医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

統合PBLカリキュラムが臨床実習前の医学部学生の臨床思考に及ぼす影響

The impact of an integrated PBL curriculum on clinical thinking in undergraduate medical students prior to clinical practice
Feng Zhou, Aiming Sang, Qing Zhou, Qing Qing Wang, Yao Fan & Songhua Ma 
BMC Medical Education volume 23, Article number: 460 (2023) 

bmcmededuc.biomedcentral.com

 

背景
問題解決型学習(Problem-Based Learning:PBL)は、医学教育において広く採用されている教育手法であり、本格的な学習状況において批判的思考と問題解決を促進することを目的としている。本研究では、統合型PBLカリキュラムが臨床実習前の医学生の臨床思考能力に及ぼす影響を評価することを目的とした。

方法
本研究では、南通大学の医学部3年生267名を募集し、PBL群と対照群のいずれかに独立に割り付けた。臨床思考能力の評価には中国語版の臨床思考能力評価尺度を用い、PBLによる個別指導における学生の成績はチューターが評価した。両群の参加者全員にテスト前とテスト後のアンケートに回答してもらい、臨床思考能力を自己申告してもらった。異なるグループ間の臨床的思考スコアの差を比較するために、対標本t検定、独立標本t検定、一元配置分散分析検定(ANOVA)が用いられた。臨床的思考力と相関する影響因子を分析するために重回帰分析を行った。

結果
南通大学医学部3年生の臨床思考能力は高い水準にあった。PBL群では、対照群と比較して、テスト後の臨床思考能力が高い学生の割合が高かった。臨床思考力のテスト前得点はPBL群と対照群で同程度であったが、テスト後得点はPBL群が対照群より有意に高かった。また、PBL群ではテスト前とテスト後で臨床思考力に有意差がみられた。PBL群では、批判的思考力のサブスケールのテスト後の得点がテスト前に比べて有意に高かった。さらに、文献を読む頻度、PBLによる自己学習時間、PBLの成績順位がPBL群の医学生の臨床的思考力に影響を与える要因であった。さらに、臨床的思考力と文献講読頻度およびPBL成績との間には正の相関が認められた。

考察

問題解決型学習(PBL)が医学生の臨床思考能力に与える影響に焦点を当てる。情報過多の現代において、学生の創造的思考力の育成は教育における重要な課題である。PBLは、従来の医学カリキュラムが直面していた課題である、基礎的な医学知識とその臨床応用を統合するための潜在的な解決策を提供する。

PBLは、分析力、問題解決力、協調性を養い、批判的思考力を育成する効率的な戦略として認識されている。PBLの効果は看護教育では研究されているが、医学生に関する研究は限られている。本研究では、古典的な臨床思考評価アンケートを用いて、PBLが臨床思考能力に及ぼす影響を探ることを目的とした。

その結果、PBLカリキュラムはクリティカル・シンキング、システマティック・シンキング、エビデンス・ベースド・シンキングの能力を有意に向上させることが示され、医学部学部生の臨床思考能力育成に有効な方法であることが示唆された。しかし、本研究は、PBLにとどまらない包括的なカリキュラムデザインの重要な役割も強調している。

実際の患者症例に焦点を当てた小グループでのディスカッションを含むPBLのプロセスは、臨床推論を反映したものである。これにより、学生は将来のキャリアにとって重要な高次の思考スキルを実践することができる。臨床的思考に寄与する他の要因としては、医学文献を読む頻度やPBLの成績が挙げられる。

しかし、この研究では、質問票によって得られたデータの妥当性や研究期間の短さなどの限界を認めている。PBLの影響をより包括的に理解するために、サンプル数を増やし、期間を長くし、追加的な要因を考慮した今後の研究が提案される。

結論

本研究は、統合されたPBLカリキュラムが医学部の学部生の臨床思考スキルにプラスの影響を与えることを強調している。そのため、本研究は医学教育におけるPBL教育戦略の継続的な使用を推奨している。