医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

外科研修医における家族計画に影響する要因

Factors affecting family planning among general surgery trainees
Caiwei Zheng, Parker Bussies, Luccie Wo, Sarah Eidelson, Chi Zhang, Joelle Mouhanna & Mecker G. Möller 
BMC Medical Education volume 25, Article number: 615 (2025)

bmcmededuc.biomedcentral.com

研究の背景と目的

この研究は、外科研修医、特に一般外科(General Surgery)研修医が直面する家族計画の問題を包括的に理解するために行われました。医師、特に外科医は出産を遅らせる傾向があり、年齢関連の不妊リスクが高まっていることが先行研究で示されています。特に外科系の研修医は、長時間労働やキャリア形成の複雑さから、家族計画における独自の課題に直面しています。

研究方法

  1. アンケート設計
    • 26問のアンケートを作成
    • 短答式、リッカート尺度、はい/いいえの質問、ランキング質問を組み合わせた構成
    • マイアミ大学の外科研修医と教員パネルによって開発
    • アンケートは内部でパイロットテストされ、機能性を確認
  2. 配布方法
    • Qualtrics経由でメール配信
    • 全米の344の認定一般外科研修プログラムと60の乳腺外科フェローシッププログラムコーディネーターにリンクを送付
    • 回答期間は2020年5月から7月
    • インセンティブとして50ドルのAmazonギフトカードの抽選に応募できる形式
  3. 回答率と代表性
    • 合計283件の回答があり、そのうち234件が完全回答(82.7%の完了率)
    • 回答者は全研修レベル(PGY1〜PGY7+)を代表
    • 回答者は全米の一般外科研修医の約2.4%を占める
    • 女性の割合(67.4%)は、2020年時点の一般外科研修医の女性比率(44.8%)より高い

統計学的特徴

  1. 回答者の構成
    • 研修医:73.5%(169人)
    • フェロー:26.5%(61人)
    • 平均年齢:32.2歳(SD=3.18)
    • 性的指向異性愛者が93.5%
    • 婚姻状況:60.3%が既婚
    • 子どもを持つ研修医:44.9%
  2. 男女別の特徴
    • 女性は独身または未婚の関係にある可能性が高い(p=0.014)
    • 女性の方がフェローシップを目指す傾向が強い(89.9% vs 77.4%、p=0.052でやや有意差あり)
    • 女性は妊娠力温存を検討する可能性が大幅に高い(29.8% vs 6.9%、p<0.001)

出産遅延と妨げる要因に関する詳細分析

  1. 出産遅延に関連する要因
    • 労働時間:週80時間以上働く研修医は出産を遅らせる確率が高い(58.9%、p=0.007)
      • 週60時間未満:21.1%が出産を遅らせる
      • 週60-79時間:43.5%が出産を遅らせる
      • 週80時間以上:58.9%が出産を遅らせる
    • 性別:女性は男性よりも出産を遅らせる確率が高い(54.1% vs 31.4%、p=0.002)
  2. 出産を妨げる要因(各要因が禁止的と回答した割合)
    • 時間の制約:93%(女性98.1% vs 男性81.0%、p=0.021)
    • キャリア/教育目標:63%(女性94.3% vs 男性61.9%、p=0.001)
    • コスト:60%(女性60.4% vs 男性57.1%、p=0.202で有意差なし)
    • 個人的サポートの欠如:女性50.9% vs 男性42.9%(p=0.611で有意差なし)
    • プログラムサポートの欠如:女性50.0% vs 男性45.8%(p=0.441で有意差なし)
    • 既存の医学的条件:女性41.0% vs 男性23.8%(p=0.196で有意差なし)
    • 年齢:女性48.1% vs 男性23.8%(p=0.070でやや女性に高い傾向)
  3. 意外な発見
    • フェローシップを目指すこと自体は出産遅延と関連していなかった(p>0.999)
    • 年齢層(26-30, 31-35, 36-40)と出産遅延の間に有意な関連はなかった(p=0.850)
    • 関係状態(独身、既婚/交際中、離婚/別居)と出産遅延の間に有意な関連はなかった(p=0.330)

男女差に関する考察

  1. 時間不足の影響が女性により大きい理由
    • 先行研究では、男性研修医のパートナーは女性研修医のパートナーよりも仕事をしていない可能性が高く、子育て支援により多く関わる傾向がある
    • このため、パートナーのサポートが少ない女性研修医は、男性研修医よりも時間不足をより深刻に経験する可能性がある
  2. プログラム文化の影響
    • プログラムディレクターの61%が女性研修医の出産が仕事に悪影響を与えると認識
    • 33%がそれが同僚研修医に負担をかけると認識
    • 女性研修医に対するベースラインでのより否定的な認識が存在する
    • プログラムリーダーシップの推薦は研修医の将来のキャリア成功に大きな役割を果たすため、この否定的な認識は特に女性の出産決定を思いとどまらせる可能性がある

研修プログラムの支援状況

  1. 現在の支援状態
    • ほとんどのプログラムは家族計画/妊娠治療(12%)または妊娠力温存(5.1%)に関する正式なカウンセリングを提供していない
    • 研修機関が提供する保険はほとんど妊娠関連ケアをカバーしていない
    • 多くのプログラムディレクターは研修医が直面する不妊問題を認識していない
    • 研修医の約半数は割り当てられた育児休暇の2週間未満しか利用していない
    • わずか3.8%の研修医しか現在のアメリカ外科学会の育児休暇方針を知らない
  2. 改善のための提案
    • 病院提供または病院提携の保育施設へのアクセス向上
    • 利用可能な支援サービスに関する研修医の教育強化
    • プログラムリーダーシップ間での研修医の出産の正常化
    • 性別特有のニーズに合わせた制度設計
    • 特に女性研修医のエンパワーメントに焦点を当てた制度の構築

研究の限界

  1. サンプルサイズと代表性
    • プログラムディレクター/コーディネーターを通じてアンケートを配布したため、実際にどれだけの対象者に届いたかは不明
    • サンプルサイズが小さく、より大きな外科研修医の母集団への一般化可能性が制限される
    • 自発的な回答バイアスがある可能性(家族計画の改善に強い関心を持つ個人が参加した可能性)
    • 女性回答者の割合が全体の比率よりも高かった
  2. ジェンダーに関する限界
    • 回答は「男性」と「女性」に限定されており、他のジェンダーアイデンティティを持つ可能性のある研修医の経験を捕捉していない
    • 今後の調査では、より包括的なアプローチを取ることで、家族計画に直面する独自の障壁を持つ可能性のある追加のサブグループを明らかにする必要がある