門職種間の協働技能評価
持続可能な実装モデル
- 柔軟なフレームワーク: 他の医療専門職教育者への適応可能な設計
- リソース効率: コスト効果的な実装戦略
- 品質保証: 一貫した教育効果の確保
結論
SER は医学教育において、従来の能動的学習と実際の臨床実践の間の「欠けた環節」を提供する革新的手法として、学習の関与度向上と重要な非技術的技能の育成に有効であることが示された。デジタル化による配信改善の必要性も指摘されている