医学教育つれづれ

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COVID-19パンデミック時の研修医における就業開始時期のグリットと抑うつ症状との関連:横断的研究

Association between Grit and depressive symptoms at the timing of job start among medical residents during the COVID-19 pandemic in Japan: a cross-sectional study
Yu Akaishi,Nobutoshi Nawa,Ayako Kashimada,Yasuhiro Itsui,Eriko Okada &Masanaga Yamawaki
Article: 2225886 | Received 27 Apr 2023, Accepted 12 Jun 2023, Published online: 21 Jun 2023

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10872981.2023.2225886?af=R

 

はじめに
COVID-19パンデミックは、研修医を含む医療従事者のメンタルヘルスにさらなる悪影響を及ぼした。これまでの研究から、知能指数とは無関係な長期的目標を達成するための個人特性であるグリットは、学業成績やキャリアの成功と正の相関があるだけでなく、うつ病とも負の相関があることが明らかにされている。本研究では、日本におけるCOVID-19パンデミック時に、就職時の研修医におけるグリットと抑うつ症状との関連を検討することを目的とした。

材料と方法

この横断研究は、東京医科歯科大学(日本、東京都)の2020年3月から2022年4月までの卒後1年目の全研修医のデータを用いた。グリットは日本語版Grit-Sで測定した。研修医の抑うつ症状はCenter for Epidemiologic Studies Depression Scaleを用いて評価した。ロジスティック回帰分析を用いて関連性を検討した。

*Grit-S

8つの質問からなり、「努力の忍耐力」と「関心の一貫性」の2つの下位尺度に分類されている。これらの質問に対する回答は5段階のリッカート尺度で行われ、いくつかの質問は逆項目となっている。Grit-Sのスコアは、各質問の回答を合計し、質問総数で割って算出される。得点の範囲は1から5までで、得点が高いほどグリットのレベルが高いことを示す。同じ得点範囲が下位尺度にも適用される。Grit-Sの検証では、その内的一貫性、経時的安定性、予測妥当性が実証された。この特定の研究では、内的一貫性の尺度であるクロンバックのアルファは、Grit-Sが0.77、努力の忍耐力が0.75、関心の一貫性が0.66である。

結果

221人の研修医のうち、28人(12.7%)が抑うつ症状を有していた。年齢、性別、卒業大学、睡眠時間で調整した後のGrit-Sスコアが1単位上昇すると、抑うつ症状を有する確率が63%低下した(オッズ比[OR]:0.37、95%信頼区間[CI]:0.19-0.74)。さらに、努力の持続性下位尺度得点は、共変量調整後、抑うつ症状を有するオッズの低下と関連していた(OR:0.43;95%CI:0.22-0.84)。

考察

COVID-19パンデミック時に就職した研修医において、グリットスコアが高い研修医ほど抑うつ症状を経験する確率が低いことが明らかになった。特に、「努力の忍耐力」という下位尺度のスコアが高いほど、抑うつ症状のリスクが低下した。これまでの研究でも、大学生や専門学校生で同様の結果が得られているが、本研究は、これらの知見を研修医に適用した初めての研究の一つである。

この研究では、抑うつ症状に対するグリットの予防効果のメカニズムとして、マインドフルネス(今この瞬間に注意深く意識を向けること)の可能性が示唆されている。グリットのレベルが高ければ、マインドフルネスのレベルも高くなり、抑うつ症状からの保護に役立つ可能性がある。しかし、本研究ではマインドフルネスを測定していないため、さらなる研究が必要である。

グリットは2つの下位尺度(努力の忍耐力と関心の一貫性)から構成されているが、努力の忍耐力のみが抑うつ症状と負の関連を持つことがわかった。これは、医学生から研修医への移行はしばしばプライドをもたらし、努力の忍耐力が精神的健康に与える影響を高めるからかもしれない。

本研究には、単一施設での実施であること、横断的な研究であることなどの限界がある。さらに、研修医の4分の1が調査に参加しておらず、参加者のうつ病を診断していない。また、社会的望ましさバイアスが存在する可能性もあり、より好意的に見せようとする研修医がいるため、グリットが高くなり、うつ病のスコアが低くなる。

結論

研修医、特に研修開始時にグリットスコアが低い研修医に対して、定期的なメンタルヘルス評価を推奨している。抑うつ症状の早期発見により、タイムリーな介入が可能になるかもしれない。今後の研究では、勤務開始時のグリットスコアの高さが、その後の抑うつ症状のリスクの低さと関連するかどうかを検討すべきである。また、パンデミック時の医学部から研修医までのグリットスコアと抑うつ症状との関連についてもさらなる研究が推奨される。