医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

医学生が考える最良の臨床教育

Medical Students' Perceptions of the Best Clinical Teaching

Verneri Hannula, Lari Lehtovirta, Hermanni Liu, Markku Sumanen

First published: 13 June 2025 https://doi.org/10.1111/tct.70119

https://asmepublications.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/tct.70119?af=R

 

研究の背景と問題意識

臨床教育の重要性と課題

  • 臨床実習の位置づけ:医学教育において臨床段階の学習は不可欠であり、学生の多くの学習が臨床医との実習中に行われる
  • 教育環境の問題:臨床環境での教育は最適に組織化されていないことが多い
  • 学生数増加の影響フィンランドを含む多くの国で医学生数が増加し、臨床教育に大きな負担をかけている
  • 教育の分散化フィンランドでは全ての医学部が大学病院外でも臨床教育を実施(国家評価で強みとして認識)

既存研究の矛盾と課題

  • 一貫しない研究結果:学生がジュニア医師とシニア医師のどちらから教育を受けることを好むかについて研究結果が矛盾
  • 教育者の準備不足フィンランドの調査では、臨床教育を行う医師の約半数が教育を提供しているが、教育方法の訓練を受けたのは1割のみ
  • 非構造化教育の増加:教育量の増加により、正式な教育セッション外での学習が増加し、臨床教育者ではない医師による教育が拡大

研究方法

  • 対象:タンペレ大学の4-6年生の医学生423名
  • 方法:オンライン調査(回答率62%、262名が回答)
  • 調査内容:医師のキャリア段階、年齢層、専門分野、場所についての選択式質問と自由記述

主な結果

量的結果

  • キャリア段階:研修医(54%)が最も多く選ばれた
  • 年齢層:25-34歳の若い医師(41%)
  • 場所:大学病院(34%)
  • 専門分野:内科(25%)

質的結果(自由記述分析)

学生が良い臨床教育の特徴として挙げた要素:

  • 教育に時間を割いてくれる
  • 教育に対する熱意
  • 学生への配慮
  • 学生のレベルの理解
  • 親しみやすさ

特徴的な知見

  • 研修医が好まれる理由
    • 自分の学習時代の記憶が新しく、学生の知識レベルを理解している
    • 年齢が近く、話しやすい
    • 自分の不確実性も示すため、現実的な医師像を学べる
  • 経験豊富な医師の利点
    • 優れた技術と知識
    • 確実な診療実践
  • 内科が人気の理由
    • 教育への意欲が高い
    • 学生を積極的に参加させる
    • 全医師に有用な幅広い知識

実践的含意と提言

教育組織への提言

時間配分の最適化

  • 臨床教育に十分な時間を確保
  • 業務負担と教育負担のバランス調整
  • 教育専念時間の制度化

役割分担の明確化

  • 研修医:医学生の主要指導者
  • 上級医師:研修医の指導に専念
  • 専門医:高度な知識・技術の指導

教育環境の整備

  • 様々なキャリア段階の医師への曝露機会提供
  • 多様な場所での実習機会確保
  • 小規模施設での教育機会活用

個別指導者への提言

教育スキルの向上

  • 学生の知識レベルの適切な評価
  • 個別学習ニーズの理解
  • 積極的参加の促進技術

教育への姿勢

  • 教育への関心と熱意の表明
  • 学生への親切で配慮ある対応
  • 質問への積極的な回答

実践的指導

  • 独立した活動への参加促進
  • 段階的責任の委譲
  • 建設的フィードバックの提供

制度的改善提案

教育訓練の充実

  • 臨床教育方法の正式訓練プログラム
  • 継続的な教育スキル向上機会
  • ピアレビューによる教育質改善

評価システムの改善

  • 多面的な教育評価システム
  • 学生からの定期的フィードバック
  • 教育成果の客観的測定

限界と今後の課題

  • 単一施設での調査のため一般化に限界
  • 学生の各分野・場所での経験の偏りが結果に影響
  • 国別の医学教育制度の違いを考慮する必要