医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

地域に根ざしたカリキュラムにおける学生の健康の社会的決定要因の理解

Students’ understanding of social determinants of health in a community-based curriculum: a general inductive approach for qualitative data analysis

Sachiko Ozone, Junji Haruta, Ayumi Takayashiki, Takami Maeno & Tetsuhiro Maeno
BMC Medical Education volume 20, Article number: 470 (2020)

bmcmededuc.biomedcentral.com

背景

全米科学アカデミーは、医療従事者がSDHを理解するための生涯学習フレームワークを提供している。このフレームワークでは、SDHに関する生涯学習は、教育、コミュニティ、組織の3つのドメインを中心に構築されている。

community-based medical education(CBME)のカリキュラムでは、健康の社会的決定要因(SDH:social determinants of health)について、文脈の理解を促すことで学ぶ機会を提供することができるかもしれないが、学生がどのようなカテゴリーについて学ぶことができるのか、また、学生がどのような反映をしているのかは不明である。本研究では、CBMEカリキュラムにおける医学生のSDHに関する理解と省察のレベルを分析することを目的とした。

 

方法

研究デザイン。質的データ分析のための一般的帰納的アプローチ。

一般帰納的アプローチとは、定性的データを分析するための体系的な手順であり、分析は特定の評価目的に導かれている可能性が高い。これは、構造化された方法論に拘束されることなく、元々のデータに内在する頻繁な、支配的な、または重要なテーマから研究の知見を引き出すことを目的としている

 

教育プログラム。

2018年10月から2019年5月までの間に、一般内科とプライマリ・ケアの4週間の必修臨床実習を修了した筑波大学医学部5年生と6年生の全医学生を対象とした。カリキュラムには、茨城県の郊外や農村部にある地域の診療所や病院で3週間のローテーションが含まれていました。初日は講義とグループ活動を通してSDHについて学んだ。SDHの課題として、カリキュラムの中での出会いをもとに、Solid Factsのフレームワークを用いて構造的な事例記述を作成するように指導されました。最終日には、構造的なリフレクションレポートを提出しました。

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分析。

内容分析は、Solid Factsフレームワークに基づいて行われました。省察のレベルは、省察的、分析的、記述的に分類されました。

 

結果

SDHの事例記述113件と報告118件を分析した。SDH課題では、社会的支援(85%)、ストレス(75%)、食物(58%)についての報告が多かったが、幼少期(15%)、失業(14%)、社会的勾配(6%)についての報告は少なかった。118件の報告のうち、省察的な報告が2件、分析的な報告が9件、記述的な報告が36件であった。その他は評価できなかった。

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考察・結論

このプログラムの強みは、「Solid Facts」を学生に提供することで、SDHの学習についてのフレームワークを学生に示したことである。学生のリフレクティブシンキングはガイドラインやフィードバックによって強化されると報告されており、フレームワークに導かれた学生はSDHの要因を描けるようになっていた。しかし、フレームワークに沿って、学生がフレームワークに最も合致する事例を見つけるように促すケースもあった。もう一つの強みは、グループごとに一人の教員がファシリテーターとなり、グループディスカッションでSDHに関わる事例について学生が経験を共有する機会を提供したことである。メンタリングやグループディスカッションは、リフレクションの発達に関連していることも報告されている。

一方で、このプログラムにも改善が必要な点があった。まず、プログラムの目標は、プログラムの期間が比較的短いことを考慮に入れる必要がある。解決策としては、このプログラムの目標をSDHの基礎を理解することに設定し、SDH教育は専門的な実践を伴う継続的なプロセスであるため、さらなる専門的な学習につなげることが考えられる 

 

医学生を対象としたCBMEカリキュラム内でのSDH教育プログラムは、学生にSDHの要因を理解する機会を提供した。今後、SDH教育がより反映的なものとなるためには、教員の育成や多面的なプログラムを含めたアプローチが必要であろう。