医学教育つれづれ

医学教育に関する論文のPOINTを書き出した備忘録的なブログです。

指導医の職業的アイデンティティ形成:4S転移フレームワークを用いた探索的研究

Clinical teachers’ professional identity formation: an exploratory study using the 4S transition framework
AASA Santhi Sueningrum1, Marcellus Simadibrata2 and Diantha Soemantri3

 

www.ijme.net

目的

本研究の目的は、指導医における専門家としてのアイデンティティ形成に影響を与える可能性のある要因を、特に実務家から教師への移行期において探索することであった。

変化に対応する能力は人それぞれであり、この能力は 4S の枠組みを使って調べることができる。シュロスバーグは、4 つの要因が個人の変化に対処する能力に影響を及ぼす可能性があると仮定している。

(1) 状況要因は、変化プロセスの特性 (たとえば、移行の引き金) に関係する。 
(2) 自己要因は、変化に対する個人の認識に影響を与える可能性のある個人的な特性 (たとえば、自己効力感、動機づけ) に関連するものである。
(3)支援要因は、変化プロセスを通じて個人の幸福を確保する上で重要な役割を果たす(例えば、社会的支援);そして 
(4)戦略因子には、変化の過程で発生しうるストレスを予防・緩和するための戦略(例:対処戦略)が含まれる

Browneらは4Sの枠組みを用いて、臨床医から教師へと移行する医学教育者を自認する上級医学教育者の成功に寄与する潜在的な要因を探った。その結果、Browneらは移行が成功する主要因を以下のように特定した。(1) 自己要因として医学教育者という職業に個人的価値を見出す能力、(2) 状況要因として医学教育に携わることへの自制心、(3) 支援要因として役割の変化を経験する上での個人的支援、そして (4) 戦略要因として医学教育における情報、ネットワーク、自己啓発、認知を創造的にかつ積極的に求めることである.

方法

本研究は、記述的質的研究である。シュロスバーグの4Sフレームワークを用いて、状況、自己、支援、戦略からなる影響力のある要因を探った。本研究は、インドネシアのバリ島にある比較的新しい私立医科大学の教育病院で実施された。参加者は30名の臨床教員で、勤務経験の長さ、性別、コーディネーターとしての教育的役割、および臨床の専門性に基づいて最大変動サンプリング戦略を用いて選出された。データは、3回のフォーカス・グループ・ディスカッションと13回のデプスインタビューから得られた。データの分析には、主題分析法を用いた。

結果

テーマ分析の結果、4Sフレームワークに関連する12のサブテーマが、指導医のアイデンティティ形成に影響を与えていることが明らかになった。また、自己要因と戦略要因にそれぞれ含まれる「内省的能力」と「実践共同体」が、専門家としてのアイデンティティの形成における移行期の2大要素であることが示された。

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結論

本研究で用いた4Sの枠組みは、臨床教員に移行する臨床医のプロフェッショナル・アイデンティティの形成に影響を与える要因や、ニーズに応じたFDプログラムの作成の重要性を包括的に説明する上で有用なパラダイムであることがわかった。本研究では、正式なFDプログラムに実践の共同体を組み込むこと、また教員に相互フィードバックのプロセスと省察的実践スキルを身につけさせることの重要性を明らかにし、これらはすべて教育ポートフォリオの作成を通じて磨くことができることを示した。本研究で明らかにした要因は、東洋の教育文化と比較的新しい医学部における臨床教師の視点に由来するものであり、FDと臨床教師の専門家としてのアイデンティティ形成に関する幅広い文献に追加されると考えている。