医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

医療研修中の個人的なキャリア決定は困難ではないが複雑ではある。

Personal career decisions during medical training are not complicated, they are complex
Lea Lea Harper, Janeve Desy, Melinda Davis, Sarah Weeks, Kevin McLaughlin
First published: 18 June 2024 https://doi.org/10.1111/medu.15466

https://asmepublications.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/medu.15466?af=R

 

背景

医学研修が成功したとみなされるためには、適切な臨床判断を行うために必要なスキルを身につけることに加えて、研修生は適切な個人的判断を行う方法を学ばなければならない。 このような意思決定は、キャリア選択の満足度、ワークライフバランス、長期にわたって臨床成績を維持・向上させる能力などに影響し、将来のウェルネスに影響を及ぼす可能性がある。 方法 ビジネス界に由来するCynefinフレームワークは、明確、複雑、複雑、混沌、混乱の5つの意思決定領域を記述しており、このフレームワークの重要な推論は、まず意思決定領域を特定することで意思決定を改善できるということである。 個人の意思決定は大部分が複雑であるため、線形意思決定戦略を適用しても、この領域では役に立ちそうにない。

*Cynefinフレームワーク

以下の5つの意思決定ドメインで構成されています:

明確(Clear)

 原因と結果の関係が明確で予測可能。標準的な手順やベストプラクティスに従うことで解決できる問題。

複雑(Complicated)

原因と結果の関係が存在するが、専門知識や分析が必要。複数の正しい解決策が存在する可能性がある。

複合的(Complex)

原因と結果の関係が予測不可能で、相互作用する多くの要因によって影響される。解決策は状況に応じて進化する。

混沌(Chaotic)

 緊急事態や新しい挑戦に直面し、既存のルールや手順が通用しない状況。迅速な行動が求められる。

混乱(Confusion)

どのドメインに属するかが不明確な状況。まずは状況を特定し、適切なドメインに移行することが必要。

Cynefinフレームワークの適用

臨床教育: フレームワークを使用して、学生や研修医が異なる意思決定ドメインにおけるスキルを学ぶ機会を提供します。例えば、基礎的な手順(明確)から、複雑な臨床ケース(複雑)までの幅広い経験を積むことが重要です。

個人的な意思決定: キャリア選択やワークライフバランスなどの個人的な意思決定は複合的であり、直線的な意思決定戦略は適用できないため、メンタリングやサポートを通じて適応的に管理する必要があります。

 

結果

利用可能なデータは、個人の意思決定の結果が最適でないことを示唆しており、著者らはこれらの結果を説明する3つのメカニズムを提案している

1. 属性代替(Attribute Substitution)

属性代替は、複雑な意思決定において、難しいターゲット属性をより簡単なヒューリスティック属性に無意識のうちに置き換える現象です。これは特に、経験が乏しい場合や時間的制約がある場合に起こりやすいです。例えば、医学生が最も満足度の高い専門分野を選ぶ際に、その代わりに最も権威があるか高収入の分野を選んでしまうことがあります。このように、複雑な質問を簡単な質問に置き換えることで、後に選択に対する不満が生じる可能性があります。

2. 認知バイアス(Cognitive Biases)

複雑な意思決定は、さまざまな認知バイアスの影響を受けやすいです。具体的には以下のようなバイアスがあります:

直線的投影の誤謬(Linear Projection Fallacy): 将来の状況が現在のままであると仮定し、将来の結果を過去の傾向の延長と考えてしまうこと。

到着バイアス(Arrival Bias): 重要な目標を達成することが持続的な幸福をもたらすと誤信すること。

計画錯誤(Planning Fallacy): 将来のタスクの利益を過大評価し、コストや時間を過小評価すること。

楽観バイアス(Optimism Bias): 将来の状況が不確定である場合に、自分の能力を過大評価し、リスクを過小評価すること。

3. 複雑な決定の高い失敗率(Higher Failure Rate of Complex Decisions)

複雑な決定は、長期間にわたる動的な人と状況の相互作用によって特徴付けられます。これにより、次の理由で失敗しやすくなります:

長いフォローアップ期間: 決定が長期間にわたって影響を受けるため、失敗の機会が増える。

人と状況の変化: 時間の経過とともに、人や状況、またはその相互作用が変化することで、決定の結果が予測困難になる。

複数の失敗経路: 複雑な決定には、失敗に至る多くの異なる経路が存在し、そのために失敗のリスクが高まる。

考察

属性代替医学生が最も権威のある専門分野や高収入の分野を選ぶことが、結果的に満足度を下げる可能性があると指摘しています。

認知バイアス:将来の仕事と生活のバランスを過大評価し、現実とのギャップが不満やバーンアウトを引き起こす可能性があります。

複雑な決定の高い失敗率医学生や医師の個人的な意思決定は、時間とともに変化しやすく、そのため失敗する可能性が高いとされています。

改善策

計画された普遍的な介入:専門分野の選択など、固定されたタイムポイントでの意思決定に対する計画的な介入。

オンデマンドのターゲット介入:個別のニーズに応じたメンタリングとサポートを提供することが重要とされています。

医学教育への影響

医学生や研修医が複雑な個人的意思決定をうまく管理できるようにするためには、意思決定ドメインを特定することが重要です。複雑な決定は認知バイアスの影響を受けやすいため、これらのバイアスについての認識を高めることが重要とされています。さらに、個人的な意思決定の結果は時間とともに変化するため、追加の介入が必要になる可能性があります。