医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

医学部1年生の語りにおけるインポスターの感情の調査

Investigating feelings of imposterism in first-year medical student narratives
Megan E. Kruskie, Richard M. Frankel, J. Harry Isaacson, Neil Mehta, Jessica N. Byram
First published: 15 September 2024 https://doi.org/10.1111/medu.15533

https://asmepublications.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/medu.15533?af=R



はじめに インポスター現象(IP:Imposter phenomenon)とは、自分の居場所がないかのように感じる現象で、医学生において様々な割合で報告されている。 医学文献では、この現象はしばしば「症候群」として定義されているが、他の研究では、異なる時点で異なる人々に様々な影響を与えうる動的な経験として記述されている。 IPは研修医や医師の燃え尽き症候群など他の現象とも関連しているが、その病因や医学生がこの感情をどのように経験するかを検討した研究はない。

方法

社会的アイデンティティ理論を枠組みとして用い、著者らは2施設の医学生の8つのコホートにおいて、IPの要素について233の内省的エッセイを分析した。 学生は、「医師になるために変えなければならないと思った自分のアイデンティティの一部分は何か」という質問に対して回答した。

結果

121の内省文(52%)にIPの要素が確認され、3つの主要なテーマに分類された

a) 理想的な医学生像との比較:

  • 医学生は極めて知的であるべきという思い込み
  • 「理想的な」医学準備コース経験(豊富なシャドウイングやボランティア経験など)との比較

b) 理想的な医師像との比較:

  • 期待される性格特性:外向的、自信に満ちた、厳格な、決断力のある等
  • 医師の役割と社会的地位:低所得層出身や少数派であることによる不適合感
  • ワークライフバランス:医師は仕事中心の生活を送るべきという認識

c) 他者への自己呈示に関する懸念:

  • 印象管理:医療専門家に期待される姿に合わせて自己を演出する必要性
  • 不適格感:他者の期待に応えられないという感覚

考察:

  1. IPの普遍性:
    • 両大学の学生に共通して見られたことから、IPは医学生にとって一般的な経験である可能性が高い。
    • 人口統計学的変数(人種/民族、社会経済的地位、性別など)よりも、教育環境の構造や文脈がIPの発生により大きな役割を果たしている可能性がある。
  2. IPの捉え方:
    • IPを「症候群」としてではなく、新しい経験や役割、期待に直面したときに変動する「状態」として捉えるべき。
    • これは病的なものというよりも、理想的な役割モデルと自己を比較する際の正常で予測可能な結果である。
  3. 理想化された医師像の影響:
    • テレビドラマなどのメディアが医師の理想像形成に影響を与えている可能性がある。
    • この理想像と自己との不一致がIPの一因となっている。
  4. ワークライフバランスの問題:
    • 学生は医師としてのキャリアと個人的な生活のバランスに懸念を抱いている。
    • これは世代間の価値観の違いや、バーンアウトに関する認識の高まりを反映している可能性がある。
  5. 印象管理とアイデンティティ形成:
    • 学生は医療専門家としての期待に応えるために、自己の一部を隠そうとする傾向がある。
    • これは専門的アイデンティティの形成過程での課題となる可能性がある。
  6. 構造的要因の影響:
    • 特に少数派や社会経済的に不利な立場にある学生にとって、医療分野での代表性の欠如がIPの一因となっている可能性がある。