医学教育つれづれ

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大学のキャンパス環境が保健医療専門職教育学生の社会文化的関与と満足度に及ぼす影響:帰属意識の役割

Influence of the university campus environment on sociocultural engagement and satisfaction of health professions education students: role of the sense of belonging
Salah Eldin Kassab, Ramya Rathan, Henk G. Schmidt & Hossam Hamdy 
BMC Medical Education volume 24, Article number: 1512 (2024) 

bmcmededuc.biomedcentral.com

背景
保健医療専門職教育(HPE)を受ける学生にとって、社会文化的能力は不可欠である。 しかし、大学のキャンパス環境と帰属意識、そしてHPE学生の社会文化的エンゲージメントとの関連は不明確なままである。 我々は、学生の社会活動への参加を促進する大学環境が、学生の社会文化的エンゲージメントを高め、それが学生の帰属意識を媒介として、最終的に大学生活への満足度を高めるという仮説を立てた。

研究方法
本研究は、湾岸医科大学のHPE学部生(n = 638)を対象とした。 学生の社会文化的エンゲージメントを測定するために、検証済みの質問票を用いた(13項目)。 さらに、支援的なキャンパス環境(8項目)、学生関係の質(4項目)、学生の帰属意識(5項目)、大学経験に対する学生の満足度(1項目)を測定するための尺度を用いた。 パス分析を用いて、研究変数間の関係を検討した。

*項目の内容

 

  1. 社会文化的関連性質問票(SESQ)。
  • 合計13項目で構成
  • 2つの主要な次元を測定:
    • 社会文化的相互作用 (8項目)
    • 社会文化的適応 (5項目)


  1. キャンパス環境尺度:
  • National Survey of Student Engagement (NSSE)の指標から適用
  • 支援的環境尺度 (8項目):
    • 学業成功の支援
    • 学習支援サービスの活用
    • 多様な背景を持つ学生間の接触促進
    • 社会的関与の奨励
    • 全体的な幸福感の支援
    • 非学術的責任の管理支援
    • キャンパス活動・イベントへの参加
    • 社会・経済・政治問題に関するイベントへの参加
  1. 学生関係尺度 (4項目):
  • 以下との関係の質を評価:
    • ピア(同級生)
    • 教員
    • 学術アドバイザー
    • 事務スタッフ
  1. 帰属意識尺度 (5項目):
  • 3項目は既存の検証済み尺度から採用:
    • "この大学にいることに感激している"
    • "この大学に適していると感じる"
    • "この大学で歓迎されていると感じる"
  • 追加の2項目:
    • "この大学は私のお気に入りの場所の1つである"
    • "この大学の一員であることを誇りに思う"

 

結果

  1. 直接効果について:
  • キャンパス環境が社会文化的関与に与える影響
    • 社会文化的相互作用への影響 (β=0.18, P<.001)
    • 社会文化的適応への影響 (β=0.24, P<.001)
  • 学生関係の質が社会文化的関与に与える影響
    • 社会文化的相互作用への影響 (β=0.29, P<.001)
    • 社会文化的適応への影響(β=0.26, P<.001)
  • 帰属意識への影響
    • キャンパス環境からの影響 (β=0.41, P<.001)
    • 学生関係の質からの影響 (β=0.35, P<.001)
  1. 間接効果について:
  • キャンパス環境→大学生活満足度 (β=0.21, P<.01)
  • 学生関係の質→大学生活満足度 (β=0.18, P<.01)

考察

  1. キャンパス環境と社会文化的関与:
  • Wengerの実践コミュニティ理論を支持する結果が得られた
  • 支援的な環境が学生の社会文化的活動への参加を促進
  • 多様な学生間の交流機会の提供が重要
  1. 学生関係の重要性:
  • 良好な対人関係が学習コミュニティへの参加を促進
  • ストレス軽減やバーンアウト防止にも寄与
  • 心理的安全性の向上を通じて学生の参加を促進
  1. 帰属意識の役割:
  • 大学生活満足度への直接的な影響が最も強い (β=0.50, P<.001)
  • キャンパス環境と満足度を媒介する重要な要因
  • バーンアウト防止や学業達成との関連も示唆
  1. 予想外の発見:
  • 社会文化的関与は学生満足度に直接的な影響を示さなかった
  • これは先行研究とは異なる結果であり、文脈や文化的要因の影響が示唆される

研究の限界:

  1. 横断的研究デザインによる因果関係の特定の難しさ
  2. 単一機関での調査による一般化可能性の制限
  3. アジアと中東からの学生が多いサンプルの偏り
  4. 自己報告式質問紙による主観的データの限界

実践への示唆:

  1. キャンパス環境の整備と学生支援の重要性
  2. 学生間の良好な関係構築を促進するプログラムの必要性
  3. 帰属意識を高めるための具体的な取り組みの重要性

結論
支援的なキャンパス環境と肯定的な学生関係は、HPE学生の社会文化的関与と帰属意識に有意に影響した。 さらに、帰属意識は部分的な媒介因子として機能し、キャンパス環境と学生関係の質を大学での経験に対する全体的な満足度に結びつけている。 学生の満足度は主に帰属意識によって左右されるが、社会文化的関与は大学経験に対する学生の満足度に直接大きな影響を与えなかった。