医学教育つれづれ

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匿名性から関与へ:学期初めの学生-教員面談の利点

From anonymity to engagement: the benefits of early-semester student-instructor meetings
James T. Davis,Abigail P. Sondreal, … See all authors 
16 May 2025https://doi.org/10.1152/advan.00040.2025

https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/advan.00040.2025?af=R

研究背景と問題提起

学生-教員の断絶問題

  • 学生と教員の間の断絶は学生の成功を妨げ、参加度や学業成績を制限する
  • この断絶は学生が教員を一方的に内容を伝える権威的存在と認識することから生じる
  • 学生は準備不足に見えることを懸念して質問や懸念を声に出すことを避ける傾向がある

大規模講義の特有の課題

  • 数百人の学生が在籍する大規模講義では個別の交流が限られている
  • 直接的なやり取りの欠如が学生の匿名感を悪化させる
  • 有意義な関係構築が特に困難な環境である

研究仮説

  1. 学期初めの面談に参加した学生は、授業中・オフィスアワー中・メールで質問する可能性が高くなる
  2. これらの学生は不参加者と比較して中間試験の成績が高くなる

研究方法

参加者と介入

  • 参加者:大規模な人体生理学入門クラスの学生423名(nT)
  • クラスは2人の教員によって教えられ、最初の教員が前半9週間、2番目の教員が残りの6週間を担当
  • 参加学生は様々な専攻の学部生で、多くは健康関連のキャリアを目指していた

面談手順

  • 学期開始前週と学期最初の3週間に実施
  • OneDriveのBookingsアプリを使用して予約
  • 教員のオフィスを見つけ、4つの「自己紹介質問」に答える形式
    1. 出身地はどこか
    2. 専攻は何か
    3. キャリア目標は何か
    4. 夏休みのハイライトは何だったか
  • 面談完了者には教室や学習管理システム(Canvas)で他の学生にも参加を呼びかけるよう依頼

データ収集

  • 最初の教員のブロック終了直前(9週目半ば)に匿名・任意の調査を実施
  • 調査質問(自由回答形式):
    • なぜ面談に参加した/しなかったか
    • 面談から何を得たか
    • 学期開始時の成績期待値は何だったか
    • 中間試験の成績は何か
  • リッカートスケールの質問:
    • この面談は授業中に質問する可能性を高めたか
    • この面談はメールで質問する可能性を高めたか
    • この面談はオフィスアワーに参加する可能性を高めたか

分析方法

  • 量的分析:カイ二乗検定を使用して面談参加と参加行動・成績の関連を分析
  • 質的分析:Saldañaのプロトコルに基づく主題分析を自由回答データに実施
  • 反射性ステートメント:研究者の背景が解釈に与える可能性のある影響を認識

結果

参加状況の詳細

  • 423名の登録学生のうち:
    • 359名が教員と同じ場所で授業に出席
    • 64名が副教員が監督するライブストリーム視聴
  • 合計323名が面談を完了(nM):
    • 対面学生から277名
    • ライブストリームグループから46名
  • 336名(クラスの79.6%)が中間調査に回答(nR)
    • そのうち285名(nRM)が面談に参加したと報告

量的結果の分析

成績への影響(詳細)

  • 学期開始前の成績期待値に有意差なし(p = 0.22)
  • 中間試験の自己報告成績に有意差あり(p = 0.02):
    • 効果量は弱〜中程度(Cramer's V = 0.18)
  • 実際の中間試験成績の分析では:
    • より強い効果量を示す(Cramer's V = 0.33)
    • 面談不参加者は自己報告成績を過大評価する傾向(自己報告GPA = 3.6、実際のGPA = 3.1)
    • 参加者は成績を正確に自己報告

参加行動への影響(詳細)

  • 面談参加が授業中の質問行動に統計的有意差をもたらさなかった
  • しかし主観的影響は大きい:
    • 参加者の73%が対面で質問する可能性が高まったと回答
    • 53%が授業中に質問する可能性が高まったと回答
    • 60%がメールで質問する可能性が高まったと回答
  • 面談参加者は教員と対面で会う頻度が有意に高かった(p < 0.001)

質的結果のコード化

コードブック(14のコード)

教員に対する認識と関係構築テーマ:

  • 成果カテゴリー:
    • 教員の性格/人柄
    • 教員の信頼性
  • 学生の反応カテゴリー:
    • 教員との面会に対する感情的反応
    • コースに対する感情的反応

教員と関わる動機と意図テーマ:

  • 個人的な面談理由カテゴリー:
    • クラスサイズ
    • 自己紹介したい
    • 教員に会いたい/知りたい
  • 学術的な面談理由カテゴリー:
    • 学習戦略を求める
    • 追加クレジットを求める
    • コースのパフォーマンス
  • 実用的な面談理由カテゴリー:
    • 時間、場所、コースの物流
  • 学術的な面談結果カテゴリー:
    • より良い内容理解
    • 内容に関する質問
  • 個人的な面談結果カテゴリー:
    • 人生の会話

