医学教育つれづれ

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懸念すべきなのか?ドメスティック・バイオレンス研修における医学生のウェルビーイングに関する教育者の認識に関する質的研究

Should we be concerned? A qualitative study of educators’ perceptions of medical student wellbeing in domestic violence training
Jennifer Margaret NeilORCID Icon,Christopher BartonORCID Icon &Kelsey HegartyORCID Icon
Published online: 14 Aug 2023
Download citation https://doi.org/10.1080/0142159X.2023.2244664 

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/0142159X.2023.2244664?af=R

 

はじめに
ドメスティック・バイオレンス(domestic violence:DV)はオーストラリア社会では一般的であるため、DVの影響を個人的に受けている医学生がいる可能性が高い。このような学生の中には、DVのトレーニングに直面し、あるいは再トラウマ化する者もいるかもしれない。トラウマ・インフォームド・ケアの原則を活用したトラウマ・インフォームド医学教育(trauma-informed medical education:TIME)の枠組みは、このような学生のリスクを最小限にする可能性がある。我々は、オーストラリアの医学部におけるDV研修における学生のウェルビーイングに関する教育者の認識を調査することを目的とした。

 

方法
この記述的質的研究は、解釈主義的方法論とTIMEの枠組みを用いて、オーストラリアの医学部でDVを教えた経験のある13人の教育者にインタビューを行った。インタビューデータを主題分析し、テーマを特定した。

結果
4つの主要なテーマは、(1)深いところから放り込まれた教育者、(2)学生の精神的安全の維持、(3)トラウマに配慮した学習環境、(4)学生のDV開示の課題、であった。DVに関する研修を受けている参加者はほとんどいなかった。教育者は、学生の精神的安全性を高めるために、引き金となる警告やグランドルールといった方法を用いていた。経験豊富な教育者は、学生からのDVの開示に対処し、それが役割の混乱につながった。

 

考察

本研究は、オーストラリアの大学の教育者が、ドメスティック・バイオレンス(DV)研修中の医学生の幸福をどのように認識しているかについて掘り下げたものである。

 

準備不足

教育者はDVを教える準備ができていないと感じることが多く、これは医師のDV教育レベルの低さを反映している。

 

感情的安全性

DV教育における精神的安全性を確保するためには、学生に対する適切な準備が必要である。
引き金となる警告は、学生が苦痛を伴う内容に対して精神的な準備をすることを可能にするため、その価値が認められている。
医学生はこのようなデリケートな話題に直面すべきだという意見もあるが、学生には再トラウマを与える可能性のある内容を避ける選択肢があるべきだという意見もある。
教育者は、学生の幸福を維持するために、特定のトレーニングセッションを選択できないようにすることもある。

 

トラウマに配慮した学習環境

現在、トラウマに配慮した学習環境を確保するために、基本的なルールを設定するなどの場当たり的な方法が用いられている。トラウマ・インフォームド・ケアの原則を統合したTIMEフレームワークの認識と適用を高めることが、DVの医学生のトレーニングに必要である。

 

学生の情報開示

DV教育者は、学生がDVの個人的な経験を開示する場面にしばしば遭遇する。学生とは医師と患者という関係ではないため、教育者は支援サービスを認識し、役割の混乱に注意することが不可欠である。教育者自身も、暴力を受けた生徒と共感的に関わることで代理的トラウマを経験する可能性があるため、支援を求める手段が必要である。

 

強みと限界

本研究の参加者は限定的であったが、彼らの経験の多様性が結果の移植性を高めている。
本研究は、学生からの直接的なフィードバックではなく、教育者の認識に依拠している。
COVID-19の大流行中に研究を実施し、インタビューをオンラインで行ったことが、参加者の記憶や認識に影響を与えた可能性がある。

 

結論

教育者はDV研修において学生の幸福を考慮する努力をしているが、そのアプローチは一貫しておらず、しばしば即興的である。医師に対するDV研修の充実と、医学カリキュラムにおけるTIMEの枠組みのより良い統合が明らかに必要である。今後の研究では、デリケートな話題の授業中の学生の認識や実際の授業観察に焦点を当てるかもしれない。この研究は、医学教育において、特にDVのような感情を揺さぶるテーマを扱う場合、トラウマに配慮したアプローチの重要性を強調している。