Team cognition in healthcare simulation: a framework for deliberate measurement.
Evans, J.C., Evans, M.B. & Lingard, L.
Adv Simul 10, 12 (2025). https://doi.org/10.1186/s41077-025-00333-7
advancesinsimulation.biomedcentral.com

研究背景と理論的枠組み
チーム認知の定義と重要性
Evansらは、チーム認知を「チームメンバーのチーム構造、メンバーの役割、共有目標に関する集合的理解」と定義しています。これはMohammedらの定義を踏襲しており、「チーム関連知識のコンテンツと構造の収束度を特徴づける知識構築プロセスおよび/または創発的精神表象」とされています。チーム認知は、チームプロセスをほぼすべて調整する役割を持つため、多くのトレーニングプログラムでカリキュラムに取り入れられています。
アクションチームの特性と課題
論文では特にアクションチーム(action teams)または可変的役割・人員チーム(variable role, variable personnel teams)と呼ばれるチームに焦点が当てられています。これらのチームは以下の特徴を持ちます:
- 多職種(医師、看護師、ソーシャルワーカーなど)
- 多分野(救急医学、外科、麻酔科など)のメンバーで構成
- 限られた時間での活動
- メンバー間の馴染みの度合いに差がある
- 状況、教育、役割に基づく境界を越えたコミュニケーションが必要
こうしたチームは急性期医療現場でよく見られ、その性質上、シミュレーション訓練に適しています。
現在のチーム認知測定における問題点
著者らは既存の測定手法に関する主な問題点として以下を指摘しています:
- 間接性の問題:現在の測定方法は間接的であり、観察者がチーム認知の先行要因や結果を解釈することはできても、チームメンバーの思考の実際の内容や共有度を測定できていない。
- タイミングの限界:ほとんどの評価がシミュレーション後に行われ、コミュニケーションなどの調整行動の広範な評価に特化しており、チーム認知の特定の側面を評価していない。
- 概念の混同:多くのツールでは、チーム認知が他の構成概念(例:状況認識とストレス対処を組み合わせた評価)と混同されている。
- 行動評価への偏重:状況認識を直接測定するのではなく、情報共有リクエストなどの行動を観察するに留まっている。
提案された測定枠組みの詳細
1. 直接性の次元
直接的測定:
- チームメンバー自身が自分の理解を報告する
- 課題前、課題中、課題後に実施可能
- 代表的ツール:SAGAT(Situational Awareness Global Assessment Tool)
- 例:「今後数分間に必要となる可能性のある機器は何ですか?」といった質問への回答
間接的測定:
- メンバーの行動や観察可能なプロセスを評価
- 観察者や他のチームメンバーが評価
- 代表的ツール:NOTECHS、ANTS、NOTSS
- 例:リーダーがどの程度情報を求めているか、メンバーがクローズドループコミュニケーションをどの程度使用しているか
2. タイミングの次元
課題前測定:
- チームの初期メンタルモデルを評価(状況認識は評価不可)
- カードソート法や概念マッピングを使用
- 例:Burtscherらの研究では、外科手術チームメンバーが30のタスクを優先順位と責任者に基づいて並べ替える
課題中測定:
- 「フリーズ」を用いた一時停止中の評価
- 行動コーディング(瞬間的または継続的)
- 例:O'Neillらの状況認識評価システム(観察者が状況認識の7つの次元を反映する行動をコード化)
課題後測定:
- 振り返りとしての評価
- 個人またはチームの認知状態に関する情報収集
- 例:Rosemanらの研究では、メンバーに「脈拍が回復した後、チームが優先すべき薬剤は?」等の質問をして状況認識を評価
直接的測定と間接的測定の詳細比較
直接的測定の特徴
- 長所:
- チーム認知の内容と構造を直接評価できる
- 共有度と正確性の測定が可能
- チーム認知の時間的変化を追跡できる
- 短所:
- 開発が資源集約的
- 一部の環境では実現可能性が低い
- コンテキスト間の一般化が限定的
- シミュレーションを中断する必要がある場合がある
間接的測定の特徴
- 長所:
- 使用が容易
- シミュレーションを妨げない
- 既存の評価システムと統合しやすい
- 短所:
- チーム認知の共有度と正確性を評価する能力が限定的
- 行動の原因が複数あり得る(例:高い共有度を持つチームは「無言」に見えることがある)
- チーム認知プロセスの特定の側面に対するフィードバックが不足
新しい測定アプローチの具体的事例
直接的課題前評価の例
Burtscherらの研究(2011年)では、手術チームメンバーに30のタスク(例:患者の換気、頭部の再配置)のリストを専門家と協力して作成し、各メンバーにこれらのタスクを以下に基づいて並べ替えるよう依頼しました:
- 手術中の優先順位
- 各タスクの責任者
これにより、チームメンバー間のメンタルモデルの共有度と正確性を評価できました。
直接的課題中評価の例
Coolen, Draaisma, Loeffen(2019年)の研究では、小児急性期ケアチームのシミュレーション中に「フリーズ」を導入し、メンバーに以下のような項目について回答を求めました:
- 「この時点でのチームリーダーは誰ですか?」
- 「患者の状態について重要なことは何ですか?」
これにより、シミュレーション中のリアルタイムな状況認識を測定できました。
間接的課題中評価の革新的アプローチ
Schmutz, Lei, Eppichの「Team Reflection Behavioral Observation (TuRBO) System」(2021年)は、チームパフォーマンスの録画を観察者が継続的に瞬間的コーディングを行い、参加者がいつ、どのように振り返り行動に従事しているかを特定します。このシステムは間接的アプローチながら、チーム認知プロセスに焦点を当て、パフォーマンス全体を通じてこれらのプロセスの進化をモニタリングするため、豊かな洞察を提供できます。
教育者と研究者への具体的提言
教育者への提言
- 課題前直接評価の実施方法:
- 課題中評価の戦略:
- 定期的な一時停止による短いアンケートの実施(SAGAT等)
- 観察者によるメンバーの行動やコミュニケーションの継続的コーディング
- これらを組み合わせることで、観察された行動とチームメンバーの認知状態の関係を理解
- 課題後評価の強化:
- 直接・間接両方の評価を統合
- チームメンバーの状況理解の類似性を評価
- 次のステップに関する予測の共有度を測定
- チーム認知についてのメンバーの認識調査(例:「チームの臨床シナリオに関する共有理解をどのように特徴づけますか?」)
研究者への提言
- 使いやすい直接測定ツールの開発:
- コンテキスト間で転用可能な測定ツールの開発
- 複数のコンテキストに存在するチーム認知の特徴をターゲットにする
- ツール適応のガイドライン提供:
- 測定ツールとトレーニング成果の関係の検証:
- チーム認知の直接測定がチームメンバーの行動にどのように影響するかを調査
- 直接測定がより豊かなデブリーフィングセッション、さらなる振り返り、後続セッションでのチーム機能向上につながるかを評価
- 新たな技術を活用した非侵襲的測定法の探求:
結論
Evansらの研究は、医療シミュレーションにおけるチーム認知測定の現状を批判的に検討し、より精密で多次元的な測定枠組みを提案しています。著者らは、ヒューマンファクターと組織心理学の文献に基づいた測定手法を採用することで、医療チームシミュレーション教育者と研究者がチームパフォーマンスを最適化するための取り組みをサポートすることを目指しています。この枠組みは、単なる理論的貢献にとどまらず、実践的な測定戦略を提供することで、医療チームトレーニングの質を向上させることを目的としています。