医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

臨床学習環境における空間に関する民族誌的研究

Placement or displacement: An ethnographic study of space in the clinical learning environment

Shalini Gupta,Stella Howden,Mandy Moffat,Lindsey Pope &Cate Kennedy

Published online: 01 Nov 2023

Cite this article https://doi.org/10.1080/0142159X.2023.2273783

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/0142159X.2023.2273783?af=R

 
DALL·Eによって生成された
 
 

はじめに

医学教育における実習ベースの学習の重要性と、現代の医療環境において質の高い臨床教育を維持するための課題について論じる。
学習やウェルビーイングに影響を与えるにもかかわらず、見過ごされがちな臨床学習における物理的空間について研究する必要性を強調する。

研究方法

研究の設定:スコットランドの教育病院の2つの病棟で実施。
データ収集:非参加型の観察と面接を実施。約120時間の観察と34回の面接が行われた。
データ分析:観察記録とインタビュー記録をActor-network Theory (ANT) と Social Cognitive Theory (SCT) を用いて分析し、空間的属性とそれらが教育と学習に与える影響に焦点を当てた。

分析結果

  1. 空間属性による教育と学習の可能性の促進または制約

    • 一部の空間は教育と学習の機会を提供するが、不適切な空間はこれらを制限する。
    • 教育に適した空間の重要性が強調されている。
  2. 不十分な空間が学生や初期研修医の価値感覚に及ぼす影響

    • 不十分な空間は、学生や初期研修医が自分自身を価値のある一員と感じることを妨げる。
    • 物理的な場所の欠如が自尊心や所属感に影響を与える例が示されている。
  3. 短い臨床ローテーションが医師の空間所有感に与える影響

    • 短期間の臨床ローテーションは、医師がその場所に対する所有感を持つことを困難にする。
    • この所有感の欠如は、教育の質と学習経験に影響を及ぼす。
  4. 臨床学習環境における空間の競合性質

    • 空間は医療現場のさまざまなアクター間で競合する資源である。
    • この競合は、教育活動と他の医療活動との間のバランスを取る必要性を示している。


ディスカッション
不適切な空間配置が医学生や若手医師の学習やウェルビーイングにどのような影響を与えうるかを探る。
効果的な学習と交流を促進するために、臨床現場における適切な空間の必要性を論じる。

 

望ましい空間の特徴
・プライバシーと機能性の確保

 医師や学生が討論や患者との対話を行う際にプライバシーを保ちやすい空間が必要です。
 機能的な空間の設計は、効率的な作業と学習に寄与します。

・十分な広さと快適性

 空間は十分な広さを持ち、快適な環境であることが重要です。
 医師や学生がストレスなく作業や学習を行える空間が求められます。

・適切な設備の配置

 必要な機材や備品が適切に配置されていることが望ましいです。
 教育や診療に必要な技術的なサポートが整っていることが重要です。

優れた例
・十分なスペースとプライバシーを提供する医師の部屋

 医師が患者情報を扱う際にプライバシーを保つことができ、十分なスペースがあること。
 患者や他のスタッフとのコミュニケーションがしやすく、作業効率が高い環境。

・多目的に利用できるデモンストレーションルーム

教育活動やチームミーティングなど、様々な目的に使用できる柔軟な空間。
必要に応じてプライバシーを確保しつつ、開放的な討論や学習が行える環境。

 

結論
本稿の結論は、空間(またはその欠如)が臨床学習環境における学生や医師の学習と経験に強力な影響を与えるという予測である。提供された「豊かな記述」は、医療従事者と学生の日常的な生活実態と、臨床の場における社会物質的な既成概念に光を当てるものである。本研究は、空間の地位を人間の行動の背景から、学生の学習と幸福の重要な主体へと高めている。この研究は、ワーク・ベースド・ラーニングを成功させるためには、労働力を超えたところに焦点を当て、教育のためのキャパシティや資金を検討する際に、教育空間に対する明確な概念化と投資を含める必要があることを強調している。