医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

医学生におけるコンピュータビジョン症候群と睡眠および疲労との関係

Computer vision syndrome and its relationship with sleep and fatigue in medical students.

Garlock, M., Speth, M. & McEchron, M. 

BMC Med Educ 25, 1015 (2025). https://doi.org/10.1186/s12909-025-07503-1

bmcmededuc.biomedcentral.com

研究の背景

コンピュータビジョン症候群(CVS)とは

定義: 長時間のコンピュータ使用や「スクリーンタイム」によって引き起こされる目や視覚の問題の集合体

主要症状:

  • 目の疲れと乾燥
  • 目の刺激感と充血
  • 頭痛
  • 視界のぼやけ
  • 二重視

医学教育での問題

  • コンピュータ技術の進歩により、医学教育での教授、学習、コミュニケーションがより効果的になった
  • しかし、コンピュータ技術が学生の視覚・行動面の健康に与える影響についてはほとんど知られていない
  • 医学教育においてコンピュータやデジタル機器の使用が不可欠となっている
  • COVID-19パンデミック中に医学生CVSが増加したことが他の研究で示されている

研究対象と方法

主な結果

有病率

  • CVS:83.1%の学生(148名中148名)がCVSありと判定
  • 睡眠の質の低下:57.3%の学生(102名中178名)
  • 著明な疲労:56.7%の学生(101名中178名)

症状の特徴

CVSで最も多い症状(平均スコア0.75以上):

  • 頭痛(1.28)
  • 目の乾燥(1.26)
  • まぶたの重み(1.03)
  • 視力の悪化(0.98)
  • 視界のぼやけ(0.93)

相関関係

CVS、睡眠の質、疲労の3つの指標はすべて有意に相関していました(p<0.001)。

考察と意義

仮説的解釈とメカニズム

可能な因果関係パターン

パターン1: CVS睡眠障害疲労

  1. 長時間のコンピュータ画面での学習
  2. CVS症状(特に頭痛・目の痛み)の発現
  3. これらの症状が睡眠障害を引き起こす
  4. 結果として疲労が生じる

パターン2: 長時間学習 → 疲労/睡眠障害CVS脆弱性

  1. 長時間の学習とコンピュータ使用
  2. 疲労睡眠障害が直接発生
  3. 疲労・睡眠不足がCVSへの脆弱性を高める

パターン3: 複合的相互作用

  • 上記のパターンが相互に影響し合う複雑なメカニズム

教育的含意と実践的提案

医学教育カリキュラムへの影響

  1. 現状認識: 現在の医学教育は重度にコンピュータ画面に依存
  2. 健康リスク: 学生の視覚的・身体的健康への潜在的脅威
  3. 教育効果: CVS疲労睡眠障害が学習効果に与える影響

具体的改善策の提案

  1. コンテンツ配信方法の多様化
    • スクリーン時間を減らす教育方法の開発
    • 従来の講義形式との組み合わせ
  2. 予防プログラムの実装
    • 目の健康管理教育
    • 適切な休憩時間の設定
    • エルゴノミクス指導
  3. 追跡システムの導入
    • 米国の医学校間でのスクリーン時間比較
    • CVS発生率のモニタリング

今後の課題

  • CVS疲労睡眠障害の予防方法の開発
  • スクリーン時間を減らす教育方法の検討
  • 客観的な測定方法を含むさらなる研究の必要性

社会的・臨床的意義

医学教育界への影響

  1. 教育政策の見直し: デジタル教育の健康影響を考慮した政策策定
  2. 学生支援体制: CVS疲労睡眠障害への包括的サポート
  3. 教員研修: 健康に配慮した教育方法の普及

将来の医師への影響

  1. 職業性健康問題: 医師のキャリア全体を通じた視覚的健康管理
  2. 患者ケアへの影響: 医師自身の健康状態が患者ケアの質に与える影響
  3. 専門的責任: 自身の健康管理の重要性認識

研究の限界

  • 自己申告による調査データのみ
  • 横断的研究のため因果関係は不明
  • 客観的な眼科検査データの欠如