医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

臨床医が教育者になったとき、エビデンスに基づく実践の原則はどうなるのか?学習スタイル・ニューロミスのケーススタディ

What Happens to the Principles of Evidence-Based Practice When Clinicians Become Educators? A Case Study of the Learning Styles Neuromyth
Anish Patil & Philip M. Newton 
Medical Science Educator (2023)

link.springer.com

 

はじめに
学生一人ひとりの「学習スタイル」に教育実践を合わせるというアプローチは、効果がなく、有害でさえあることが繰り返し示されてきた。しかし、教育者の大多数は、それが効果的なアプローチであると考えているようである。医療専門職教育における学習スタイル理論の位置づけは不明である。

調査方法
医療専門職の教育者を対象に、学習スタイル理論が効果的であると信じているかどうか、またその信念が行動に結びついているかどうかを調査した。また、学習スタイル理論に関する知識を検証した。

結果
参加者の87.4%が学習スタイルについて知っているが、具体的なモデルについての知識は様々である。69.9%の参加者が学習スタイル理論が効果的であると信じているが、実際に使用しているのは3分の1のみであった。

考察

調査によると、医療教育関係者の69.9%が、学習スタイル(個人には好みの学習方法があるという理論)を信じており、33%が教育実践に利用したことがあることがわかった。この割合は、高等教育全体における教育者の使用率と一致している。この調査では、学習スタイルを使用する理由として、個人に合わせた学習ができること、使用していないことへの認識不足などが挙げられている。興味深いことに、学習スタイルを教育に活用している人たちは、必ずしもそのモデルを正しく認識している率が高いわけではなく、学習スタイルのより包括的な理解が教育者の間で一般的でない可能性が示唆された。

この研究の限界としては、脱落率が27.8%であったこと、コンビニエンス・サンプリングを用いたことなどが挙げられる。また、学習スタイルモデルの「ミックス・アンド・マッチ」テストにも問題があり、潜在的なバイアスが示唆された。この研究の著者は、ラーニング・スタイルを占いに例えた。また、学習スタイルとは何か、どのように適用すべきかについて、普遍的な合意がないことも指摘している。

この研究では、医療におけるエビデンスに基づいた教育実践の重要性が強調され、現在の実践が必ずしも医療と同じ厳密さで精査されていないことが指摘された。また、学習スタイル理論に対する誤解を招くような肯定的な見方が文献の中に蔓延しており、教育者を誤った方向に導く可能性があることを示唆した。この研究はまた、学習スタイルの使用を医療におけるプラセボ治療の使用と比較しており、同様の動機が働いている可能性を示唆している。

研究の結論は、学習様式は医療教育において、多くのレベルのトレーニングで広く使用されているというものであった。医療における学習スタイルの普及率は、他の高等教育分野と同様である。著者らは、エビデンスに基づく教育への認識を促進し、エビデンスに基づかない実践を強調するためのさらなる努力を求めた。