医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

日本の卒後研修医制度における精神科ローテーションからの主観的達成感:質問紙による縦断的研究

Subjective achievement from psychiatry rotation in the Japanese postgraduate residency system: a longitudinal questionnaire study

Yusuke Matsuzaka, Koichi Taniho, Kengo Maeda, Shintaro Sakai, Toru Michitsuji, Eriko Ozono, Yoshiro Morimoto, Hirohisa Kinoshita, Kayoko Matsushima, Hisayuki Hamada, Akira Imamura, Hirokazu Kumazaki & Hiroki Ozawa 
BMC Medical Education volume 22, Article number: 646 (2022) 

 

bmcmededuc.biomedcentral.com

 

背景
2020年から日本の卒後研修医制度において精神科ローテーションが必須となった。精神科関連のコンピテンシー項目は研修医の必須項目として規定されている。本研究では,精神科ローテーションがこれらのコンピテンシー項目に対する研修医の主観的達成度に影響を与えるかどうかを明らかにすることを目的とした。

研究方法
本研究は,長崎大学病院精神科で2学年(2020~2021年)にわたってローテーションを行った大学院研修医を対象に,縦断的に実施された。調査は精神科ローテーションの開始時と終了時に実施した。研修医は,これらのコンピテンシー項目について,治療開始に関する主観的な理解と自信を6段階のリッカート尺度で評価した。各項目の平均点をローテート前とローテート後とで比較した。

結果
合計99名(91.7%)の研修医が本調査に回答した。研修医は、精神科関連のコンピテンシー項目のうち、主観的理解、治療開始への自信のいずれにおいても、ローテーション前と比較してローテーション後の方が有意に高いスコアを示した。また、多くの項目で強い効果量が認められた。

精神医学は、医学の中の様々な専門分野の一部に過ぎない。しかし、精神科医以外の多くの医師が精神医学的な内容を扱うことが期待されている。学生時代や研修医時代に何を教えるべきかという議論は続いているが、広く受け入れられる結論には至っていない。各国の医学部や大学院の研修カリキュラムの間でも、精神医学に関する教育内容にはかなりの違いがある。現在の知見を発展させるために、さらなる研究が必要である。

結論
研修医は精神科ローテーションにより、精神科関連コンピテンシー項目の学習が向上した。この結果は、現在の日本の卒後研修医制度において、精神科ローテーションを必須とすることが妥当であることを示唆している。今後、医学部・大学院教育において、精神医学の重要性はますます高まっていくと思われる。時代とともに変化する社会的ニーズに対応するため、教育戦略を継続的にアップデートしていくことが必要である。本研究は単一施設で行われたため、今回の知見を発展させるためには、多施設での研究が必要である。