医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

「しかし、もし何かを見逃してしまったら・・・」:意思決定におけるコストの考慮が医学生に与える影響要因

‘But what if you miss something …?’: factors that influence medical student consideration of cost in decision making
Emmanuel Tan, Wei Ming Ng, Poh Choong Soh, Daniel Tan & Jennifer Cleland 
BMC Medical Education volume 23, Article number: 437 (2023)

bmcmededuc.biomedcentral.com

背景
コストを意識した医療は、医療の持続可能性にとって重要であるが、ほとんどの医師が臨床上の意思決定においてコストを考慮していないことを示す証拠がある。この状況を変えるためには、コストを考慮した医療に関連する行動や意識を促すための障壁を理解することが重要な一歩となる。そこで我々は、「救急医療(emergency medicine:ED)の臨床的意思決定においてコストを考慮することに影響を与える要因は何か」という研究課題に取り組むために、質的研究を実施した。

方法
本研究は、患者さんのエピソードを用いた質的なフォーカスグループ研究であり、コストを考慮した臨床的意思決定に対する姿勢を探るものである。学生は、有料医療制度があるシンガポールの医学部4年生と5年生である。データ駆動型の初期データ分析の後、コストを意識したケアに影響を与える多数の要因を理解するために、二次データ分析の基礎としてFishbeinの行動予測の統合モデルを選択した。

結果

本研究では、21名の医学生を対象に4回のフォーカスグループディスカッションを行い、臨床的な意思決定にコストを取り入れることに対する彼らの意見を探った。行動予測の統合モデルに関連する5つの主要なテーマが特定された:

臨床的な意思決定にコストを組み込むことに対する態度:学生は圧倒的に、特定の検査を実施しなかった場合に予想されるネガティブな結果に焦点を当て、患者の安全性と転帰に最大の関心を寄せていました。コストを考慮することは、臨床的な意思決定プロセスには含まれず、管理的な問題とみなされていた。

規範的信念:自分が何をすべきかについての学生の認識は、他の人(主にコンサルタントや他の医療スタッフ)がしていることを見て影響を受けていた。他の人が同じことをしていれば、特定の検査を指示する傾向があった。また、患者もコストに対する学生の態度を形成する上で一役買っており、学生はコストについて患者に知らせ、治療の方針を決定させるべきだと考えていた。

自己効力感の信念:学生は自己効力感が低く、コストに配慮した医療を提供するための自分の判断力や能力を疑っていた。また、救急外来では自分たちの権限が弱く、上級医に判断を仰ぐ必要があると感じていた。また、患者さんに害を及ぼす可能性のある何かを見逃してしまうことを恐れ、過剰に調査する傾向があった。

スキルや知識:学生は、機器や一般的な検査や放射線検査にかかる費用について、限られた認識しか持っていなかった。正確な費用を知らされたとき、彼らは驚きました。学生たちは、その作業が必要かどうかを判断することよりも、機器をうまく使えるようになることに主眼を置いていました。

環境の制約:リソースに制約のある公立病院での研修であることを認識していたにもかかわらず、学生たちは、機器や検査の費用は救急外来診療費に含まれているため、気にする必要はないと主張した。私立病院では、コストに対する考え方が異なるかもしれないとのことでした。

考察
本研究では、有料公的医療制度における医学生が、臨床的な意思決定においてコストの考慮を怠ることが多い理由を調査しました。その結果、一般的な医療機器や処置のコストに関する認識不足と、患者の安全性を強く意識すること(過剰調査の側に立つこと)が、この行動に影響を与えていることが示唆された。学生は、コストに関する配慮を臨床的なものというより、管理的な関心事として捉えていることが多かった。また、臨床上の悪い結果や非難の可能性を恐れることも、彼らの意思決定に影響を与えた。本研究では、コストを意識したケアに関する正式な教育の必要性が強調されている。学生には、ケアのコストだけでなく、コストと患者にとっての価値のバランスをとる方法を教える必要があることが示唆されている。本研究は、特定の環境(救急部)と参加者グループ(医学生)により、一般化可能性に限界があることを認めている。そして、医学教育におけるコストと価値に関するより広範な対話の必要性と、それが医療教育と医療提供の価値の向上にどのように貢献できるかを強調することで結んでいる。