医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

医学部入学当初からの「問診・身体診察」の指導と最終評価での「脱出ゲーム」の活用:日本における成果と教育的影響

Teaching “medical interview and physical examination” from the very beginning of medical school and using “escape rooms” during the final assessment: achievements and educational impact in Japan
Haruko Akatsu, Yuko Shiima, Harumi Gomi, Ahmed E. Hegab, Gen Kobayashi, Toshiyuki Naka & Mieko Ogino 
BMC Medical Education volume 22, Article number: 67 (2022) 

bmcmededuc.biomedcentral.com

背景
臨床医学の基本的な柱である問診と身体診察について、どの時期に教えるのが最も効果的であるかについてはコンセンサスが得られていない。 我々は、日本で「問診と身体診察」を医学部入学当初から教えることの影響を調査した。 また、「脱出ゲーム」と呼ばれる、シミュレーターを使用した時間制限のあるゲームベースのシナリオを、コースの最終評価の一部として使用することの教育的価値についても評価した。

方法
国際医療福祉大学(日本)の医学部1年生140名を対象に、模擬患者役の医師がコース終了時に問診能力を評価した。 身体診察能力は、「脱出ゲーム」チームタスク法を用いて評価した。 また、学生は「脱出ゲーム」の前後で、身体診察スキルに対する自信を自己評価した。 最終評価の前日、学生は匿名のコース評価に記入した。

*使用された3つの脱出ゲーム:

  1. 脱出ゲーム1(血圧測定スキル)
  • 学生は2人のチームメンバー、他グループの2人の学生、1つのシミュレーターアームの血圧を測定
  • 血圧シミュレーター5台を使用(BT-CEAB2)
  • 設定値±10mmHgの精度が求められた
  • 42/47チームが制限時間内に合格
  1. 脱出ゲーム2(呼吸・心臓の評価)
  • 5つの呼吸器シミュレーター(喘息、気胸、うっ血性心不全、徐呼吸、正常)
  • 5つの心臓シミュレーター(大動脈弁逆流、心房細動、PSVT、徐脈、正常)
  • 呼吸数測定、肺音・心音の評価が必要
  • 異常の有無とその内容を説明することが求められた
  • 40/47チームが制限時間内に合格
  1. 脱出ゲーム3(2セクション) 第1セクション:

第2セクション:

  • 5分間の質の高い胸骨圧迫の実施
  • QCPRで評価(80点以上が合格)
  • 45/47チームが制限時間内に合格

結果

  1. 出席率と最終成績
  • 受講生140名の平均出席率:95%
  • 平均成績:90.9点(範囲:60.3-100点)
  • 全学生が合格基準を達成
  1. 医療面接スキルの評価
  • 平均グローバル評価:4.6/6点
  • 評価の分布:
    • 最高評価6点(研修医レベル):22名(16%)
    • 境界線評価2点:4名(3%)
  • すべての録画評価は第二評価者によって確認され、評価の信頼性を確保
  1. 身体診察スキル(脱出ゲーム)
  • 脱出ゲーム1:42/47チーム合格
  • 脱出ゲーム2:40/47チーム合格
  • 脱出ゲーム3:45/47チーム合格
  • 未完了チームも追加時間(2-5分)で全課題を完了
  1. 学生の自己評価の変化
  • 身体診察スキルへの自信:
    • 実施前:49/100点(IQR 35-60)
    • 実施後:73/100点(IQR 60-81)
    • 顕著な自己効力感の向上が見られた
  1. コース評価(学生からのフィードバック)
  • 動機づけの向上:99%(回答率89%)
  • 興味深く有用:99%(回答率86%)

考察のポイント:

  1. 早期臨床教育の効果
  • 医学知識がない段階でも基本的な臨床スキルの習得が可能
  • 早期からの実践的経験が学習意欲を高める
  • バイリンガル教育の効果的な実施が可能
  1. 脱出ゲーム方式の教育的価値
  • 評価と学習の統合
  • チーム作業を通じた相互学習の促進
  • 実践的な状況下でのスキル適用の機会提供
  1. COVID-19パンデミックへの適応
  • 実際の患者接触の代替として効果的
  • シミュレーションベースの学習の有効性を実証
  • 感染対策と教育効果の両立を実現
  1. 教育的インパクト(Kirkpatrickの4段階評価モデルに基づく)
  • レベル1(反応):高い学生満足度
  • レベル2(学習):スキル習得の客観的評価で良好な結果
  • レベル3(行動):自己効力感の向上を確認
  1. 今後の課題と展望
  • 長期的な教育効果の検証の必要性
  • 臨床実習開始時の学生パフォーマンスへの影響評価
  • プログラムの一般化可能性の検討

結論
量的および質的データを分析したこの記述研究では、本コースが、総合的な医療面接と基本的な身体診察スキルを成功させるという意図した目的を達成するだけでなく、学生のモチベーションを向上させるものであることが示された。 コースの評価に使用された "脱出ゲーム"は、それ自体が学生の身体診察スキルの自己認識を高め、教育的価値を持つものであった。