Medical competence as a multilayered construct
Olle ten Cate, Natasha Khursigara-Slattery, Richard L. Cruess, Stanley J. Hamstra, Yvonne Steinert, Robert Sternszus
First published: 16 July 2023 https://doi.org/10.1111/medu.15162
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/medu.15162?af=R
背景
コンピテンシーに基づく医学教育では、医学的能力の概念化が中心的な役割を果たす。最近の報告書で推奨されている「フレキシブル・パスウェイ」を備えた「固定基準」を求める声は、コンピテンスを明確に定義することを求めている。しかし、コンピテンスを明示し、測定可能にすることは、標準化の必要性と、医療従事者もまたユニークな個人として評価されなければならないという認識との間の緊張のためもあり、困難であった。この相反する要求に対処するために、コンピテンスの多層的な概念化を提案し、基準の定義や評価へのアプローチに示唆を与える。
モデル
第1の層;規範的知識(Canonical Knowledge)、文脈に依存しない知識(Context-Independent Knowledge)、技能(Skill)
専門性や状況にかかわらず、すべての医師が持つべき中核的な医学知識と技能を表している。これには、人間の生理学、病理学、エビデンスに基づいた診断と治療の実践を理解することが含まれる。しかし、医学の進歩や社会的規範や価値観の変化とともに時代とともに進化するため、標準的な知識を定義することは困難である。
第2の層 状況に依存した知識と技能
基礎となる知識をさまざまな文脈に適応させ、応用する能力を含む。これには、地域環境、同僚、プロトコル、患者集団への適応が含まれる。この層では、専門家としての振る舞い、誠実さ、信頼性、謙虚さといった要素が重要な役割を果たす。コンテクスチュアル・コンピテンスという概念では、コンピテンスはそれが開発されたコンテクストから切り離すことはできず、有効性を確保するためには継続的な適応が必要であると主張する。
第3の層 個人化された知識、スキル、関心、習慣、信念
このコンピテンシーの層は、それぞれのプロフェッショナルに固有のものであり、前の2つの層の上に構築される。完全に同じ知識ベースや経験を共有する個人は存在せず、その結果、プロフェッショナルとしての個性が生まれる。この層は、個人的な経験、感情、動機、過去の学習、文化的背景、認知・感覚システムによって形成される。単に外的な基準を満たすことから、個人的な基準に基づいてより高いレベルの熟練度を追求することへの移行を意味する。
ヴィゴツキーのペレジヴァニー(または「生きた経験」)の概念、認知負荷理論、自己決定理論、マズローの動機づけ理論など、さまざまな理論的観点を用いて、これら3つの層にわたる能力の発達を説明している。これらの層が一体となることで、実践への個別化されたアプローチが可能になり、専門職における自己実現と充実感につながる。
コンピテンシーに基づく教育では、教育修了の証明と実践のための免許という2つの目的を持つ、コンピテンシーの適切な評価が極めて重要である。
第1層の標準的な知識・スキルの評価には、1970年代から90年代にかけて確立された標準試験を用いる。文脈に依存しない基準を満たし、学習者の進歩に焦点を当てる。
第2層の文脈的能力のアセスメントは、心理測定学的な課題はあるものの、過去20年間で進歩した職場ベースのアセスメント(WBA)に依存している。現在では、従来の信頼性よりも、専門家の判断と委託の決定が重視されている。患者の安全性を考慮し、委託の決定に集団的判断を用いる。
第3層の個人的な能力の評価は、一般的な基準なしに、個別に行われる。優れた能力は、環境による評価によって、さらなる開発の動機づけとなる。自己内省と能力開発を通じて、最低基準を超える卓越性を追求する個人を評価する。
この三層構造の枠組みは、「知ること」「行動すること」「存在すること」の要素を含み、アイルランドの医学カリキュラムで活用されている。このモデルが、知識や技能の標準化された評価と、臨床医が実践する多様な状況、そして医療従事者間の多様性との間の緊張を調和させるのに役立つ。
階層的な性質にもかかわらず、レイヤーの発展は厳密には連続的ではない。確立された医学知識と技術が質の高い患者ケアを保証するという単純化されすぎた考え方に異議を唱えながら、生物医学的知識の限界と不確実性を強調している。こうした不確実性を克服し、医療従事者の歩みの一部として、実践における許容可能なばらつきを認識することの重要性を主張している。この不確実性と多様性に対する寛容さは、個々の開業医の個人的成長と専門家としてのアイデンティティを反映するものであり、第3の層にとって極めて重要である。
明確なタスクやコンピテンシーに焦点を当てるのではなく、評価基準の必要性と個人の専門家としてのアイデンティティの発達を調和させる、医療コンピテンシーの層構造を提案しているのである。