医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

シミュレーションに基づく教育研究論文における感情と関連する構成要素のスコープレビュー

A scoping review of emotions and related constructs in simulation-based education research articles
Byunghoon (Tony) Ahn, Meagane Maurice-Ventouris, Elif Bilgic, Alison Yang, Clarissa Hin-Hei Lau, Hannah Peters, Kexin Li, Deuscies Chang-Ou & Jason M. Harley 
Advances in Simulation volume 8, Article number: 22 (2023) 

advancesinsimulation.biomedcentral.com

 

背景
シミュレーションに基づく教育における感情の重要性が認識されつつある一方で、教育研究者がシミュレーションに基づく教育に感情的なシナリオを意図的に取り入れるために、感情の概念をどのように理解するのかという懸念がある。この懸念は、特に理論的な統合が不十分なことが多い医学教育の文脈において強調されている。現在のシミュレーションベース教育に関する文献が情動をどのように概念化しているかを明らかにするため、医学生、研修医、フェローを対象としたシミュレーションベース教育の論文において、情動および密接に関連する構成要素(ストレス、情動知能など)がどのように概念化されているかについてスコープレビューを行った。

方法
スクーピングレビューは、データベース検索(EMBASEおよびMedline)および手作業による論文検索によって特定された過去10年間に発表された論文に基づいて行われた。データ抽出には、論文で取り上げられた構成要素、その定義、使用された器具、把握された感情の種類が含まれた。経験的な論文のみを対象とした(例えば、総説やオピニオン論文は対象外とした)。データは記述分析により図表化した。

結果
合計141の論文がレビューされた。ストレスは88の論文で取り上げられ、感情は45の論文で、感情的知性は34の論文で取り上げられた。感情の概念化は理論の統合を欠いていた。感情の測定はほとんどが自己申告に頼っていたが、ストレスは生理学的測定と自己申告によって測定されることが多かった。不安などの否定的な感情は、ストレスという用語と交換可能であると見なされることもあった。感情的知性から参加者の特定の感情について推論することはできなかった。

考察

本研究では、医学生および研修生に焦点を当て、シミュレーションに基づく教育(SBE)の文献における情動および関連する構成要素(ストレス、情動知能、気分)の概念化を理解するために、スコープレビューを実施した。

理論的枠組みの欠如:SBEの文献では、明確な定義や理論的な言及がなく、感情について非公式に議論されていることが多かった。ほとんどの論文では、感情に関する明確な定義が示されておらず、理論に基づいた概念化が欠如していることが示された。

否定的感情への焦点:多くの研究は、不安、恐怖、羞恥心などの否定的感情に集中していた。このような焦点が当てられるのは、医療シミュレーションが激しく困難な性質を持っており、強い情動反応を引き起こすことが多いためと考えられる。

測定方法:情動は主に自己報告法を用いて測定され、不安のような陰性情動を測定する尺度に重点が置かれていた。ストレスについては、自己報告と生理学的測定の両方を組み込んだ複数のデータチャンネルへの依存が顕著であった。

情動的知性(EI):EIの概念化は、感情やストレスに比べてより形式的なものであった。EIについて論じたほとんどの論文では正式な定義が示されており、多くの場合、確立された理論が参照されていた。

用語の互換性:ストレス、感情、不安といった用語は、混同を招く可能性があるため、同じ意味で使用される傾向があった。不安はストレスの構成要素ではあるが、数あるストレス反応のひとつに過ぎない。

文化的および文脈的要因:SBEに関する文献の大半は欧米諸国のものであり、文化的バイアスがかかっている可能性が示唆される。今後の研究では、多様な文化的観点を考慮すべきである。

今後の方向性:本研究は、SBEにおける感情をより包括的に理解するために、統制価値理論(CVT:Control-Value Theory)のような理論的枠組みを今後の研究に取り入れるべきであることを示唆している。さらに、バーチャルリアリティシミュレーションや職種間チームなど、特定のSBEの文脈における感情の役割を探求する必要がある。

結論

我々のスコープレビューから、シミュレーションを用いた教育における学習者は、不安や恐怖を感じていることが最も多いことが示された。しかし、これは医学教育が否定的な感情の測定を優先していることに部分的に起因している。感情やストレスを検討する際に理論的な統合を進めることで、他の種類の感情やその影響に関するより良い概念化へと範囲を広げることができるかもしれない。シミュレーション教育研究者に対し、感情をどのように理解しているか、またその理解がシミュレーション参加者の感情体験の特定の側面をないがしろにしていないかについて振り返るよう呼びかける。