学生の声

教員と関わる動機についての学生の声

  • 「自己紹介して教授に会いたかった」- 単純な関係構築を求める意図
  • 「教授の一人に会って緊張を和らげたかった」- 感情的サポートを求める意図
  • 「教室内や外で彼が私を認識できるように1対1で話したかった」- 匿名性を克服したい願望

関係構築効果についての学生の声

  • 「より良い関係を築き、単に課題/試験を採点する教授以上のものとして彼を見ることができるようになった」- 教員に対する認識の変化
  • 「教授とより快適に感じ、彼が学生を大切にしていると感じた。質問があれば尋ねられると分かった」- 心理的安全性の向上
  • 「教授とのより良いつながりを得て、必要なら助けを求められるつながりを得た。大規模講義をより小さく感じさせた」- クラスサイズの知覚的縮小
  • 「より快適に感じ、少なくとも教授の一人を知り、1対1で話すことでカレッジへの適応が容易になった」- 大学適応への貢献

実践示唆

スケジューリング戦略(拡張)

  • 多数の5分間面談を効率的に組織するためのベストプラクティス:
    • 学期開始前に複数の時間帯を確保
    • 学生の時間割に合わせて早朝・夜間のスロットも提供
    • 予約の確認・リマインドシステムを導入
  • 時間投資に対するリターン分析:
    • 423名の学生×5分 = 約35時間の面談時間
    • 学期を通じた成績向上と参加度増加という長期的利益

代替実施方法

  1. 小グループ面談
    • 3〜5名の学生グループとの15分間のセッション
    • 各学生に簡単な自己紹介の機会を提供
    • グループ内でのピア関係も同時に構築
  2. 録画による自己紹介
    • 学生が短い自己紹介ビデオを提出
    • 教員が個別に返信・コメントを提供
    • 非同期形式でスケジューリングの問題を解決
  3. 優先グループの特定
    • 初年度学生を優先(大学環境への適応支援)
    • 少数派学生を優先(所属感の構築支援)
    • 科目を再履修している学生を優先(特別なサポートを提供)
  4. オフィスアワーの工夫
    • 最初のオフィスアワーを「自己紹介セッション」として位置付け
    • 内容質問の前に自己紹介時間を設ける
    • 学期を通じて以前の会話に言及し関係を維持
  5. オンライン討論掲示板の活用
    • 自己紹介スレッドを作成
    • 教員と他の学生がコメント・返信
    • オンライン・対面両方の環境で活用可能

効果測定方法

  1. 定量的測定
    • 出席率の追跡と面談参加との相関
    • 質問頻度(授業中・メール・オフィスアワー)のカウント
    • 中間・期末試験成績の比較分析
    • 学期終了時のコース完了率・次学期登録率
  2. 定性的測定
    • 学期中の学生との関係に関する教員の観察記録
    • 学期終了時の総括的フィードバックの収集
    • 学習経験に関する深層インタビュー
    • 長期的学業軌跡の追跡(複数学期)

限界と今後の研究方向

研究の限界

  1. 時間的範囲
    • 学期中間点までのデータのみ収集
    • 2つの教員による指導で、面談は1人目の教員のみが実施
    • 効果の持続性や第2教員との関係への波及効果は不明
  2. 選択バイアス
    • 面談参加は任意であり、より意欲的な学生が参加した可能性
    • 自発的に参加した学生は、元々より高い学業パフォーマンスや参加度を示す傾向がある可能性
  3. 人口統計データの制限
    • 学年(新入生〜卒業予定の上級生)、専攻、GPA、第一世代大学生の状況など、限られた人口統計情報しか収集されなかった
    • これらの要因が面談参加の可能性や全体的な学業成績に影響する可能性がある
  4. 一般化可能性
    • 単一の生理学コース・単一の機関での調査結果
    • 他の学問分野、小規模クラス、異なる機関への適用可能性は不確実

今後の研究方向)

  1. 長期的効果研究
    • 学期全体を通じた効果の持続性を評価
    • 次学期の登録率や関連コースでの成績への影響を追跡
    • 卒業率や専攻選択への長期的影響を分析
  2. 様々な実施形式の比較
    • 対面個別面談と小グループ面談の効果比較
    • 対面とオンライン/非同期面談の効果比較
    • コスト効率と学生成果のバランスを評価
  3. 異なる学生層への影響
    • 第一世代大学生、少数派学生、転校生など特定グループへの影響を分析
    • 学年・専攻・学習スタイルによる効果の違いを調査
    • 学業不振学生への特別な影響を評価
  4. 多様な教育環境での検証
  5. 教員の視点研究
    • 面談実施による教員のパースペクティブへの影響
    • 教員の教育アプローチや満足度への効果
    • 大規模講義での教授法の変化

結論と実践的意義

この研究は、短時間の個別面談であっても学生の参加度と学業成績に重要な影響を与えうることを示しています。大規模講義環境においても、構造化された低リスクの交流を通じて学生-教員関係が改善され、学生の成功につながる可能性があります。

このような取り組みは比較的少ない時間投資で実施でき、特に初年度学生や大規模講義で匿名感を感じやすい学生にとって価値があります。教育者が学生との関係構築に時間を投資することは、学業成績向上という測定可能な利益をもたらすだけでなく、より包括的で支援的な学習環境の創出にも貢献します。