医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

ローテーション中の非構造化臨床教育の評価: 小児科と産婦人科における医学生の経験が、学習成果の認知にどのように影響するか

Evaluating Unstructured Clinical Teaching During Rotations: How Medical Students’ Experiences in Paediatrics and Gynaecology Influence Perceived Learning Outcomes.

Hannula V, Lehtovirta L, Kourunen L, Sumanen M. 

Adv Med Educ Pract. 2025;16:1297-1304
https://doi.org/10.2147/AMEP.S523181

www.dovepress.com

研究の背景と目的

研究テーマ: 医学生の小児科と婦人科の臨床実習における非構造化教育が、学習目標の達成にどう影響するかを調査

臨床教育の課題

教育環境の不均一性:

  • 医学生は様々な指導医から学ぶため、教育の質にばらつきが生じる
  • 患者症例の組み合わせが大きく異なる
  • 学習は患者の利用可能性と症例の性質に左右される
  • すべての患者が学生の関与に同意するわけではない

学生が直面する困難:

  • 実習期間が数時間から数週間と幅広い
  • 馴染みのない環境、スタッフ、慣行への適応
  • 業務の妨げになることへの恐れ
  • 学生の役割が限定的になることが多い

既存研究の混在した結果:

  • 教育の質と患者数が実習評価に与える影響について一貫した結果が得られていない
  • 試験成績への影響についても混合した結果
  • 多くの研究が構造化された教育に焦点を当て、非構造化学習についての知見が不足

研究方法

調査対象:

  • タンペレ大学医学部の2021-2022年度の学生
  • 小児科実習:140名の学生(833件の評価)
  • 婦人科実習:142名の学生(1188件の評価)

評価項目:(7段階評価、1=非常に悪い、7=非常に良い)

  • 病院医師による指導
  • 医師の教育意欲
  • 医療スタッフによる指導(小児科のみ)
  • 医療スタッフの教育意欲
  • 患者診察の機会
  • 手技実施の機会(婦人科のみ)
  • 時間の有効活用
  • 学習目標の達成

主要な結果

全体的な評価

  • すべての項目で平均5点以上の高評価
  • 学習目標達成度:小児科5.6点、婦人科5.7点
  • 婦人科が「病院医師による指導」以外のすべての項目で小児科を上回る

学習目標達成に最も影響する要因

時間の有効活用の重要性

先行研究との整合性:

  • 実習での時間の長さと実習効果の評価には直接的な相関がない
  • 非教育的時間を除いた時間が実習効果と相関する
  • 自己主導型診察と医師の観察に費やした時間が学習環境の質の認識と相関

臨床教育ガイドラインとの関連:

  • 医師は学生のスキルレベルに応じて積極的な役割を与えるべき
  • 学習に適さない忙しい状況では、他の専門職をフォローさせるか自己学習に向けるべき

分野別の特徴と解釈

小児科の特徴

  • 医師の指導と教育意欲が学習目標達成に強い影響
  • 患者診察の機会が3番目に重要(効果サイズは小)
  • 医療スタッフの指導の影響は最小

婦人科の特徴

助産師の役割の重要性:

  • 助産師は医学生教育に慣れており、強力な教育スキルを持つ
  • 産科病棟で学生が定期的に助産師と連携
  • 他の医療従事者の教育意欲が医師の指導よりも高い評価

患者診察・手技の特殊性:

  • 患者が身体検査や骨盤検査を拒否することがある
  • 特に男性学生で頻繁に発生
  • スウェーデンの「プロフェッショナル患者」制度のような代替手段の価値

学生が認識する障壁:

  • スタッフと比較して、学生は教育への関心不足と検査実施機会の限定をより大きな障害として認識

学年による影響

5年生の優位性(婦人科):

  • より多くの臨床実習経験
  • 夏休み前に医師として働く資格(フィンランド制度)
  • 実習中の自己学習管理能力の向上
  • ただし、効果サイズは他の変数と比較して最小

保守的分野と手術分野の違い

Patel and Dauphineeの研究との関連:

  • 小児科:臨床スキル習得が低く、事実知識が高い
  • この違いが学習目標と学生の認識に影響を与える可能性

臨床教育への示唆

医学教育機関への具体的提言

  1. 時間管理の最適化
    • 非生産的時間の体系的な特定と削減
    • 学習活動のより効果的なスケジューリング
  2. 患者機会の確保
    • 構造化された授業外での患者診察機会の体系的な確保
    • 患者同意プロセスの改善
  3. 分野別アプローチ
    • 各実習で学生が医師をフォローするタイミングの個別検討
    • 他の医療従事者の関与が学習を向上させるタイミングの検討

臨床医への具体的提言

  1. 積極的教育アプローチ
    • 学生参加の促進
    • 患者診察機会の積極的な提供
  2. 教育方法研
    • 学生指導現場での医師向け教育方法に関する短期介入の検討

 

研究の限界と今後の課題

限界:

  • 1つの医学部、2つの診療科のみの調査
  • 学習目標の達成を学生の自己評価に依存
  • 一部の実習期間が短期間

今後の研究方向性

  1. 介入研究の実施
    • 教育方法に関する短期介入が学習目標達成に与える影響の調査
  2. 他分野への拡張
    • より多くの医学専門分野での検証
  3. 縦断的研究
    • 時間経過による学習効果の変化の追跡

まとめ

この研究は、医学生の臨床実習において「時間の有効活用」が学習目標達成に最も重要であることを示しました。また、診療科によって効果的な教育アプローチが異なることも明らかになり、個別化された臨床教育の重要性を示唆しています。