To teach is to learn twice, revisited: a qualitative study of how residents learn through teaching in clinical environments
Takeshi Kondo, Noriyuki Takahashi, Muneyoshi Aomatsu & Hiroshi Nishigori
BMC Medical Education volume 24, Article number: 829 (2024)
背景
「教えることは二度学ぶことである」ということわざがあるように、教えることは教師自身の専門家としての学習に役立つ。 臨床現場におけるニアピア・ティーチングは、ティーチング・スキルと医師に必要なコンピテンシーの両方の開発に貢献することが示されている。 ニアピア・ティーチャーが教える役割を通してどのように学ぶかに関する研究は、主に教室での学習に焦点が当てられてきた。 しかし、臨床現場において「教えることは二度学ぶことである」という現象がどのように起こるのか、またその影響要因を理解することは、質の高い職場学習環境を整備する上で重要である。 そこで本研究では、臨床現場におけるティーチングを通して研修医がどのように学習していくのか、またその過程に影響を与える要因について検討した。
方法
本研究の方法論は、社会構成主義の観点から構成主義的グラウンデッド・セオリーに基づいている。 日本国内の複数の教育病院を対象とし、これらの病院の卒後2年目研修医(PGY2)を研究参加者とした。
結果
この研究では、PGY2(初期研修2年目の研修医)が臨床環境で教えることを通じてどのように学んでいるかを明らかにしました。2016年1月から2022年7月にかけて、9つの教育病院の11人のPGY2に対して13回のインタビューが行われた。13回のインタビューから得られた結果は、以下のようにまとめられます。
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PGY2の教育者としての役割:
- PGY2は、臨床環境において多様な教育的役割を果たしていました。これには、知識の伝達、手技の指導、PGY1(初期研修1年目の研修医)との対話を通じた内省のサポート、学習環境の調整、模範となる行動の提示などが含まれます。
- PGY2はこれらの教育的役割を通じて、医療知識、手技、患者ケア、患者安全、医療の質向上、コミュニケーション、チーム医療、プロフェッショナリズムなど、多岐にわたるコンピテンシーを獲得していました。
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具体的な学習プロセス:
- PGY2がPGY1に知識を伝達する際、自身の過去の学習内容を再確認し、不完全な知識に気づくことで、さらなる情報収集と知識の構築が促されました。
- 手技の指導においては、自身が習得した手技を他者に教える過程で、暗黙的に学んだ経験を言語化し、標準化する機会が得られました。また、PGY1の診断過程を観察することで、他者の臨床推論プロセスを学ぶことができました。
- PGY2は、PGY1との対話や観察を通じて、自身の医療行為や患者対応について振り返り、改善点を見出しました。たとえば、PGY1の言葉遣いや態度を観察することで、自身のコミュニケーションスキルの見直しが促されました。
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学習に影響を与える要因:
- システム要因: PGY2とPGY1が共通のタスクを共有し、コミュニケーションが促進される環境が整っていると、教育的相互作用が増加しました。たとえば、同じケースを扱う場合や、日常的にPGY2がPGY1に助言を求められるシステム(「屋根瓦方式」)が導入されている場合、教育機会が多く生じました。
- 個人的要因: PGY2が自身の目指す指導医像を持っている場合、そのビジョンが教育行動を促進し、学習意欲を高めました。また、教育活動を通じて得られる反省の機会が、PGY2自身の成長につながるかどうかは、個人の内省能力に依存していました。
考察
この研究の考察では、以下の点が強調されています。
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教育を通じた学習プロセスのモデル:
- PGY2が教えることを通じて学ぶプロセスは、「正統的周辺参加」と「実践コミュニティ」の理論を通じて説明されています。PGY2は、医療チームの一員としてPGY1を指導することで、専門家としての自己像を形成し、そのイメージが学習を方向付けました。また、教えることが自己内省を促し、学びの深さを増す役割を果たしているとされています。
- 教育が反省を通じて学習を促進するためには、PGY2が自己の行動を振り返り、その影響を評価するプロセスが重要です。この内省のプロセスは、PGY1の存在や彼らに教えることによって強化されます。
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臨床教育におけるコミュニティの形成の重要性:
- PGY2が学びを深めるためには、PGY1とのコミュニケーションが円滑に行われ、共通の目標やタスクが共有される「実践コミュニティ」の形成が必要です。このコミュニティの中で、PGY2は自分が目指す指導医像を明確にし、それが学習の方向性を決定します。
- 実践コミュニティの中での内省と学習の相互作用が、PGY2の専門的成長を促進すると考えられます。
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文化的およびシステム的な影響:
- この研究は日本の医療環境で行われたものであり、指導医と研修医の間の権威勾配が強いアジアの文化的背景が影響を与えています。したがって、この結果を他の国や異なる文化的背景に適用する際には注意が必要です。
- また、PGY2とPGY1の間の教育的相互作用は、制度的な要因だけでなく、個々のPGY2の内省能力や自己のビジョンによっても影響を受けることが示されています。
この研究は、臨床環境においてPGY2が教育者としての役割を果たすことで、幅広い医師としてのコンピテンシーを獲得できることを示しています。また、教育が学習を促進するためには、内省や目指す指導医像の形成が重要であり、これを支えるコミュニティの形成が必要であると結論付けています。